・肺がん患者に3回目の新型コロナウイルスワクチン接種は必要か

 結論から言えば、是非接種するべきです。

 

 我が国でも新型コロナウイルスワクチン接種者の割合が随分と高くなりました。

 NHK特設サイトから引用(データソースは首相官邸発表)によると、日本国内の全人口に占める新型コロナウイルスワクチン接種者の割合は、

・1回目接種完了者 78.5%(65歳以上に限れば91.8%)

・2回目接種完了者 75.6%(65歳以上に限れば91.2%)

とのことです。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/

 これが大分県ではどうかと言えば、2021/11/14時点で

・1回目接種完了者 77.69%(65歳以上に限れば92.18%)

・2回目接種完了者 74.62%(65歳以上に限れば91.62%)

とのこと。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/pref/oita/

 ワクチン接種が先行した欧米でも、1日の発症者数がまだ万人単位という国もあります。

 こうした国に少し遅れて、デルタ株の猛威がわが国を席巻したのはまだ記憶に新しく、予断を許さないことは言うまでもありません。

 とはいえ、今回のパンデミックよりずっと前からしばしば諸外国から揶揄されていたように、もともと我が国にはインフルエンザ流行期にはマスクをする、まめに手を洗うという、今となっては誇るべき衛生習慣があります。

 もちろんワクチン接種は個人レベルでも公衆衛生レベルでも、疾患の発症抑制や重症化予防の効果が期待できるものの、天然痘のように疾患自体が根絶されることは稀です。

 また、これまで全世界人口30人に対し1人が罹患(2億5千万人以上2019年の推定世界人口77億人に対し、本日時点でのジョンス・ホプキンス大学の公表では2億5千万人強が罹患=3.2%)し、510万人強が死亡している深刻な疾患で、全額公費負担、社会的にも強く接種が推奨されているワクチンでありながらも、上記データが示す通り、我が国全人口の20-25%は何らかの理由で新型コロナウイルスワクチンの接種を受けられずにいます。

 だからこそ個人の衛生行動で補完するべきですし、その意義があります。

 

 導入が長くなってしまいました。

 肺がん患者における新型コロナウイルスワクチンの有効性と安全性について、フランスから以下の論文報告がありました。

 フランスという国の背景として、この記事から過去4週間でのCoVID-19の1日平均発症者数は7700人強、1日平均死亡者数は34人ということを踏まえておかなければなりません。

 中国からの報告では、肺がん患者が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合の死亡率は30-40%にも及ぶとされていますが、今回の報告では2回のワクチン接種後の新型コロナウイルス感染者の割合は1.3%(4/306)、これにより入院を要した割合は0.3%(1/306)、死亡率は0%だったとのことです。

 一方で、2回のワクチン接種後に免疫応答を評価できた269人のうち51人(18.9%)では不十分な免疫反応しか確認できなかったそうですが、51人のうち30人は3回目のワクチン接種を受け、そのうち27人は十分な免疫反応が確認できたとのことでした。

 肺がん患者のうち約5人に1人は2回のワクチン接種でも十分な免疫応答が期待できないものの、3回接種でそこを補完できるということなので、我が国でも2回接種後の肺がん患者は積極的に3回目の接種を受けるべきでしょう。

 うちの母や義父にも伝えました。

 

 

 

Efficacy of SARS-CoV-2 vaccine in thoracic cancer patients: a prospective study supporting a third dose in patients with minimal serologic response after two vaccine doses

 

Valérie Gounant, MD, MSc et al., J Thorac Oncol Published:November 16, 2021

DOI:https://doi.org/10.1016/j.jtho.2021.10.015

 

French Study Finds COVID-19 Vaccine Effective in Patients With Lung Cancer

 

The ASCO Post

Posted: 11/16/2021 1:05:00 PM

Last Updated: 11/16/2021 2:40:30 PM

 

 今回フランスから報告された研究によると、肺がん患者に対するSARS-CoV-2ワクチン接種は安全かつ効果的で、ほとんどの患者は2回のワクチン接種で免疫応答が得られた。2回接種後も抗体化が低かった患者のうち11%には3回目の接種が行われ、結果として88%で有効な免疫反応が認められた。

 

 一般大衆に対するCoVID-19ワクチンの安全性と効果は既に確認されているが、ほとんどのCoVID-19ワクチン関連臨床試験では肺がん患者は対象から除外されていたため、肺がんの患者でもワクチン接種後に有効な抗ウイルス抗体が産生されるのかどうかわかっていなかった。過去の研究によると、CoVID-19に罹患した際の死亡率は、一般大衆よりも肺がん患者の方が統計学的有意差を以て30%高いと報告されていた。中国からの報告によると、一般大衆におけるCoVID-19罹患時の死亡率は0.7-8.0%であるのに対し、肺がん患者におけるそれは29-39%にも及ぶという。また、インフルエンザにおいては、一般大衆と比較してがん患者、ことに65歳以上の患者ではワクチンによる抗体産生が少なくなることが指摘されている。インフルエンザワクチンの効果に関するメタ解析によると、ワクチン接種による免疫応答(seroconversion、ワクチン接種前と比較し、接種後の抗体化が4倍以上に増幅されると定義)は、がん患者では健常者に対して有意に低下していた(オッズ比0.31、95%信頼区間0.22-0.43)。そのため、健常者と同等の免疫応答を得るには、がん薬物療法ステロイド投与により抵抗力が低下しているがん患者では2回のインフルエンザワクチン接種が必要とされる。今回企画したCOVIDVAC-OH試験では、がん患者における新型コロナウイルスワクチンの効果を検証することを目的に1100人を超えるがん患者に対するワクチンの効果を前向きに検証することとした。今回は胸部悪性腫瘍の患者集団について報告する。 

 

 Bichat病院で診療されている胸部悪性腫瘍の患者を対象とした。2021年1月26日から7月28日の期間に、胸部悪性腫瘍と診断済み、かつ適格条件(過去3か月間にCoVID-19に罹患していない、今後3か月間は生存していると見込まれる、アレルギー疾患や新型コロナウイルスワクチン接種既往がない)を満たす患者を診療録から抽出し、連絡をとってワクチン接種を推奨した。ワクチン接種に同意した患者に対し、以下の順(75歳以上の患者もしくは化学療法施行中の患者、免疫チェックポイント阻害薬を使用している患者、片肺全摘後あるいは胸部放射線治療後による放射線性肺臓炎罹患後の患者、経口チロシンキナーゼ阻害薬使用中の患者、特段の薬物療法を受けていない患者)で優先順位をつけて、外来でBNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー社製)を接種した。

 

 今回の研究では、306人の胸部悪性腫瘍患者が対象となった。このう43人は本試験参加から3ヶ月以上前にCoVID-19罹患歴があった。181人(59.2%)が男性、285人(93.1%)が肺がん患者で、211人(68.9%)が非小細胞非扁平上皮肺がん患者、49人(16%)が扁平上皮肺がん患者、22人(7.2%)が小細胞肺がん患者、13人(4.4%)が悪性胸膜中皮腫患者、11人(3.5%)がその他の胸部悪性腫瘍患者(胸腺がん5人、カルチノイド4人、過誤腫(性軟骨腫)1人)だった。年齢中央値は67.0歳(四分位区間58-74)で、70-79歳の患者が95人(31%)、80歳以上の患者が31人(10.1%)を占めていた。175人(57.2%)の患者が進行期で、胸部悪性腫瘍の確定診断から1年未満の患者を117人(38%)含んでいた。試験参加からさかのぼること3ヶ月以内に、74人(24.2%)の患者は化学療法を受けていて、うち51人は化学療法単独、2人は根治的胸部放射線照射併用、21人は免疫チェックポイント阻害薬併用で治療を受けていた。同様に49人(16%)は免疫チェックポイント阻害薬単独で、43人(14%)は経口チロシンキナーゼ阻害薬もしくはベバシズマブによる治療を受けていた。37人(12.1%)の患者では、III期病変に対する過去の胸部放射線照射により肺線維化を伴っていた。89人(29%)の患者で胸部外科手術の既往があり、うち6人は片肺全摘、79人は肺葉切除あるいは肺部分切除、4人は胸腺切除もしくは縦隔腫瘍摘除を受けていた。20人(6.5%)の患者では免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象のコントロール、疼痛緩和、脳転移巣に対する支持療法、重症COPDに対する治療といった理由で3週間を超える副腎皮質ステロイド投与を受けていた。95人(31.0%)の患者では、胸部悪性腫瘍の病勢コントロールが得られていない状況にあった。

 対象者のうち283人が28日間隔で2回のワクチン接種を受けた(フランスでは2021年1月初旬から新型コロナウイルスワクチン接種可能となったが、利便性向上のために28日間隔での接種を標準とし、健常者では42日間隔での接種が許容されている)。抗SARS-CoV-2スパイク抗体はアボット社のARCHITECT SARS-CoV-2 IgGイムノアッセイキットを用いて測定した。測定のタイミングは、mRNAワクチン接種1回目の前、1回目接種後4週間目のあと、2回目接種後2-16週の間とした。 BNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー社製コミナティ)を使用した。

 

 観察期間中央値202日(四分位間195-244)の間に、8人(2.6%)が有症状、PCR陽性のSARS-CoV-2感染症と診断された。1回目の接種後4日目、6日目、12日目、20日目に各1人ずつ、2回目の接種後33日目、35日目、42日目、65日目に各1人ずつが診断された。全身状態の悪い胸腺がん患者(PCR陽性と判定される2日前の測定で、抗SARS-CoV-2スパイク抗体測定値300.4U/ml)1人のみが入院したが、酸素投与も行わないままに1週間後には退院し、その他の患者も速やかに良好な経過で改善した。

 2回目のワクチン接種後14日目以降の血清学的評価を行った269人のサンプル解析の結果、17人(6.3%)では抗SARS-CoV-2スパイク抗体陰性(<50U/ml)で、34人(11%)では<300U/ml(12.5パーセンタイル)と弱陽性に留まっていた。なお、抗SARS-CoV-2スパイク抗体≧300U/mlが抗SARS-CoV-2中和抗体との相関を認める閾値とされている。

https://www.abbott.co.jp/media-center/press-releases/12-23-2020.html

 

 多変数解析では、年齢、最後の化学療法を行ってから3ヶ月以内、慢性的な副腎皮質ステロイド使用の3項目が免疫応答の欠如と有意に相関する因子だった。30人の患者が3回目のワクチン接種を受け、そのうち3人のみは血清学的に免疫応答が得られていないと確認されたものの、その他の患者では明らかな免疫応答(seroconversion)が確認された。

 

 今回対象となった306人、のべ587回のワクチン接種ではアナフィラキシー反応は認められなかった。安全性データは278人(90.1%)の患者について回収済みであり、報告のほとんどは局所の副反応(疼痛、発赤、腫脹)や36時間以内に寛解する38.5度未満の発熱、48時間以内に寛解する悪寒・倦怠感といったインフルエンザ様症状のみで、安全性に関する懸念はなかった。