日本臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医・指導医になると、今度は評価者として試験に関わる機会がある。
新しく専門医試験を受けようという受験者の病歴要約査読と口頭試問の面接官の業務だ。
これまでに病歴要約査読を何度か引き受けたが、最後に引き受けた際にとても不快なことがあったので、それからはお引き受けしていない。
この病歴要約査読、はっきり言って片手間でできるような代物ではない。
一人の受験者が、30人分の悪性腫瘍患者の病歴要約を提出する。
今でもそうかどうかは分からないが、私が引き受けていたころ(5年前くらい)は乳腺腫瘍、消化器腫瘍、呼吸器腫瘍、血液腫瘍が必須領域で、その他の領域も含むように規定されていた。
早い話が、自分の専門でない分野の病歴要約もきちんと評価できなければならない。
そのため、少なくとも我が国の実地臨床で標準とされている治療については、査読者もきちんと理解できていなければならない。
日常業務をこなしながら専門外の領域の勉強をして、なおかつ細かな評価基準に照らし合わせていくのはとても骨が折れる。
それを3受験者分こなさなければならない。
しかも完全にボランティアである。
とは言え、これも信頼できる仲間を日本のどこかに増やすため、との一念で、頑張って引き受けていた。
最後に引き受けた際、ある病院の副院長と部長クラスの受験者の病歴要約査読が手元に回ってきた。
どちらの受験者のものから読み進めたかはよく覚えていないが、一人目の要約の出来は「中の下」程度だった。
偉そうに聞こえるかもしれないが、先に目を通したまったく関係のない他の受験者の要約がとても良い出来だったので、相対的にそんな評価になってしまった。
よくできた要約は、読んでいる方にとっても勉強になる。
「中の下」の評価を終えて、もう一人の要約に手を付け始めて、驚いた。
全体のうち9割がたの要約が、判で押したように同じものだったのだ。
なんだか、善意を踏みにじられたような気がした。
即刻、両名の要約の評価は「不可」として、噴飯物として事務局に送り返した。
それからというもの、査読も面接官もお引き受けする気になれない。
今年は自分自身が指導医更新手続き、専門医更新の筆記試験を受ける予定だが、「専門医制度への貢献不十分」として不合格とされてもやむを得ないと思っている。