局所進行非小細胞肺癌に対する予防的全脳照射

 予防的全脳照射というコンセプトは繰り返し取り上げられるものの、その対象はというと、今のところ我が国では限局型小細胞肺がんに対して放射線化学療法を行い、一定程度以上の治療効果が得られた患者さんに限られる。

 過去の臨床試験を見ると、我が国と海外(主に欧州)では、予防的全脳照射に求めるものが異なるようだ。

 我が国:全生存期間の延長

 海外(欧州):症状を伴う脳転移出現の抑制

 今回の報告も、進展型肺小細胞がんに対する臨床試験の時と同様に、主要評価項目は「症状を伴う脳転移出現の抑制」だった。

 そして、相変わらず、主要評価項目は達成したが、生存期間延長は得られなかった。

 素直に受け止めれば、

 「長生き効果がなくても脳転移を抑制する効果さえ期待できるのなら、脱毛・頭痛・食欲不振・認知機能障害が出てもいいから全脳照射を受けたい」

と患者さんが希望されれば、進展型肺小細胞癌だろうが、局所進行非小細胞肺癌であろうが、予防的全脳照射の適応はあるだろう。

 ・・・たぶん、私ならまっぴらごめんだが。

小細胞肺癌に対する予防的全脳照射

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e758252.html

高齢者に対する予防的全脳照射

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e600231.html

脳転移に対する放射線治療の一般的な話

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e373203.html

Prophylactic Cranial Irradiation Versus Observation in Radically Treated Stage III Non?Small-Cell Lung Cancer:

A Randomized Phase III NVALT-11/DLCRG-02 Study

Dirk De Ruysscher et al., J Clin Oncol 36:2366-2377. 2018

目的:

 今回の臨床試験の目的は、治癒を目標に治療を受けたIII期局所進行非小細胞肺がん患者に対して、予防的全脳照射を行うことにより症状を伴う脳転移再発を抑制できるかどうかを検証することである。

方法:

 造影CTもしくは造影MRIにより脳転移のないことが確認されたIII期非小細胞肺がん患者を対象とした。抗がん薬・放射線(同時もしくは逐次)併用療法±手術ののちに予防的全脳照射(PCI)を受ける群と受けない群に患者を無作為に割り付けた。主要評価項目は24か月後時点での症状を伴う脳転移巣の有無とした。ここでいう「症状:」とは、頭蓋内圧亢進症状、頭痛、嘔気、嘔吐、認知機能低下、痙攣、神経学的巣症状とし、脳転移巣の確認はMRIもしくはCTで行うこととした。有害事象、生命予後(全生存期間と無増悪生存期間)、QoL、治療コストなどを副次評価項目とした。

結果:

 2009年から2015年にかけて、175人の患者が無作為に割り付けられた。87人はPCIを受け(PCI群)、88人は受けなかった(経過観察群)。経過観察期間中央値は48.5ヶ月(95%信頼区間は39-54ヶ月)だった。PCI群86人中6人(7.0%)、経過観察群88人中24人(27.2%)で、症状を伴う脳転移巣が出現した(p=0.001)。PCI群では、症状を伴う脳転移が出現するまでの期間が経過観察群より有意に延長していた(ハザード比0.23、95%信頼区間0.09-0.56、p=0.0012)が、中央値は両群ともに未到達だった。全生存期間は両群で有意差を認めなかった(ハザード比0.9、95%信頼区間0.62-1.29、PCI群の中央値は24.2ヶ月(95%信頼区間は20.3-38.7ヶ月)、経過観察群の中央値は21.9ヶ月(95%信頼区間は18.1-33.7ヶ月))。無増悪生存期間にも有意差を認めなかった(ハザード比0.79、95%信頼区間0.56-1.11、PCI群の中央値は12.3ヶ月(95%信頼区間は9.4-21.1ヶ月)、経過観察群の中央値は11.5ヶ月(95%信頼区間は7.8-15.8ヶ月))。Grade 1-2の記憶障害はPCI群86人中26人、経過観察群88人中7人で、認知機能障害はPCI群86人中16人、経過観察群88人中3人)に認め、PCI群で有意に多かった。QoLは治療3か月後の時点ではPCI群で低下していたが、それ以後は両群とも同等だった。

結論:

 局所進行III期非小細胞肺がん患者に対する予防的全脳照射は、症状を伴う脳転移患者発生を減少させるが、軽度の有害事象は増加する。