・過剰診断・見落とし・AI診断について復習

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 2022/02/25に、台湾女性における肺がんCT検診についての話題に触れる予定です。

 その前に、2019/11/16に開催された肺がんCT検診認定機構の講習会スライドを復習します。

 

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 健康診断と一般診療のちがいについて。

 一般診療では、症状がある人を正しく診断し、正しく治療することが目標で、原則としてなんらかの診断をつける必要があります。

 一方、健康診断では無症状の人が対象なので、早期発見、早期治療を必要としない状態を無理に見つけて、対象者を不安にさせる必要はありません。

 とはいえ、実際に健康診断や人間ドックを受けて、結果報告書を受け取って外来にやってくる方はたくさんいらっしゃいます。

 健康診断や人間ドックで判定をする先生方は、どちらかというと見落としのないように細かな変化も指摘して、あとは二次検診の病院で結論を出してね、という姿勢でおられる方が大多数のように思います。

 検診見落としが頻繁に報道される我が国の趨勢からすると、やむを得ないことだと思います。

 

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 仮に健康診断の結果、がんと診断されたとしても、その後の経過はさまざまです。

 例えば、肺小細胞がんのように週単位でどんどん進行するがん。

 ある種の浸潤型肺腺がんのように、月単位で進行するがん。

 微小浸潤型腺がんのように、年単位で進行するがん。

 上皮内腺がんのように、そもそもほとんど進行しないがん。

 自然退縮する肺がん・・・はあんまり経験がありませんが、学会報告などでは目にすることがあります。

 緩やかに進行する、あるいは進行しない肺がんだったら、経過観察だけでよい(他の病気で天寿を全うする)こともあります。

 いずれにせよ、発見した後は、明らかにがんが疑われるようならば精密検査をしますし、経過観察できそうならば一定期間をおいて再検査をして、大きくなるか、かわらないか、小さくなるか、消えてしまうかを見定めます。

 

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 医療診断技術(画像診断・生検診断)が進歩するとともに、より早期のがんが見つかるようになりました。

 上皮内がんや前がん病変を早期発見して治療しても、結局国民全体の肺がんによる死亡率を下げることにつながらなかった、ということもあり得ます。

 早期発見・早期治療をしても肺がん死亡率低下につながらなければ、それは過剰診断と言えます。

・・・というのが一般論のようですが、じゃあ早期発見・早期治療をしなくてもいいのかというと、そういうことではないでしょう。

 早期発見・早期治療をすることでその後の人生が変わった患者さんは確実にいるはずです。

 効率だけを考えて健康診断の是非を断じるのは危険です。

 ただし、医療費の高騰・利益や成績主義の独善的医療・治療後の合併症の問題など、過剰診断の弊害については目配りが必要です。

 

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 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは子宮頸がんの発症予防に有効とされ、世界各地で接種が推奨されています。

 我が国では、HPVワクチンによる健康被害問題がクローズアップされ、なかなか浸透しません。

 HPV感染をした女性のうち、子宮頸がんを発症するのは上図のように8000人に1人程度とのことです。

 この8000人に1人の子宮頸がん患者さんを減らすためにワクチン接種が推奨されており、ワクチン接種後の健康被害に苦しむ確率とのバランスをどうみるか、ですね。

 

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 おとなりの国韓国では、1990年代後半に頸部超音波検査による甲状腺がんの検診スクリーニングが行われるようになり、甲状腺がんと診断される患者が急速に増えました。

 残念ながら、検診スクリーニングと早期発見・早期治療が行われるようになっても(もともと少なかった)甲状腺がんによる死亡者は減少しなかったそうです。

 

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 韓国での甲状腺がん検診スクリーニングが行われるようになって、甲状腺に限局したがんの罹患率は増加したのですが、リンパ節転移や遠隔転移を伴うがんの罹患率はほとんど変化しませんでした。

 ということは、検診スクリーニングによる早期発見例が増えたということでしょう。

 早期発見できるようになったのに患者さんの生命予後につながらなかったというのは、結局発見されても経過観察のみでよいということなのでしょうか。

 

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 米国では、乳がんの検診スクリーニングが普及して、早期乳がん罹患率は2.5倍まで増加しました(150%増えた)が、進行がんは20%減っただけでした。

 早期乳がんが150%も増えたのは過剰診断と捉えるのか。

 進行がんが20%も減少したのは乳がん検診の有効性の証左だと捉えるのか。

 切り口によって評価が変わりそうです。

 

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 1980年代後半以降、胸部CTが普及して、肺がんの年齢調整罹患率は緩やかに上昇しつつある一方で、肺がんの年齢調整死亡率は緩やかに低下しており、罹患率と死亡率の差が拡大しつつあります。

 成人喫煙率が低下していることが、肺がん死亡率低下と関連していると考えられています。

 

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 過去のアンケート結果に基づく・・・のかどうかは知りませんが、たばこは段階的に値上げされてきました。

 日本人成人喫煙率は、1960年代は男性80%強、女性20%だったのですが、2018年には男性30%未満、女性10%未満まで低下しています。

 

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 男性の成人喫煙率の低下と肺がん死亡率の低下が相関することは、我が国のみならず、英国でも確認されています。

 同様に、先進諸国(米・伊・仏)でも肺がん死亡率は低下しつつあります。

 

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 胸部レントゲンでは、今も昔も見落としの問題は避けられません。

 これはCTであっても同様で、見つけにくい死角、というのは確かに存在します。

 

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 見落としを避けるために人工知能(AI)による画像診断を参考にする機会が今後出てくるかもしれません。

 しかし、所見に最終的な責任を持つのは、結局は医師です。

 おそらく、AIそのものや、AIをプログラミング・提供した企業が責任を持つ、ということにはならないでしょう。