・台湾女性における肺がんCT検診と過剰診断

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 我が国の成人女性の喫煙率は、2018年のデータで8.7%とされています。

 1966年には18%だったので、約50年で半減しています。

 おとなりの台湾では、成人女性の喫煙率は5%未満とさらに低いんだそうです。

 

 約20年前の報告では、肺がん男性の85%、肺がん女性の47%に喫煙が関与しているとされていました。

 近年、東アジア諸国の一部や欧米諸国では喫煙人口が減少し、それに伴い喫煙が関与した肺がん患者数も減少すると見込まれています。

 相対的に肺がん患者さん全体における非喫煙者の割合は増えていくと予想されます。 

 

 先日の記事で、韓国における甲状腺がんの過剰診断、米国における乳がんの過剰診断について取り上げました。

 今回は台湾の低線量CT検診による肺がん過剰診断の話題について取り上げます。

 簡単にまとめると、低線量CT検診が行われるようになってから、早期肺がんと診断される女性が6倍に跳ね上がった一方で、進行肺がんと診断される女性は増えも減りもしなかったそうです。そのため、見かけ上は女性の肺がん患者さん総数が増え、5年生存割合が向上したのだとか

 我が国の実情を考えたときに非常に身につまされる内容です。

 冒頭の画像で、病巣最大径2cm以下かつ充実性部分最大径割合0.25未満の肺がん疑い病巣は過剰診断・過剰治療の対象となり得る病巣であり、そもそも手術する意義があるのかを考え直す必要があります。

 

 

Association of Computed Tomographic Screening Promotion With Lung Cancer Overdiagnosis Among Asian Women | Cancer Screening, Prevention, Control | JAMA Internal Medicine | JAMA Network

 

Wayne Gao et al.
JAMA Intern Med. 2022 Jan 18;e217769. 
doi: 10.1001/jamainternmed.2021.7769.

目的:
 大多数が非喫煙者である解析対象集団において、肺がんスクリーニング推進活動と肺癌罹患率の関係性を明らかにすること。

 

方法:
 台湾がん登録システムを活用し、2004年1月1日から2018年12月31日までの期間における臨床病期ごとの女性肺がん罹患者数を調査した。1980年代から、台湾女性の喫煙率は5%未満である。集積したデータは、2020年2月13日から2021年11月10日の期間に解析した。なお、台湾では2000年代初頭から肺がん低線量CTスクリーニングが開始された。主要評価項目は臨床病期ごとの肺癌罹患率の変化とした。がんスクリーニングプログラムが有効であれば、早期がん罹患率が上昇するだけでなく、進行がん罹患率が低下すると予想される。

 

結果:
 期間内に、約1200万人の台湾女性のうち57,898人が肺がんと診断された。肺がん低線量CTスクリーニング導入後、女性における早期(臨床病期0-I期)肺がん罹患率は2004年から2018年までの期間で10万人当たり2.3人から14.4人へ、絶対値にして10万人当たり12.1人(95%信頼区間11.3から12.8)、倍率にして6倍に跳ね上がった。しかし、進行(臨床病期II-IV期)肺がん罹患率は同期間内に10万人当たり18.7人から19.3人へ、絶対値にして0.6人(95%信頼区間-0.5から1.7)と微増し、少なくとも低下はしなかった。10万人当たり12.1人の早期肺がん患者数の増加は進行肺がん患者数の減少を伴わなかったため、増加した肺がん患者数は単に過剰診断された患者数を反映しているだけだと考えられる。2004年から2013年の期間における肺がん死亡者数に変化がないにもかかわらず、5年生存割合が18%から40%と倍増し、間違いなく世界最高の治療成績である。

 

結論:
 今回の調査で、ほとんどが非喫煙者であるアジア人女性を対象に肺がん低線量CTスクリーニングを行うと、かなりの肺がん過剰診断につながることがわかった。5年生存割合の増加は、発育の遅いおとなしい早期肺がんが低線量CTスクリーニングで増加していることに起因している。ランダム化比較試験での有効性が示されない限り、非喫煙者のような低リスク群に対する肺がん低線量CTスクリーニングは避け、重喫煙者のみに対象を絞るべきである。

 

 

 関連記事です。

 最大径2cm以下、かつ充実性部分の割合が0.5を超える病巣では、区域切除を標準治療とすべき、という結論が導き出されました。

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 現在進行形の、肺がんCT検診と胸部レントゲン検診の比較試験です。

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