・III期非小細胞肺がんに対し、術前化学療法に放射線治療を上乗せすることの意義はあるか

 根治切除を目指したい局所進行非小細胞肺がん患者さんに対して、しばしば術前化学放射線療法を行うことがあります。

 私が所属していた施設では、シスプラチン+ビノレルビン併用療法2コースもしくはシスプラチン+S-1併用療法2コースに加え、40-45Gy程度の放射線治療を上乗せして、それから根治切除に持ちこんでいました。

 CheckMate-816試験の結果を受けて、我が国での術前治療の考え方も近いうちに転機を迎えると思いますが、免疫チェックポイント阻害薬が術前治療に組み込まれると、放射線治療の在り方はなお一層深く煎じ詰める必要が出てくるでしょう。

 今回の報告は、術前化学療法に放射線治療を上乗せすることの意義は乏しい、という結論です。

 とはいえ、我が国におけるII期もしくはIII期の非小細胞肺がんにおいて、術前治療から放射線治療を省略するというのは、経験的にはあり得ない、と現時点で感じています。

 

 

 

 

Neoadjuvant chemoradiotherapy versus neoadjuvant chemotherapy for patients with stage III-N2M0 non-small cell lung cancer (NSCLC): A population-based study.

 

Marah Akhdar et al.

ASCO2022 abst.#8503

DOI: 10.1200/JCO.2022.40.16_suppl.8503

 

背景:

 N2の所見を伴う臨床病期III期の非小細胞肺がん(c-stage III-N2-NSCLC)には多様な患者が含まれており、どのような治療選択をするかは意見が分かれる。集学的治療の一環としての導入治療はこの患者集団における標準治療である。今回は、c-stage III-N2-NSCLCに対する治療としての放射線治療や術前化学療法が生命予後に寄与する効果を調査することにした。

 

方法:

 米国の疾患データベースであるSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)を用いて、2004年から2015年の期間に確定診断された全ての非小細胞肺がん患者を抽出した。同側縦隔リンパ節転移(N2)のあるIII期非小細胞肺がんで、T因子は全て許容し(any T)、既知の遠隔転移がない(M0)ことを適格条件とした。調査する主な患者集団として、術前治療として化学放射線療法(CRT)もしくは化学療法(CT)を受けた者とした。主要評価項目は全生存期間(OS)、がん特異的生存期間(CSS)と、月単位で測定した。OS、CSSにおける各治療の効果を単変数、多変数解析で分析するために、Cox比例ハザードモデルを用いた。多変数解析の際には、年齢、性別、婚姻歴、T因子、切除したリンパ節の状態、腫瘍組織型、原発巣、左右どちらの側に発生したか、術式はどのような方法だったかを調整因子とした。対象者に対して本試験で評価する共変量に基づいた重みづけを行うため、逆確率重みづけ法(Inverse probability treatment weighting, IPTW)を適用した。

 

結果:

 1175人の患者を評価対象とした。799人(68.0%)は術前化学放射線療法を、376人(32.0%)は術前化学療法を受けていた。対象者の年齢中央値は63歳(四分位間56-69)だった。T因子について、T2の患者が最多(561人、47.7%)で、T4(243人、20.7%)、T1(228人、19.4%)、T3(143人、12.2%)と続いた。最多の組織型は非扁平上皮がんで、773人(65.8%)を占めていた。原発巣の部位は上葉が最多(788人、67.1%)だった。術式は葉切除が917人(78.0%)、片肺全摘が184人(15.7%)、部分切除/区域切除が69人(5.9%)だった。術前化学療法に放射線治療を上乗せすることにより、術前化学療法単独に比べてわずかにOS中央値(51ヶ月 vs 47ヶ月)を延長し、CSS中央値(75ヶ月 vs 59ヶ月)も延長していた。しかし、OS(ハザード比1.08、95%信頼区間0.91-1.28)とCSS(ハザード比1.04、95%信頼区間0.89-1.21)のいずれも統計学的に有意な差には至らなかった。年齢、T3-4期、非扁平上皮がん、下葉原発、郭清したリンパ節の転移陽性、片肺全摘といった項目はいずれも独立したOS、CSS予後不良因子だった。IPTWを用いて統計学的処理を行っても、CRTを行った患者集団においてOS(ハザード比1.15、95%信頼区間0.95-1.40)やCSS(ハザード比1.12、95%信頼区間0.90-1.39)が改善することはなかった。

 

結論:

 術前化学療法に放射線治療を上乗せしても、有意な生存期間延長効果は認めなかった。c-stage III-N2-NSCLC患者に対し、最適な治療を正しい順序でどう行うか検討するにあたり、多数の予後因子を考慮するべきである。

 

 

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