・CALGB140503試験・・・IA期非小細胞肺がんに対する区域切除 / 部分切除と肺葉切除

 

 病巣最大径が2cm以下でその充実性成分が全体の50%超、所属リンパ節転移を伴わない早期肺がんに対し、肺葉切除術に対してより切除範囲の少ない区域切除術の治療成績(無再発生存期間)が劣らないことを示したJCOG0802試験について、2022年の初めに紹介しました。 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 

 今回は、似て非なる内容のCALGB140503試験についての報告を紹介します。

 

 論文の終盤で触れられているように、JCOG0802試験とCALGB140503試験の大きな相違点は以下の2点です。

1)JCOG0802試験の試験治療群では区域切除術のみが認められているが、CALGB140503試験では区域切除術、部分切除術いずれでもよい(欧米の実臨床では、技術的に簡便な部分切除術がより好んで行われることを反映している)

2)JCOG0802試験では90%以上が腺がん患者で、そのうち45%は病巣に(予後良好因子とされる)すりガラス状部分を伴っていたのに対し、CALGB140503試験では腺がん患者は63-4%に留まっている

 

 1)をもって、欧米の実地臨床により反映させやすい治療設定だったことを強調したいようです。

 また、JCOG0802試験の特筆すべき治療成績(両治療群ともに5年生存割合は90%を超え、遠隔転移再発割合が5%未満である)の背景を2)に求めたいようです。CALGB140503試験における5年生存割合は両治療群ともに約80%、遠隔転移再発割合は16.0%で、再発全体の50%超を占めており、結果だけを見るとJCOG0802試験よりも治療成績が劣っているように見えます。JCOG0802試験よりも悪性度の高い肺がん患者を集めて臨床試験を行ったので、結果にもそれが反映されている、という論調です。

 

 そんなわけで、JCOG0802試験とCALGB140503試験を同列に扱うことはできませんが、最大径2cm以下で所属リンパ節転移、遠隔転移の所見がない早期肺がんでは、区域切除術や部分切除術が治療選択肢の一つである、とまでは明言してよいのでしょう。低肺機能の患者さん、高齢患者さんに対しては我が国の実地臨床でも部分切除術は行われており、早期肺がんに対する部分切除術の意義が示されたのは特筆すべきことです。

 

 

 

Lobar or Sublobar Resection for Peripheral Stage IA Non–Small-Cell Lung Cancer

 

Nasser Altorki et al.
N Engl J Med 2023; 388:489-498
DOI: 10.1056/NEJMoa2212083

 

背景:

 末梢小型非小細胞肺がんが発見される機会が増え、縮小手術が肺葉切除術にとって代わることはできないかという関心が再び高まっている。

 

方法:

 臨床病期分類でT1a(腫瘍径2cm以下)N0の非小細胞肺がん患者に対し、術中にリンパ節転移陰性が確認されてから、縮小手術群と肺葉切除群に無作為割り付けを行い、標準治療である肺葉切除に対して縮小手術が非劣性であることを検証する多施設共同第III相臨床試験を計画した。主要評価項目は無病生存期間(無作為化時点から肺がん再発時点もしくは患者死亡(原因を問わない)時点までの期間)とした。副次評価項目は全生存期間、局所再発割合、遠隔転移再発割合、肺機能とした。

 

結果:

 2007年06月から2017年03月まで、697人の患者が無作為割り付けされた(縮小手術群340人、肺葉切除群357人)。追跡期間中央値は7年間で、無病生存期間について縮小手術群の肺葉切除群に対する非劣性が示された(ハザード比1.01、90%信頼区間0.83-1.24)。加えて、全生存期間も縮小手術群と肺葉切除群で同等だった(ハザード比0.95、95%信頼区間0.72-1.26)。5年無病生存割合は縮小手術群で63.6%(95%信頼区間57.9-68.8)で、肺葉切除群では64.1%(95%信頼区間58.5-69.0)だった。5年生存割合は縮小手術群で80.3%(95%信頼区間75.5-84.3)、肺葉切除群で78.9%(95%信頼区間74.1-82.9)だった。局所再発割合や転移再発割合について、両治療群間に本質的な違いはなかった。術後6ヶ月時点で肺機能検査を行い1秒量を測定したところ、縮小手術の方が2%程度両者の差異があり、縮小手術の方が優れていた。

 

結論:

 縦隔及び肺門リンパ節転移のないことが病理学的に確認された腫瘍径2cm以下の末梢型非小細胞肺がんにおいて、縮小手術は肺葉切除と比較して無病生存期間について非劣性であることが確認された。全生存期間も両治療群間で同等だった。