・RET肺がんにセルペルカチニブを始めたあと、中枢神経系転移はどうなるか

 セルペルカチニブを使用しているRET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がん患者さんにおいて、中枢神経系転移(脳転移+脊髄転移+髄膜癌腫症)がどの程度制御されているかを調べた研究です。

 データを見る限り、治療開始から1年間と短い観察期間ではありますが、セルペルカチニブ開始前に中枢神経系転移がなかった患者さんでは1年間は全く中枢神経系転移が発生しなかったというのはうれしい結果です。一方、セルペルカチニブ開始前に中枢神経系転移があった患者さんでも、1年間中枢神経系病巣の制御が得られた患者さんが半数以上に上るとのことです。RET肺がんに対するセルペルカチニブは、中枢神経系転移巣に対する奏効割合が80%を超えるということはもともと知られていましたが、中枢神経系への有効性をさらに補完するデータです。

 

 

 

Central nervous system (CNS) outcomes and progression patterns in patients with RET fusion-positive lung cancers treated with selpercatinib.

 

Yonina R. Murciano-Goroff et al.

2022 ASCO Annual Meeting abst.#3109

DOI: 10.1200/JCO.2022.40.16_suppl.3109

 

背景:

 RET阻害薬であるセルペルカチニブは、RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんの治療薬として承認されている。この薬は脳転移のある患者の脳転移巣に対して有効(頭蓋内奏効割合82%)であることが知られている一方で、

1)脳転移のない患者における中枢神経系への有効性

2)脳転移のある患者における中枢神経系病巣の病状進行パターン

についてはよく調べられていない。

 

方法:

 薬事承認を目指したLIBRETTO-001試験と、(薬事承認に至るまでの倫理供給を主目的とした)多施設共同拡大アクセスプログラムであるLIBRETTO-201試験では、RET融合遺伝子陽性進行肺がん患者に対してセルペルカチニブを使用し、前向きにデータを収集した。両試験の患者適格基準を満たしていることに加え、セルペルカチニブ開始前に脳転移の有無が確認されていて、治療開始後中枢神経系を含む各臓器の定期画像診断を受けた患者を対象とした。2020年11月24日をデータカットオフ日とした。患者死亡イベント、中枢神経系以外の部位における病勢進行イベントを、競合リスクに設定して、競合リスクモデルのもとに病勢進行イベント累積発生率(cumulative incidence rates, CIRs)を算出した。中枢神経系とその他の部位に同時に病勢進行イベントが発生した場合には、中枢神経系における病勢進行と判定した。

 

結果:

 62人(LIBRETTO-001から48人、LIBRETTO-201から14人)が参加した。年齢中央値は64歳、女性が32人(52%)、非喫煙者が47人(76%)だった。RET融合遺伝子の5’側融合パートナーはKIF5Bが68%を占めていた。セルペルカチニブ導入前に施行された前治療の中央値は2レジメン(1-11)、マルチキナーゼ阻害薬による前治療を受けていた患者が34%含まれていた。通算の前治療継続期間中央値は21.8ヶ月だった。31人(50%)の患者では、セルペルカチニブ開始前に脳転移巣を認めず(non-BM群)、この集団における中枢神経系のCIRはセルペルカチニブ開始後6ヶ月、12ヶ月時点でいずれも0%であり、この期間内に新たな中枢神経系転移を来した患者はいなかった。non-BM群31人中9人(29%)で病勢進行を認めたが、中枢神経系以外の病巣によるものだった。セルペルカチニブ開始前に脳転移巣があった患者群(BM群)31人のうち、12人(39%)で中枢神経系転移巣への放射線治療歴があり、3人(10%)で中枢神経系転移巣に対して外科手術が行われていた。データカットオフ時点で、23人の患者で病勢進行を認め、8人では中枢神経系とそれ以外の部位で同時に病勢進行イベントが発生しており、6人は中枢神経系のみ、9人は中枢神経系以外でのみ病勢進行イベントが発生していた。結局のところ、BM群31人のうち17人(55%)では中枢神経系での病勢進行を認めなかった。BM群における中枢神経系のCIRは6ヶ月時点で6.7%、12ヶ月時点で27.4%だった。

 

結論:

 本研究の観察期間中、RET融合遺伝子陽性肺がん患者のうちセルペルカチニブ開始前に中枢神経系転移がなかった患者では、治療中に中枢神経系転移の新規発生は見られなかった。セルペルカチニブ開始前に中枢神経系転移があった患者では、かなりの数の患者で中枢神経系転移による病勢進行が見られなかった。

 

 

 

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