今回の臨床試験は、スローンケタリング記念がんセンター単施設におけるランダム化第II相比較試験だったようですが、単施設で企画された試験としては対象患者数が160人と大規模です。
非小細胞肺がんと乳がん患者双方を対象としているので、単施設での取り組みでもなんとか患者が集まるのでしょう。
また、転移巣全てを対象とするのではなく、増大傾向にあるか、PETで活動性が高いと判断された病巣のみを定位照射対象としているところに独自性があります。
増大傾向にある、活動性が高いという判断には施設間、担当医間でバラツキが出ることが容易に想像されますので、そうした点では単施設で検証することに意味があるでしょう。
それは、裏を返せば、今後第III相多施設共同臨床試験を行うには相当練り上げたプロトコールと品質管理が必要だということでもあります。
興味深いことに、非小細胞肺がんと乳がんでサブグループ解析を行うと、非小細胞肺がんではオリゴ転移巣に対する定位照射で無増悪生存期間が延長し、乳がんではそうならなかったそうです。
筆頭演者へのインタビュー動画を拝見すると、乳がん患者ではプロトコール治療後の追跡期間中に、もともと安定していると考えていた転移巣が進行していたり、あるいは新規転移巣が出現したりで、結局対象患者の90%が短期間で病勢進行に至ったとのことです。
一方、非小細胞肺がんではそうした現象は見られなかったそうです。
非小細胞肺がんと乳がんの比較において、乳がんの方がよりアグレッシブな進行をする、という論調には簡単には賛同しかねるものの、今回の治療コンセプトにより対象となった非小細胞肺がん患者の無増悪生存期間が2ヶ月ちょっとから11か月まで延長したのは素直に喜ばしいことでした。
また、今回の治療コンセプトで、増悪していない転移巣に対しては現在施行中の薬物療法を継続しながら、増悪している病巣のみを選択して定位照射で制御することにより、時間的・空間的な多様性を示すがん転移巣に対する対処となりうることを示しています。
定位照射に引き続き免疫チェックポイント阻害薬を適用したら効果が増強されるのではないか、など、個人的には魅力的な治療と感じました。
Consolidative Use of Radiotherapy to Block (CURB) Oligoprogression: Interim Analysis of the First Randomized Study of Stereotactic Body Radiotherapy in Patients With Oligoprogressive Metastatic Cancers of the Lung and Breast
C.J. Tsai et al.
ASTRO’s 63rd Annual Meeting (October 24-27, 2021), Abst.#LBA3
目的:
増悪傾向を示す転移巣のみに局所療法を行うことにより病勢コントロールが得られるという、oligoprogressive stateという現象が進行がんで認められると仮説を立てた。そのため今回の臨床試験では、増悪傾向を示す転移巣が1-5ヶに限られる進行非小細胞肺がんおよび進行乳がんの患者を対象に、これら病巣に対して定位放射線照射を行うことの有用性を評価した。
方法:
1レジメン以上のがん薬物療法を施行され、かつ定位放射線照射の適応があるoligoprogression転移巣を有する進行非小細胞肺がん患者および進行乳がん患者を対象とした。ここで、oligoprogression転移巣(以下OP巣)は、RECISTもしくはPET-RECISTの規定に沿った総計5ヶ以下の個別の転移巣と定義した。層別化因子には、OP巣の個数(1ケ vs 2-5ケ)、前治療の内容(免疫チェックポイント阻害薬 vs その他)、原発巣(非小細胞肺がん vs 乳がん)、原発巣の性質(ドライバー遺伝子変異の有無やホルモンレセプターの発現状態)を規定した。対象患者は、OP巣に対する定位放射線治療+標準治療(SBRT+SOC)群と標準治療(SOC)群に、1:1の割合で無作為に割り付けられた。どのような標準治療を適用するかは、担当医に一任された。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)とした。ランダム化第II相試験デザインを適用し、片側検定としてαエラー=0.05、検出力=0.08に設定、目標患者数は160人とした。PFSは片側層別化ログランク検定を用いて比較した。中間解析を1回設けた。
結果:
2019年1月から2021年5月にかけて、102人の患者を集積した。58人は非小細胞肺がん患者(30人がSBRT+SOC群、28人がSOC群)、44人は乳がん患者(22人がSBRT+SOC群、22人がSOC群)だった。年齢中央値は67歳、ほとんどの患者(75%)は2ケ以上のOP巣を有し、47%の患者はOP巣も含めて6ケ以上の転移巣を有していた。55人(54%)の患者は免疫チェックポイント阻害薬治療歴があった。非小細胞肺がん患者のほとんど(86%)はドライバー遺伝子変異がなく、乳がん患者の32%はいわゆるトリプル・ネガティブ(ER,PgR,HER2発現なし)だった。背景因子は両治療群間でバランスがとれていた。観察期間中央値51週の時点で、71人の患者で病勢進行を認め、30人の患者は死亡していた。PFS中央値はSBRT+SOC群で22週、SOC群で10週だった(p=0.005)で、SBRT+SOC群で有意に延長していた。この結果は、非小細胞肺がん患者における成績に起因していた(SBRT+SOC群で44週、SOC群で9週、p=0.004)。乳がんでは、PFS中央値はSBRT+SOC群で18週、SOC群で17週、p=0.5と両群間に有意差を認めなかった。前述の層別化因子を含め、コックス比例ハザードモデルを用いた多変数解析を行ったところ、非小細胞肺がんサブグループは独立した予後良好因子だった(ハザード比0.38、95%信頼区間0.18-0.77、p=0.007)。Grade2以上の有害事象はSBRT+SOC群のうち8人に認め、うち1人はGrade 3の肺臓炎だった。
結論:
今回の中間解析において、OP巣に対する定位放射線照射が全体集団のPFSを改善することが示された。非小細胞肺がん集団ではPFSが延長する一方で乳がん集団ではそうした現象は見られず、さらなる解析が必要と考えられた。