・肺がんと診断されてから禁煙することに意味はあるのか?

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 先日、治療はおろか診断に必要な検査も拒んだ肺がん疑いの90代の患者さんが、静かに息を引き取りました。

 高度の喫煙歴があったこと、肺気腫間質性肺炎を合併していたこと、腫瘍マーカーのSCCが上昇していたことから、原発性肺扁平上皮がんだったのだろうと見積もっています。

 2019年にCTで異常陰影を見つけた当初は8mm程度の小さな影でしたが、最終的には70mmを超える大きさとなり、両肺多発転移、肝多発転移を伴いました。

 体調の悪化で独居生活を続けられなくなったために入院されたのですが、亡くなる1か月前までは、何としても1度は自宅に帰るとリハビリをしていました。

 自宅退院ができるかどうかを確認するために外出訓練を行ったところ、今のちゃぶ台に座ってまず手を伸ばしたのは、タバコと灰皿だったそうです。

 外出訓練時に喫煙させるわけにもいかず、結局最後の一服は幻に終わりました。

 

 こうしたケースでは患者さんに禁煙を強いる気持ちにはなれません。

 喫煙することもまた、本人の自由です。

 しかし、肺がんを含む喫煙関連疾患に対して抗おうとするのなら、禁煙は最初に取り組むべき患者さん自身の努力です。

 治療に真摯に向き合うという、周囲への決意表明と言っていいでしょう。

 ことに、肺がんの手術に臨む呼吸器外科医は、必ずと言っていいほど担当患者さんに禁煙することを要求します。

 術後の合併症予防が主たる目的であると聞きます。

 

 冒頭のスライドに示すように、喫煙していた男性が禁煙すると肺がんの発がんリスクが非喫煙者の4.5倍から2.2倍に低下するとされています。

 では、肺がんとすでに診断されてしまったとき、果たして禁煙することに意味があるのでしょうか?

 今回の論文は、「ある」と結論しています。

 内科医も、肺がん患者さんが長生きを望んでいるのであれば、積極的に禁煙を勧め、禁煙の支援をするべきでしょう。

 

 

 

 

 

Quitting Smoking At or Around Diagnosis Improves the Overall Survival of Lung Cancer Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis - Journal of Thoracic Oncology (jto.org)

Saverio Caini, MD, PhD 
Published:January 04, 2022, J Thorac Oncol 2022
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jtho.2021.12.005

 

背景:
 最近の治療法の進歩にもかかわらず、肺がんは予後不良の疾患であり続けている。今回の研究では、肺がんの診断時あるいは診断の前後で禁煙することが肺がん患者の生存に有益かどうか、現在の科学的根拠をまとめることを目的とした。

 

方法:
 MEDLINEあるいはEMBASEデータベースを用いて、2021年10月31日までに公表された論文を検索した。診断の前後、あるいは治療中に禁煙することが肺がん患者の生命予後にどの程度影響するのかを定量化した論文を対象にした。喫煙者を対照とした際の禁煙者の相対リスクと95%信頼区間を算出した。

 

結果:
 1980年から2021年の間に出版された21件の文献を今回の検討対象に含め、総計10,000人以上の肺がん患者を包含した。試験デザイン、患者背景、施行治療内容、喫煙状況、追跡期間は研究によってさまざまだった。診断の前後、あるいは治療中に禁煙することにより、相対リスク比は対象患者全体で0.71(95%信頼区間0.64-0.80)、非小細胞肺がん集団で0.77(95%信頼区間0.66-0.90、解析対象となった研究は8件)、小細胞肺がん集団で0.75(95%信頼区間0.57-0.99、解析対象となった研究は4件)、組織型不詳の集団で0.81(95%信頼区間0.68-0.96、解析対象となった研究は6件)と、どの解析対象においても生命予後が改善していた。

 

結論:
 診断の前後で禁煙することは、肺がん患者の生命予後によい影響をもたらした。治療にあたる医師は、肺がんと診断したのちも禁煙することのメリットについて患者教育と、患者の禁煙行動に必要な支援をすべきである。