・ニボルマブ+イピリムマブ±化学療法における副作用対策の基本的考え方

 先日、ニボルマブ+イピリムマブ±化学療法についてのオンラインセミナーがありました。

 新型コロナウイルス感染症患者さんが夕方から2人入院してきて、対応に忙殺されましたが、どうにか途中から参加することができました。

 

 どちらかというと、本治療の有効性よりも副作用マネジメントに主眼が置かれたセミナーだったように思います。

 キーワードは「サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome, CRS)」でした。

 本来は、「抗体医薬品の使用中ないしは使用直後に現れる、炎症性サイトカインの放出によって引き起こされる症状の総称」、という定義ですが、本セミナーではより広く捉え、使用中ないしは使用直後に限らず、炎症性サイトカインの放出によって引き起こされる多彩な症状からなる症候群、といった感じでした。

 特徴は、発症したらあれよあれよと急速に病状が悪化するということです。

 昨日の夜から風邪症状が出てきて、解熱鎮痛薬内服で経過を見ていたら、今日の夜には亡くなってしまった、というような急激な経過をたどります。

 集中治療室に収容して血液透析をしただの、血漿交換をしただの、通常のがん診療ではお目にかからないような全身管理のあれこれが熱く語られていました。

 今回は、そうした議論の中から心に残ったフレーズや私が想起した内容を書き残しておきます。

 

・分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により、進行肺がん患者さんの生存期間が5年を超えることは珍しくなくなった

・進行肺がん患者さんの中には、長生きする人もいれば、比較的経過のおとなしい慢性疾患化する人も出てきて、病状悪化時の対応のしかたを見直す必要が出てきた

・化学療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬それぞれに、副作用の出方も対策も異なる

・化学療法の副作用は高い頻度で発生するので、特に消化器毒性や骨髄抑制に対する傾向と対策を、コースごとに繰り返し組んでいく

・分子標的薬は起こりうる副作用とその時期がある程度予測できるため、定期検査や予防的治療を予め仕込んでおく

・免疫チェックポイント阻害薬も起こりうる副作用はある程度予測できるが、低頻度ながらも重篤な、それでいて適時・適切な治療によりかなり回復が期待できる副作用があり、一方で治療のタイミングを逸すると急速に不幸な転帰を辿ることがある

・免疫チェックポイント阻害薬により起こる副作用で、原因が明らかなものはガイドラインに沿った治療を行えばよいが、原因がはっきりせず、加えて経過が急速なものに対しては、何はともあれステロイドパルス療法を行ってからあとのことを考える

・原因の特定をしてから治療を始めるという原理主義をこだわり過ぎると、患者さんの命を危険にさらすことになり得る

ニボルマブ単独よりも、イピリムマブを上乗せすることにより、確実に副作用リスクは高まる

・免疫関連腸炎を疑ったら、単純CTで腸管壁の肥厚を確認する、高圧浣腸等の簡易的前処置で可能な範囲だけでも下部消化管内視鏡検査を行い、所見があればステロイド投与やインフリキシマブ投与をためらわない

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけにあちこちの医療機関で測定できるようになったIL-6を調べて、異常高値なら迷わずステロイドを始める

・IL-6高値を含め、サイトカイン放出症候群を疑うような多臓器不全の所見があったら集中治療室での管理を始めるとともに、迷わずステロイドパルスや血漿交換を考える

・心筋炎を疑うような発熱、クレアチンキナーゼ高値、トロポニンT陽性を見たら(心臓カテーテル検査や心筋生検を行うに越したことはないが)迷わずステロイドを始める

・とにかく困ったらいったんステロイドパルス療法

・時機を逸さずにステロイドパルス療法

ステロイドパルス療法をとりあえず始めたとしても、そのせいで後から困ることはほとんどない

・免疫チェックポイント阻害薬の副作用を発見するにあたっては、定期検査で拾い上げようとするのではなく、患者さんの訴えや症状にアンテナを張って、有事の際に内科医としてのセンスを発揮するのが肝要で、とにかく原因精査よりも病状の安定化に全力を尽くす

・副作用の程度は、患者さんの免疫学的予備力と腫瘍のPD-L1発現状態に関係がありそう

・若くて免疫力が強そうな人は副作用も強く出やすい

・お年寄りの副作用は意外と軽く済む傾向があり、対処しやすい

・PD-L1が90-100%と著明高発現の人は、かなり副作用発現に注意してかからなければならず、あらかじめステロイドを入れておくことも選択肢

・高齢者にはニボルマブ+イピリムマブまでは使ったとしても、化学療法の上乗せはしない

・PD-L1発現50%以上の高齢者なら、ペンブロリズマブ単剤でいいだろう