・CheckMate227試験・・・試験デザインに極めて難あり

 最近の臨床試験デザインは複雑怪奇なものが多いですが、あまりにいろいろ盛り込みすぎて結局どう解釈していいのかわからない、という点では、本試験が極めつけといっていいのではないでしょうか。

 論文化されたとのことで一度読んでみたのですが、結局何が言いたいのかわからず、途方に暮れてしまいました。

 免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法について検証した第III相試験ということで、世間的にも今年のESMO2019で取り扱われたため話題になっており、もう一度読み直してみたのですが、やっぱりよくわかりませんでした。

 

 気になる点としては、

臨床試験デザインがややこしすぎるうえ、他の臨床試験結果を受けてプロトコールの大幅な修正が行われたため、結局何を検証したいのかわからない

・異なる患者群、異なる治療群間で、異なる評価項目を検証する探索的試験と考えたほうがしっくり来る

・「主要評価項目が達成されなければその後の階層的な副次評価項目は全て統計学的な意義を持たない」と書いておきながら、論文ではくどくどと副次評価項目について記し続けている

・そのため、結局本試験の結果のうちどれが将来有望で、次のステップに活かされてようとしているのか、見えてこない

 

 そんな中でも個人的に興味があるのは、PD-L1<1%の患者集団におけるニボルマブ+イピリムマブ併用療法の効果です。

 CheckMate227レジメンとKEYNOTE189/407レジメン、PD-L1<50%の患者集団を対象とした場合、果たしてどちらが優れているのでしょうか。

 あるいは、さらに患者集団をPD-L1<1%に絞った場合にはどうなるのでしょうか。

 この結果が出るまでは、PD-L1<1%の患者におけるニボルマブ+イピリムマブ併用療法の効果はあくまで探索的検討の結果でしかないだけに、実臨床に導入するのは時期尚早というべきでしょう。

 

 

Nivolumab plus Ipilimumab in Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer

Hellmann et al.

N Engl J Med 2019, 381, 2020-2031

 

背景:

 進行非小細胞肺がん患者に対する早期臨床試験において、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法はニボルマブ単剤療法に対して奏効割合に優れ、とりわけ腫瘍病巣がPD-L1を発現している患者においてはその傾向が強かった。本治療に関し、長期的な(生存期間に関連した)有効性データが待ち望まれていた。

 

方法:

 今回のオープンラベル第III相臨床試験では、IV期もしくは術後再発の未治療非小細胞肺がん患者を対象とした。PD-L1を1%以上発現している患者は、ニボルマブ+イピリムマブ併用群(NI群)とニボルマブ単剤療法群(N群)と化学療法群(C群)に1:1:1の割合で無作為に割り付けた。また、PD-L1発現が1%未満の患者は、ニボルマブ+イピリムマブ併用群(NI群)、ニボルマブ+化学療法群(NC群)、化学療法群(C群)に1:1:1の割合で無作為に割り付けた。今回報告する主要評価項目は、PD-L1を1%以上発現している患者群におけるNI群とC群の全生存期間である。

 

結果:

 PD-L1を1%以上発現している患者群において、全生存期間はNI群で17.1ヶ月(95%信頼区間は15.0-20.1ヶ月)、C群で14.9ヶ月(95%信頼区間は12.7-16.7ヶ月)で、NI群で有意に優れていた(p=0.007)。2年生存割合はNI群で40.0%、C群で32.8%だった。奏効持続期間中央値はNI群で23.2ヶ月、C群で6.2ヶ月だった。PD-L1発現が1%未満の患者群においても、全生存期間はNI群で17.2ヶ月(95%信頼区間は12.8-22.0ヶ月)、C群で12.2ヶ月(95%信頼区間は9.2-14.3ヶ月)と、やはりNI群で優れていた。すべての患者を対象として解析すると、全生存期間はNI群で17.1ヶ月(95%信頼区間は15.2-19.9ヶ月)、C群で13.9ヶ月(95%信頼区間は12.2-15.1ヶ月)だった。Grade 3-4の治療関連有害事象はNI群で32.8ヶ月、C群で36.0ヶ月だった。

 

結論:

 非小細胞肺がん患者に対する初回薬物療法において、PD-L1発現状態にかかわらず、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は標準化学療法と比較して生存期間を延長した。過去に知られていない有害事象は確認されなかった。

 

本文から:

ニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性は、悪性黒色腫および腎細胞がんに対して既に実証されている

・非小細胞肺がん患者も対象とした第I相臨床試験であるCheckMate012試験では、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法はニボルマブ単剤療法と比較して良好な奏効割合を示し、とりわけPD-L1を発現している腫瘍ではその傾向が強かった。また、イピリムマブの投与量と投与スケジュールを低減(イピリムマブ1mg/kgを6週間ごとに投与)させてニボルマブと併用することで、有効性を保ちつつ有害事象を軽減することができた

・患者腫瘍病巣のPD-L1発現状態は、登録から遡ること6か月以内に採取された生検組織で検討した

・PD-L1発現≧1%の患者はPart 1aに、PD-L1発現<1%の患者はPart 1bに組み入れた

・Part 1aにおける治療プロトコールの詳細は以下の通り

 NI群:ニボルマブ(3mg/kgを2週間ごと)+イピリムマブ(1mg/kgを6週間ごと)

 N群:ニボルマブ(240mgを2週間ごと)

 C群:プラチナ併用化学療法を3週間ごとに最大4コースまで

・Part 1bにおける治療プロトコールの詳細は以下の通り

 NI群:ニボルマブ(3mg/kgを2週間ごと)+イピリムマブ(1mg/kgを6週間ごと)

 NC群:ニボルマブ(360mgを3週間ごと)+C群の治療

 C群:プラチナ併用化学療法を3週間ごとに最大4コースまで

・免疫チェックポイント阻害薬は、病勢進行もしくは忍容不能の毒性出現に至るまでは、最大2年間まで継続投与された

・各治療群間において、臨床試験継続中の治療クロスオーバーは認められなかった

・二次治療以降の治療内容は各主治医の意向にゆだねられた

・本試験の主要評価項目は、Part 1aでのNI群とC群の全生存期間解析だった

・副次評価項目は、以下の順で階層的に評価された

1) Part 1aでのNI群とC群の無増悪生存期間解析

2) Part 1bでのNC群とC群の全生存期間解析

3) PD-L1≧50%の患者群におけるN群とC群の全生存期間解析

・Part 1aに対して、1,200人の患者を登録し、無作為割付する計画をした

・主要評価項目解析のため、有意水準0.025の両側検定でハザード比0.74の差を90%の検出力で検出する仮定で、NI群とC群合わせて800人の患者(553イベント)を必要とした

・中間解析の段階では、有意水準0.023が必要とされた

・ある評価項目で有意水準が満たされなければ、それ以降の階層的副次評価項目は統計学的な意義を失い、参考データとしてのみ扱うこととした

・データカットオフは2019年7月2日とした

・2015年8月から2016年11月にかけて、2876人の患者がCheckMate227試験に組み入れられ、1739人に対して無作為割付が行われた

・PD-L1発現≧1%の患者は1189人で、うち396人がNI群に、396人がN群に、397人がC群に割り付けられた

・PD-L1発現<1%の患者は550人で、うち187人がNI群に、177人がNC群に、186人がC群に割り付けられた

・全生存期間解析に関する最小追跡期間は29.3ヶ月だった

・病勢進行後、NI群では44.0%が、C群では56.3%が二次治療を受けた

・C群の42.8%は、二次治療以降で免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けた

・Part 1aにおいて、NI群における1年生存割合は62.6%、2年生存割合は40.0%だった

・Part 1aにおいて、C群における1年生存割合は56.2%、2年生存割合は32.8%だった

・Part 1aにおいて、C群に対するNI群の生存期間延長効果のハザード比は0.79(95%信頼区間は0.65-0.96)だった

→これは事前に設定した0.74を逸脱しており、厳密にいえばnegative studyであるため、これ以降の解析は全て参考データでしかない

・Part 1aにおいて、NI群とC群の生存曲線は、当初はC群の生存曲線が上を行っており、6か月強のあたりで交差して、長期生存効果はNI群の方が優れていて、結果として全体として優位性はNI群で高いようだった

・Part 1aにおいて、サブグループ解析では、 

 65歳未満

 男性

 PS 0

 喫煙者

 扁平上皮癌患者

 肝転移なし

 骨転移なし

 脳転移なし

の患者群ではNI群が優位に優れていた

・Part 1aにおいて、奏効割合はNI群で35.9%(95%信頼区間は31.1-40.8%)、C群で30.0%(95%信頼区間は25.5-34.7%)で、完全奏効割合はNI群で5.8%、C群で1.8%だった

・Part 1aにおいて、奏効持続期間はNI群で23.2ヶ月(95%信頼区間は15.2-32.2ヶ月)、C群で6.2ヶ月(95%信頼区間は5.6-7.4ヶ月)だった

・Part 1bにおいて、無増悪期間はC群と比較してNC群で有意に優れていた(2年無増悪生存割合はNC群で10.5%、C群で4.6%、ハザード比は0.73、97.72%信頼区間は0.56-0.95、p=0.007)

・Part 1bにおいて、生存期間中央値はNC群で15.2ヶ月(95%信頼区間は12.3-19.8ヶ月)、C群で12.2ヶ月(95%信頼区間は9.2-14.3ヶ月)で、ハザード比は0.78(97.72%信頼区間は0.60-1.02)、p=0.035だった