・CheckMate153試験再び・・・途中でやめられません

 既治療非小細胞肺がんに対するニボルマブの継続投与と1年間期間限定投与を比較する第IIIb / IV相試験のCheckMate153試験について紹介します。

Continuous Versus 1-Year Fixed-Duration Nivolumab in Previously Treated Advanced Non–Small-Cell Lung Cancer: CheckMate 153 | Journal of Clinical Oncology (ascopubs.org)

 無料で全文読めるので、是非通読して、できれば抄読会などで紹介してほしいです。

 

 あくまで探索的検討の位置づけですが、継続投与の方が全生存期間、無増悪生存期間共に延長しており、市販後臨床試験として参加対象が広く設定されているだけに、決して無視できない結果です。

 生存曲線の図表はここには掲載しませんが、上記のリンクから各自参照してください。

 当初1年間のニボルマブの効果が高いほど継続投与群の優位性が高くなる、というのはもちろんですが、興味深いのは、beyond PDの症例まで含んだ解析でも継続投与群の生命予後が延長していることです。

 生存曲線を見る限り、その差はランダム化から1年間はほとんど見られません。

 しかし、さらに1年経過後(すなわち、継続投与群ではニボルマブ2年間投与後)から末広がりの様相で開いていきます。

 ランダム化時点でCR/PRだった患者群だけで解析すると、継続投与群がずっと上を行きます。

 また、ランダム化の時点でbeyond PDでニボルマブを使用していた患者群だけで解析してみると、ランダム化後1年間は期間限定投与群の方が生命予後がよく、その後は見事に関係が逆転し、継続投与群が上回るようになります。

 まるで、PD-L1発現状態ごとの生存曲線を見ているようです。

 

 何はともあれ、この結果を見てしまうと、少なくとも既治療非小細胞肺がんにおけるニボルマブ単剤療法の実地臨床では、少なくともCR/PRの治療効果が得られた患者では、途中で治療をやめてしまおうという気にはなれません。

 

 とても感銘を受けましたので、論文本体をほぼ全訳して掲載します。

 くどいようですが、図表は冒頭のリンクから参照してください。

 

 

 

Continuous Versus 1-Year Fixed-Duration Nivolumab in Previously Treated Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer: CheckMate 153

 

David M. Waterhouse et al., J Clin Oncol 2020

DOI: 10.1200/JCO.20.00131 Journal of Clinical Oncology

 

背景:

 非小細胞肺がんの治療時を含めて、免疫チェックポイント阻害薬の最適な治療継続期間についての臨床データは限られている。今回は、市販後大規模臨床試験である第IIIb / IV相のCheckMate153試験−ニボルマブを1年間のみ投与する治療と1年を超えて継続的に投与する治療での安全性と有効性を検証する試験−における探索的検証結果について報告する。

 

方法:

 前治療歴のある深刻非小細胞肺がん患者を対象に、ニボルマブ単剤療法(3mg/kg、2週間ごと)を行った。画像診断では病勢進行相当だが、臨床的には効果が出ていると判断されて治療継続されている患者も含め、治療開始から1年経過時点で治療を継続している患者を対象に、そのままニボルマブを継続投与する群(C群)と、病勢進行時にはニボルマブ投与を再開できるという条件付きで1年までで投与を中止する群(S群)に無作為に割り付けた。

 

結果:

 1,428人の患者がニボルマブによる治療を受け、そのうち252人(ITT集団)がC群(127人)とS群(125人)に無作為割付された。このうち、ランダム割付時点で病勢進行に至っていなかった患者は174人(PFS集団)で、C群で89人、S群で85人だった。無作為割付後の追跡期間がもっとも短い患者でも13.5ヶ月を経過していた。無増悪生存期間中央値はC群で24.7ヶ月、S群で9.4ヶ月と、有意にC群で延長していた(ハザード比0.56、95%信頼区間は0.37-0.84)。また、無作為割付後の生存期間中央値も、ITT集団(C群で未到達、S群で28.8ヶ月、ハザード比は0.62、95%信頼区間は0.42-0.92)、PFS集団(C群で未到達、S群で32.5ヶ月、ハザード比0.61、95%信頼区間は0.37-0.99)のいずれにおいてもC群で有意に延長していた。プロトコール治療中に新たに発生した治療関連有害事象はほぼなく、安全性に関する新規の所見は認めなかった。

 

結論:

 我々の知る限り、今回の探索的検討から得られたこれらの所見は既治療進行非小細胞肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬の投与期間について無作為比較した初のデータである。1年間を超えるニボルマブ維持療法は予後を改善する。

 

前文:

ニボルマブはPD-1を阻害するヒトIgG4抗体であり、既治療進行非小細胞肺がんに対する標準治療薬である

・CheckMate017試験とCheckMate057試験によりこうした位置づけが確立したが、これら試験では病勢進行に至るか、あるいは忍容不能な有害事象が発生するまでニボルマブの投与が継続され、ドセタキセルに対してニボルマブが優位に生存期間を延長した

ニボルマブの治療効果は持続性があり、長期追跡調査の結果、5年生存割合はニボルマブ群で13%、ドセタキセル群で3%だった

・第I相試験であるCheckMate003試験にも非小細胞肺がんの患者が組み入れられており、非小細胞肺がんに対して免疫チェックポイント阻害薬が使用された一連の臨床試験では最も長期の追跡調査が行われているが、6年生存割合は15%であり、この患者集団においては過去に例のない長期生存効果を示している

・免疫チェックポイント阻害薬の最適な治療期間は、これまでのところ、どの臓器別腫瘍においてもわかっていない

・イピリムマブは、CTLA4を阻害するヒトIgG1抗体だが、進行悪性黒色腫に対してわずか4コースの治療を12週間の期間内で行うことにより、長期生存効果を示している

・対照的に、いくつかの悪性腫瘍に治療適応のあるPD-1 / PD-L1抗体の投与期間は各臨床試験で異なっており、病勢進行に至るまで継続投与とされているものもあれば、一定期間で打ち切られるものもある

・CheckMate003試験に参加した既治療非小細胞肺がんの患者において、ニボルマブの投与期間は96週間と規定されており、5年以上生存した患者の75%以上はニボルマブ投与後の追加治療なく5年経過時点でも無増悪生存を維持していたが、残る25%は96週間の治療期間を満了する前に有害事象のためプロトコール治療を中止していた(=5年生存した患者の25%は、有害事象のためにニボルマブ投与を中途で中止せざるを得なかったが、それでも5年生存した=ニボルマブの継続投与は、必ずしも長期生存には必要ないのかもしれないという推測が成り立つ)

・CheckMate153試験は現在も進行中の第IIIb / IV相の臨床試験であり、一般の第III相臨床試験とは異なり、広く日常臨床に即した試験で、それだけにより実際の患者集団を反映したデータが集まると考えられている

・本試験は、既治療進行非小細胞肺がん患者に対するニボルマブ単剤療法の安全性を検証する試験として立案された

・主要評価項目は安全性とされた

ニボルマブ投与を一定期間に限定し、その有効性と安全性を評価した探索的解析についてのデータを今回報告する

ニボルマブ投与により奏効が得られたかどうかに関わらず、1年間ニボルマブを継続投与された患者を対象に、そのままニボルマブを継続使用する群(C群)と、病勢進行時にはプロトコール治療としてニボルマブの再投与ができることを条件にいったんニボルマブの投与を中止する群(S群)にランダムに割り付けた

・我々の知る限り、本試験はPD-1阻害薬の投与期間を限定することの意義を検証した初めての臨床試験である

・今回は、ランダム化後13ヶ月以上の追跡期間をおいた最新のデータを報告する

 

方法:

・本試験は第IIIb / IV相の臨床試験である

・既治療進行非小細胞肺がん患者を対象に、ニボルマブ単剤療法について検証することを目的とした

ニボルマブ3mg/kgを2週間ごとに経静脈投与した

・C群では、病勢進行、忍容不能の有害事象発現、患者の治療同意撤回のいずれかが発生するまではニボルマブ投与を継続することとした

・S群では、病勢進行、忍容不能の有害事象発現、患者の治療同意撤回、あるいは治療開始から1年間経過するまではニボルマブ投与を継続することとした

・治療開始後に最初の病勢進行が確認された場合にも、担当医により何らかの治療効果が確認され、急速な病勢進行を来しておらず、PSが安定していて継続治療に耐えうるとみなされたときは、beyond PDとしてニボルマブの継続投与可能とした

プロトコール治療を開始した1人目の患者が1年間の治療期間を満了する前にプロトコール改定が行われ、ニボルマブ投与により奏効が得られたかどうかに関わらず、1年間ニボルマブを継続投与された患者を対象に、そのままニボルマブを継続使用する群(C群)と、病勢進行時にはプロトコール治療としてニボルマブの再投与ができることを条件にいったんニボルマブの投与を中止する群(S群)に患者を無作為に割り付けることになった

・主要評価項目は安全性とした

・2014年のプロトコール改定ののち、1年経過時点で治療を継続していた患者を対象として、ランダム化後の探索的評価項目(安全性、忍容性、無増悪生存期間、全生存期間、奏効割合)が追加された

・治療効果判定は担当医により行われた(独立した中央判定は行われなかった9

プロトコール治療開始時点、すなわち、ランダム化から1年前の時点でベースラインの状態評価が行われ、治療開始後初回の効果判定は9週間目に、その後は治療開始から24ヶ月経過するまでは8週間ごとに、24ヶ月経過後は12週間ごとに、病勢進行に至るまで行われた

・治療反応性はランダム化の際の割付調整因子とはされなかった

・ベースライン状態評価はランダム化の際には行われず、あくまで治療開始時点の評価がベースラインの状態と設定され、病勢進行の評価は治療開始時点から治療期間中の最良効果時点からRECIST基準ver1.1に従って行われた

プロトコール上、PD-L1発現状態の評価は義務付けられなかったが、腫瘍サンプルが利用可能な場合には評価した

・ランダム割付をされた全ての患者集団をIntent-to-treat集団(ITT集団)と定義した

・ITT集団のうち、ランダム割付前の時点で病勢進行に至っておらず、他のがん薬物療法によ次治療を行われていなかった患者を無増悪生存集団(PFS集団)と定義した

・安全性解析はITT集団を対象に行われ、ランダム割付からプロトコール治療を最後に行ってから100日後までに発生した有害事象を対象とした

・無増悪生存期間は、PFS集団のみを対象として解析した

・全生存期間は、ITT集団、PFS集団の両方において解析した

・無増悪生存期間と全生存期間は、ランダム化された日付を起算日としてKaplan-Meier法を用いて見積もることとし、BrookMeyer & Crowley法を用いて中央値と両側検定による95%信頼区間を算定した

・無増悪生存期間については、ベースラインの患者背景を調整しつつ、多変数解析を行った

・データカットオフ、データロックは2018年9月19日時点とした

 

結果:

・2014年4月16日から2018年9月18日の期間内に、総数1,428人の患者がプロトコール治療を開始した

プロトコール治療から1年経過時点で、252人の患者(=ITT集団)がプロトコール治療を継続しており、治療反応性に関係なくランダム割付された

・C群に127人、S群に125人が割り付けられた

・ITT集団252人中78人(C群127人中38人、S群125人中40人)はbeyond PDとして、病勢進行と判定された後も臨床的効果が見られるとの担当医判断でプロトコール治療を継続されていた

・beyond PDの患者を除いたC群89人、S群85人、計174人がPFS集団となった

・PFS集団のうち、C群では最良効果が完全奏効(CR)もしくは部分奏効(PR)だった患者が62人、病勢安定(SD)だった患者が27人で、S群では最良効果がCRもしくはPRだった患者が58人、SDだった患者が27人だった

・C群、S群の患者背景はおおむねバランスよく調整されていたが、S群に比べてC群では扁平上皮がんの患者割合が少なかった(ITT集団では26.8% vs 44.0%, PFS集団では31.5% vs 41.2%)

・ITT集団において、C群127人のうち65人(51.2%)、S群125人のうち61人(48.8%)でPD-L1発現状態を評価可能だった

・PFS集団において、C群89人のうち50人(56.2%)、S群85人のうち50人(58.8%)でPD-L1発現状態を評価可能だった

・データカットオフ時点で、ITT集団におけるランダム化後の最短経過観察期間は13.5ヶ月だった(=ITT集団全員で、13.5ヶ月以上の経過観察期間を確保できた)

・ITT集団において、C群127人中の29人(22.8%)、S群125人中の22人(17.6%)が生存しており、プロトコール治療を継続中だった

・ITT集団のS群で生存していた患者のうち6人は、病勢進行と判定されたのちにニボルマブ再投与を受けていた

・PFS集団において、C群89人中23人(25.8%)、S群85人中17人(20%)が生存しており、プロトコール治療を継続中だった

・PFS集団のS群で生存していた患者のうち4人は、病勢進行と判定されたのちにニボルマブ再投与を受けていた

・C群において、ランダム化時点からの治療継続期間中央値は13.6ヶ月(9.4-22.8ヶ月)だった

・PFS集団において、無増悪生存期間中央値はC群で有意に延長していた(C群24.7ヶ月、S群9.4ヶ月、ハザード比0.56、95%信頼区間は0.37-0.84)

・1年無増悪生存割合はC群64.6%、S群44.0%、2年無増悪生存割合はC群51.9%、S群30.7%だった

・ランダム割付時点で、CRもしくはPRの状態にあった患者では、C群で有意に無増悪生存期間中央値が延長していた(C群31.0ヶ月、S群10.6ヶ月、ハザード比0.46、95%信頼区間は0.27-0.77)

・ランダム割付時点で、SDの状態にあった患者では、無増悪生存期間中央値はC群とS群で同等だった(C群11.8ヶ月、S群9.4ヶ月、ハザード比1.01、95%信頼区間は0.51-2.01)

・ランダム割付後の無増悪生存期間がC群で延長する傾向は、想定していたサブグループ解析因子の大多数で認められた

・ITT集団において、ランダム割付後の生存期間中央値はC群で有意に延長していた(C群未到達、S群28.8ヶ月、ハザード比0.62、95%信頼区間は0.42-0.92)

・1年生存割合はほぼ同等だった(C群82.9%、S群81.7%)が、2年生存割合はC群で有意に延長していた(C群70.4%、S群56.8%)

・同様に、PFS集団では、ランダム割付後の生存期間中央値はC群で有意に延長していた(C群で未到達、S群で32.5ヶ月、ハザード比0.61、95%信頼区間は0.37-0.99)

・PFS集団における1年生存割合はC群で86.1%、S群で82.0%、2年生存割合はC群で73.4%、S群で60.9%だった

・PFS集団において、ランダム割付時にCR/PRの状態にあった患者でも、生存期間中央値はC群で有意に延長していた(C群で未到達、S群で33.5ヶ月、ハザード比0.50、95%信頼区間は0.26-0.97)

・PFS集団において、ランダム割付時にSDの状態にあった患者では、生存期間中央値はC群、S群で同等だった(C群32.2ヶ月、S群26.6ヶ月、ハザード比0.88、95%信頼区間は0.42-1.84)

・ランダム化前にPDと判定されていた患者では、生存期間中央値はC群で未到達、S群で23.8ヶ月、ハザード比0.70、95%信頼区間は0.37-1.33で、1年生存割合はC群で75.3%、S群で81.1%、2年生存割合はC群で63.0%、S群で47.8%だった

・ランダム割付時には無増悪状態にあったS群の患者で、ランダム化後に病死進行に至った者は47人(55.3%)いた

・この47人のうち、39人(83.0%)はニボルマブによる再治療を受けた

・データカットオフ時点で、4人(10.2%)の患者はニボルマブを継続しており、14人(35.9%)は生存していた

・PFS集団において、プロトコール治療を終えたのちに後治療に臨んだのはC群で37.1%、S群で48.2%いた

・後治療でがん薬物療法を受けた患者はC群の方が少なかった(C群24.7%、S群40.0%)

・最も高頻度に行われたがん薬物療法は、プロトコール治療終了後のニボルマブ再投与で、C群の14.6%、S群の17.6%で行われた

・ITT集団における後治療の内容はPFS集団のそれと似通っていた

・ランダム化後の有害事象発生頻度はC群の方が高く、治療期間がより長くなっていることに合致していた

・Grade 3-4の高度の有害事象は、C群で9.4%、S群で3.2%だった

・骨髄異形成症候群合併による治療関連死がC群において1人だけ認められた

 

 

 

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