免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ)、いよいよ肺小細胞癌の領域へ

 IMpower133の結果が2018年の世界肺癌会議で公表されたようで、早くも内容が論文化されたようだ。

 無理もないことで、多分20年ぶりくらいで、進展型肺小細胞がんの薬物療法に関わる第III相試験において生命予後を改善する新治療が出てきたことになる。

 ペンブロリズマブ(第II相試験)もIpilimumab(第III相試験)もこの分野ではこけている。

 そうした中、免疫チェックポイント阻害薬の一角であるアテゾリズマブが進展型肺小細胞がんの生存期間中央値を2ヶ月延長した、ということで、小さな改善効果とは言いながら、非常に有意義だと感じる。

 アテゾリズマブは既にわが国で製造承認、薬価収載ともに終わっている。

 どの程度の日本人患者が本試験に参加したのかは定かでない(きっと近い将来学術集会で明らかにされるだろう)ので、本試験結果を以ってそのまま規制当局が国内使用を許可するかどうかは見通せない。

 しかし、仮に適応拡大承認が得られれば、比較的速やかに普及するのではないだろうか。

 国民医療費はさらに高騰するが。

 論文本体を読み込むと以下のように書いてあり、要約の内容に一部誇張された内容が入っていそうで、注意したい。

・全生存期間と無増悪生存期間をいずれも主要評価項目とした

・全生存期間の解析を先に行って、これにより有意差が確認されたら無増悪生存期間の解析を段階的に行うことにした

・全生存期間の有意水準は両側検定でp=0.045、無増悪生存期間の有意水準は両側検定でp=0.005とした(従って、今回の試験では、無増悪生存期間に有意な改善は認められなかった(p=0.02)ことになる)

・今回は、もともと予定していた中間解析時点で有意な全生存期間の延長が認められたため、結果を公表することになった

・データカットオフは2018年4月(ということは、世界肺癌会議や今回の論文発表に間に合わせるために、かなりの突貫工事でデータのとりまとめを行ったものと想像される)

 また、以下のような興味深いことも目に付いた。

・全生存期間についてサブグループ解析を行うと、65歳未満の年齢層では両治療群間に有意差を認めなかったが、65歳以上では有意差が認められ、アテゾリズマブ群の方が優れていた(それぞれの年齢層はほぼ半々であることから、この結果の信頼性は高いと考えられる。数ある臨床試験でも、若年者よりも高齢者の方が予後が優れる、というものはあまり記憶にない)

・脳転移を有する患者群での治療効果は、こうした患者の絶対数が少なかったために解析困難だった

・奏効持続期間は、アテゾリズマブ群の方がかなり長そうだった

・生存曲線を見ると、両群ともに治療開始から半年くらいまでは曲線の下がり方はなだらか(ということは、治療開始から半年間くらいは亡くなる方が少なめだったということ)で、それ以降に両群間の差がついてきた

・censored caseが多いためまだ結論を出すには早いが、非小細胞肺癌におけるこの種の臨床試験に比べると、long survivorはすくなさそう

・そこそこの割合の人が、プロトコール治療中に(進展型小細胞がんであるにもかかわらず)予防的全脳照射を受けた

 

 話題は尽きないが、epoch-makingな治療が登場したことは間違いないし、本論文はonlineで無料で入手できるので(こういう太っ腹なところは流石のトップジャーナルである)、この分野で働く職業人としては是非一読したい。

 こうなると、神経内分泌腫瘍の領域にも免疫チェックポイント阻害薬の波がやってくるかもしれない。

First-Line Atezolizumab plus Chemotherapy in Extensive-Stage Small-Cell Lung Cancer.

Horn L. et al., N Engl J Med. 2018 Sep 25.

DOI: 10.1056/NEJMoa1809064. [Epub ahead of print]

PDF: https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1809064

背景:

 PD-L1とPD-1のシグナル伝達系を阻害することにより腫瘍特異的なT細胞免疫機能を賦活することが、進展型肺小細胞がんの治療に有望であることがすでに示されていた。免疫チェックポイント阻害薬と殺細胞性抗腫瘍薬を併用することにより、相乗効果が得られるかもしれない。

方法:

 今回、未治療の進展型肺小細胞がん患者に対してカルボプラチン+エトポシド併用療法に対するアテゾリズマブの上乗せ効果を検証するプラセボ対照二重盲見第III相比較試験を計画した。参加登録した患者は、カルボプラチン+エトポシド併用療法に加えて、アテゾリズマブを使用する群(アテゾリズマブ群)とプラセボを使用する群(プラセボ群)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。治療導入期にはそれぞれの治療を3週間ごとに最大4コースまで行い、維持治療期にはアテゾリズマブもしくはプラセボを、忍容不能な毒性にさいなまれるか、RECIST ver.1.1における病勢進行基準を満たすか、ないしは臨床的有益性がもはや認められないと担当医が判断するかまで投与継続された。主要評価項目は無増悪生存期間、全生存期間とした。

結果:

 計201人の患者がアテゾリズマブ群へ、202人の患者がプラセボ群に割り付けられた。経過観察期間13.9ヶ月の段階で、生存期間中央値はアテゾリズマブ群で12.3ヶ月、プラセボ群で10.3ヶ月、ハザード比0.70、95%信頼区間は0.54-0.91、p=0.007と、アテゾリズマブ群で有意に優れていた。無増悪生存期間中央値はアテゾリズマブ群で5.2ヶ月、プラセボ群で4.3ヶ月、ハザード比0.77、95%信頼区間は0.62-0.96、p=0.02だった。安全性プロファイルは、それぞれの治療について過去に報告された有害事象とほぼ同様で、新規なものは認めなかった。

結論:

 進展が多少細胞肺癌の初回治療において、化学療法にアテゾリズマブを加えることにより、全生存期間(と無増悪生存期間)が有意に延長した。