・第III相IPSOS試験・・・プラチナ併用化学療法ができない患者へのアテゾリズマブは?

 

 プラチナ併用化学療法の対象とならない進行非小細胞肺がん患者さんに対するアテゾリズマブ単剤療法の有効性と安全性を検証した第III相IPSOS試験。

 ジェムシタビンやビノレルビンが比較対象となったことは適切なのか、という気はしますが、少なくともこれらの単剤療法に対してアテゾリズマブの方が治療効果が高く、毒性は軽い、ということが示されたのは、意義深いことだと思います。

 

 ポイントを3つまとめると

・高齢、腎合併症、PS不良といった要素があれば、他の前提条件なしにアテゾリズマブ単剤療法は進行非小細胞肺がんの一次治療となり得る

・生存期間延長効果は、中央値で見れば差が小さいが、観察期間が長くなるほどアテゾリズマブの有効性が際立ってくる(アテゾリズマブがうまく効くと、長生きできる確率が高くなる)

・ジェムシタビンやビノレルビンと比較すると、有害事象(副作用)リスクが低い

といったところでしょうか。

 

 

 

 

IPSOS: Results from a phase III study of first-line (1L) atezolizumab (atezo) vs single-agent chemotherapy (chemo) in patients (pts) with NSCLC not eligible for a platinum-containing regimen

 

Siow Ming Lee et al.
ESMO 2022, abst.#LBA11
Annals of Oncology (2022) 33 (suppl_7): S808-S869. 10.1016/annonc/annonc1089

 

背景:
 IMpower110試験において、ECOG-PS 0-1のPD-L1高発現非小細胞肺癌患者において、アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)単剤療法はプラチナ併用化学療法と比較して、有意に生存期間を延長した。しかし、非小細胞肺がん患者の40%以上はECOG-PSが2以上と不良だったり、何らかの合併症といった問題を抱えており、結果としてプラチナ併用化学療法の対象とならず、初回がん薬物療法の効果を検証するほとんどの臨床試験の対象となり得ない。IPSOS試験は、国際多施設共同オープンラベルランダム化第III相試験であり、初回プラチナ併用化学療法不適格の非小細胞肺がん患者を対象に、アテゾリズマブ単剤療法と殺細胞性抗腫瘍薬単剤療法の有効性を比較検討した。

 

方法:
 ドライバー遺伝子変異がなく、PSが2以上と不良、もしくは70歳以上で背景疾患を有するためにプラチナ併用初回化学療法の適応とならない局所進行もしくは進行非小細胞肺がん患者を対象とした。患者は2:1の比率で、アテゾリズマブ1200mgを3週間に一度投与される群(A群)と、ビノレルビンもしくはジェムシタビンいずれか一方の単剤療法を3-4週間ごとに繰り返す群(C群)とに割り付けた。主要評価項目は全生存期間(OS)で、その他のカギとなる副次評価項目は生存割合、奏効割合、無増悪生存期間、奏効持続期間、PD-L1発現陽性患者における全生存期間、無増悪生存期間とした。併せて、安全性と健康関連QoLも評価した。

 

結果:
 453人の患者が無作為割り付けされた(A群302人、C群151人)。年齢中央値は75歳(33-49)、全体の31%が80歳以上、全体の72%が男性で、ECOG-PSが2以上の患者は全体の83%を占めた。データカットオフは2022/04/30、追跡期間中央値は41.0ヶ月だった。A群はC群と比較して有意に生存期間を延長し、ハザード比は0.78(95%信頼区間0.63-0.97)、p=0.028で、PD-L1発現状態やPS、組織型といった主要なサブグループでの解析でもA群が優れていた。2年生存割合、奏効割合、奏効持続期間もA群が優れていた。grade 3-4の治療関連有害事象はA群16.3% vs C群33.3%、grade 5の治療関連有害事象(≒治療関連死)はA群1.0% vs C群2.7%だった。

 

結論:

 プラチナ併用化学療法の対象とならない非小細胞肺がん患者に対する一次薬物療法として、アテゾリズマブ単剤療法は単剤化学療法と比較して生存期間を延長し、2年生存割合は2倍に達した。今回対象とした予後不良患者群においても、治療関連毒性は想定の範囲内だった。