・第III相CONFIRM、第II相MERITほか・・・中皮腫再燃に対するニボルマブ単剤療法

 ちょっと調べるだけのつもりだったのですが、再燃悪性胸膜中皮腫に対するニボルマブ単剤療法の臨床試験を網羅する羽目になってしまいました・・・。

 

 現在、悪性胸膜中皮腫の長期生存患者になんとか自宅で年末年始を過ごしてもらおうと思って、策を練っています。

 既にニボルマブ単剤療法も病勢進行でやり終えて、現在は支持療法として1.5ヶ月から2ヶ月の間隔で定期的に胸水ドレナージのみをしていますが、診断確定からもう13年が経過しました。

 PSは3.8、認知機能低下のため今朝話したことも昼前には覚えていらっしゃいませんが、食事は自力で摂取するし、排泄は必ずトイレでします。

 1-2カ月に1度は3-4Lの胸水を排除しなければならないのですが、それで長期生存できるのならそれに越したことはありません。

 

 さて、再燃悪性胸膜中皮腫に対するニボルマブ単剤療法の効果です。

 今回の第III相CONFIRM試験を含めた海外の臨床試験と、我が国の第II相MERIT試験を比べてみます。

 海外臨床試験では、無増悪生存期間中央値は2.5-3ヶ月程度、全生存期間中央値は10-11ヶ月というのが相場で、再現性があります。

 我が国の第II相MERIT試験のデータでは、無増悪生存期間中央値は6.1ヶ月、全生存期間中央値は17.3ヶ月です。

 サンプルサイズの少ない第II相臨床試験でたまたま良い結果が出たのでは、と言われると反論できませんが、いま担当している患者を見る限り、日本人悪性胸膜中皮腫患者における本治療は有望であるように感じます。

 というか、そのように信じます。

 

 

 

Nivolumab versus placebo in patients with relapsed malignant mesothelioma (CONFIRM): a multicentre, double-blind, randomised, phase 3 trial

 

Dean A Fennell et al.

Lancet Oncol. VOLUME 22, ISSUE 11, P1530-1540, NOVEMBER 01, 2021

DOI:https://doi.org/10.1016/S1470-2045(21)00471-X

 

背景:

 プラチナ併用化学療法後に病勢進行した胸膜/腹膜悪性中皮腫の患者に対し、生命予後改善を達成した第III相臨床試験はこれまでのところ存在しない。今回のCONFIRM試験の目的は、抗PD-1抗体であるニボルマブの、こうした患者に対する効果と安全性を評価することだった。

 

方法:

 本試験は多施設共同、プラセボ対照、二重盲検無作為化第III相臨床試験で、英国内の24か所の病院で実施された。18歳以上の成人、ECOG-PSは0もしくは1、組織学的に胸膜/腹膜中皮腫と確認され、一次治療としてプラチナ併用化学療法を受けたものの放射線がオズ診断で病勢進行と判定された患者を対象とした。対象者はニボルマブ240mgを2週間ごと、30分で投与される群(N群)とプラセボを同様に投与される群(P群)に2:1の割合で無作為に割り付けられた。プロトコール治療は病勢進行に至るか、治療開始から12ヶ月経過するまで継続された。割り付け調整因子は組織型(上皮型 / 非上皮型)とした。対象患者も担当医も、割り付け内容については知らされなかった。主要評価項目は担当医評価による無増悪生存期間と全生存期間とし、intention-to-treatと同等の解析を行った。無作為割り付けされた患者は全員安全性解析の対象とされ、割り付けられた治療群ごとに取りまとめた。

 

結果:

 2017年5月10日から2020年3月30日までに、332人の患者が集積され、そのうち221人(67%)がN群に、111人(33%)がP群に割り付けられた。追跡期間中央値は11.6ヶ月(四分位間は7.2-16.8)だった。無増悪生存期間中央値はN群で3.0ヶ月(95%信頼区間2.8-4.1)、P群で1.8ヶ月(95%信頼区間1.4-2.6)、ハザード比0.67(95%信頼区間0.53-0.85)、p=0.0012と有意にN群で優れていた。1年無増悪生存割合はN群で14.2%(95%信頼区間9.9-19.3)、P群で7.2%(95%信頼区間3.1-13.8)だった。全生存期間中央値はN群で10.2ヶ月(95%信頼区間8.5-12.1)、P群で6.9ヶ月(95%信頼区間5.0-8.0)、ハザード比0.69(95%信頼区間0.52-0.91)、p=0.0090とこちらも有意にN群で優れていた。1年生存割合はN群で43.4%(95%信頼区間36.3-50.4)、P群で30.1%(95%信頼区間21.0-39.6)だった。奏効割合はN群で11%(25/221)、P群で1%(1/111)だった。Grade 3以上の治療関連有害事象のうち主なものは下痢(N群221人中6人(3%)、P群111人中2人(2%)だった。また、インフュージョンリアクションは、N群で6人(3%)認められる一方で、P群には認められなかった。重篤な有害事象はN群のうち90人(41%)、P群のうち49人(44%)だった。両群ともに、治療関連死は認めなかった。

 

結語:

 一次治療後に進行した悪性胸膜中皮腫の患者に対し、ニボルマブが有益かもしれない。

 

 

 

 

Clinical Efficacy and Safety of Nivolumab: Results of a Multicenter, Open-label, Single-arm, Japanese Phase II study in Malignant Pleural Mesothelioma (MERIT)

 

Morihito Okada et al.

Clin Cancer Res. 2019 Sep 15;25(18):5485-5492.

doi: 10.1158/1078-0432.CCR-19-0103.

 

目的:

 悪性胸膜中皮腫は稀で悪性度の高い生命予後不良の疾患である。標準的な初回治療で効果がなかった悪性胸膜中皮腫の患者に対しては、その後には限られた治療選択肢しかない。今回は、進行悪性胸膜中皮腫に対し、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブの有効性と安全性を検討することを目的とした。

 

方法:

 2レジメン以下の化学療法施行後に耐性化、あるいは毒性により継続不能となり、かつ1ヶ所以上の測定可能病変を有する切除不能進行悪性胸膜中皮腫日本人患者を対象とした。ニボルマブ240mgを2週間ごとに投与し、病勢進行あるいは忍容不能の毒性に見舞われるまで治療を継続した。主要評価項目はmodified RECIST基準に沿った、中央判定による奏効割合とした。併せて有害事象も評価した。

 

結果:

 2016年7月から10月までに34人の適格患者が集積された。追跡期間中央値は16.8ヶ月(1.8-20.2)だった。10人(29%、95%信頼区間16.8-46.2%)の患者が奏効と判定された。組織型別の奏効割合は、上皮型で26%(27人中7人)、肉腫型で67%(3人中2人)、混合型で25%(4人中1人)だった。肉腫型/混合型では7人中6人で腫瘍縮小を認め、1人でわずかな腫瘍増大しか認めなかったため、この患者集団における病勢コントロール割合は100%だった。奏効持続期間中央値は11.1ヶ月(95%信頼区間3.5-16.2)、病勢コントロール割合は68%(95%信頼区間50.8-80.9)だった。生存期間中央値は17.3ヶ月(95%信頼区間11.5-未到達)、無増悪生存期間中央値は6.1ヶ月(95%信頼区間2.9-9.9)だった。6ヶ月生存割合85%(95%信頼区間68.2-93.6)、12ヶ月生存割合59%(95%信頼区間40.6-73.2)、6ヶ月無増悪生存割合52%(95%信頼区間33.5-66.9)、12ヶ月無増悪生存割合32%(95%信頼区間16.4-47.9)だった。PD-L1発現≧1%の患者における奏効割合は40%で、同<1%の患者における奏効割合は8%だった。32人(94%)の患者で有害事象を認め、うち26人(76%)は治療関連有害事象と判定された。

 

結論:

 悪性胸膜中皮腫の二次治療もしくは三次治療において、ニボルマブは主要評価項目を満たし、有望な効果と安全性を示した。

 

 

 

 

Nivolumab or nivolumab plus ipilimumab in patients with relapsed malignant pleural mesothelioma (IFCT-1501 MAPS2): a multicentre, open-label, randomised, non-comparative, phase 2 trial

 

Arnaud Scherpereel et al.

Lancet Oncol VOLUME 20, ISSUE 2, P239-253, FEBRUARY 01, 2019

DOI:https://doi.org/10.1016/S1470-2045(18)30765-4

 

背景:

 プラチナ製剤+ペメトレキセド併用初回化学療法後に病勢進行に至った悪性胸膜中皮腫に対し、推奨される治療はない。過去に報告された二次治療に関する臨床試験では、病勢コントロール割合はいずれも30%を下回っていた。こうした患者において、抗PD-L1モノクローナル抗体が有効であることを示唆する報告がなされている。そのため、今回は悪性胸膜中皮腫の患者を対象に、抗PD-1抗体単剤、あるいは抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体併用療法の有効性、安全性を評価することにした。

 

方法:

 今回の多施設共同、オープンラベル、第II相臨床試験はフランス国内の21の病院で施行された。18歳以上、ECOG-PS 0-1、組織学的に悪性胸膜中皮腫と診断され、プラチナ製剤+ペメトレキセド併用化学療法を一次治療あるいは二次治療で施行済みで、CTでの測定可能病変を有し、12週間以上の生存を期待できる患者を対象とした。対象患者はN群(ニボルマブ3mg/kgを2週間ごとに投与)あるいはNI群(ニボルマブ3mg/kgを2週間ごと、イピリムマブ1mg/kgを6週間ごとに投与)へ1:1の割合で無作為割り付けされた。プロトコール治療は、病勢進行が確認されるか、忍容不能の毒性が出現するまで継続された。割り付け調整因子は組織型(上皮型 / 非上皮型)、過去の治療レジメン数(1レジメン / 2レジメン)、過去の化学療法に対する反応性(ペメトレキセド投与から病勢進行に至るまでの期間が3ヶ月以上 / 3ヶ月未満)とした。主要評価項目は、中央判定による12週間時点での病勢コントロール割合とし、閾値を40%に設定、当初108人を集積した時点で評価することにした。効果判定はintention-to-treat解析で行い、安全性評価はプロトコール治療を受けた全ての患者を対象として行った。

 

結果:

 2016年3月24日から8月25日までの期間に、125人の適格患者が集積され、N群に63人、NI群に62人が割り付けられた。当初108人の適格患者において、12週病勢コントロール割合はN群で54人中24人(44%、95%信頼区間31-58)、NI群で54人中27人(50%、95%信頼区間37-63)だった。全体集団のintention-to-treat解析において、12週病勢コントロール割合はN群で63人中25人(40%、95%信頼区間28-52)、NI群で62人中32人(52%、95%信頼区間39-64)だった。N群63人中9人(14%)、NI群61人中16人(26%)でGrade 3-4の有害事象を認めた。頻度の高かった有害事象は、筋力低下(N群で1人、NI群で3人)、ASTもしくはALT高値(NI群で計8人)、リパーゼ高値(N群で2人、NI群で1人)だった。治療関連死はNI群で3人(劇症肝炎1人、脳炎1人、急性腎障害1人)認めた。

 

結論:

 抗PD-1抗体ニボルマブ単剤療法、もしくはニボルマブ+抗CTLA4抗体イピリムマブ併用療法は、再燃悪性胸膜中皮腫患者に対して有望な効果を示し、予測不能な毒性は認めなかった。より大規模な臨床試験で検証する必要がある。 

 

 

 

 

Programmed Death 1 Blockade With Nivolumab in Patients With Recurrent Malignant Pleural Mesothelioma

 

Josine Quispel-Janssen et al.

J Thorac Oncol. 2018 Oct;13(10):1569-1576.

doi: 10.1016/j.jtho.2018.05.038. Epub 2018 Jun 14.

 

背景:

 悪性胸膜中皮腫は、治療選択肢が限られており、予後不良の疾患である。PD-1 / PD-L1免疫チェックポイント阻害薬はいくつかのがん種において効果を示してきた。ニボルマブは完全ヒト型抗PD-1モノクローナル抗体で、良好な毒性プロファイルを有する。悪性胸膜中皮腫においては、免疫系が重要な役割を持っていると目されている。そのため、再燃悪性胸膜中皮腫患者を対象に、ニボルマブの有効性と安全性を評価することにした。

 

方法:

 今回の単施設臨床試験では、悪性胸膜中皮腫患者を対象として患者体重1kgあたり3mgのニボルマブを2週間ごとに投与した。主要評価項目は12週時点での病勢コントロール割合とした。治療反応性に関するバイオマーカーについて評価するために、治療開始前、あるいは治療中に生検を行った。 

 

結果:

 34人の患者が集積され、治療開始から12週時点で8人(24%、95%信頼区間11-42)の患者で部分奏効を確認した。また、病勢安定と判定された他の8人を含めると、12週時点での病勢コントロール割合は47%(95%信頼区間30-65)となった。18週経過時点で部分奏効と判定された患者が1人いて、結果として奏効割合は26%だった。奏効持続期間中央値は7.0ヶ月(95%信頼区間3.0-未到達)だった。病勢安定と判定された患者のうち4人では、6ヶ月以上にわたって腫瘍の増大を認めなかった。無増悪生存期間中央値は2.6ヶ月(95%信頼区間2.23-5.49)、生存期間中央値は11.8ヶ月(95%信頼区間9.7-15.7)だった。6ヶ月無再発生存割合は29%(95%信頼区間18-50)、6ヶ月生存割合は74%(95%信頼区間60-90)、12ヶ月生存割合は50%(95%信頼区間36-70)だった。治療関連有害事象は26人(76%)で認められ、全身倦怠感(29%)や掻痒(15%)の頻度が高かった。Grade 3 / 4の治療関連有害事象は9人(26%)で認め、肺臓炎、胃腸障害、血液検査データ異常の頻度が高かった。肺臓炎による治療関連死が1人発生したが、同時に行ったアミオダロン投与が契機になっていると考えられた。9人(27%)の腫瘍組織サンプルでPD-L1発現を認めたが、治療効果との相関はなかった。

 

結論:

 ニボルマブ単剤療法は既治療悪性胸膜中皮腫に対して意義のある治療効果を示すとともに、毒性は管理可能だった。今回対象とした患者集団においては、PD-L1発現は治療効果予測因子とはならなかった。