・実際に術前免疫チェックポイント阻害薬療法を受けた患者さんのコメントから

 このところLCMC3、CheckMate816、NEOSTARと立て続けに術前免疫チェックポイント阻害薬投与からの肺がん切除術に関する記事を書きました。

 なぜ書いたかというと、今回の記事を書く前提にしたかったからです。

 

 今回掲載するのは、本ブログのコメント欄にたびたび投稿くださった患者さんの記載内容をまとめたもので、ご許可を頂いたので掲載します。

 当初は切除不能IIIB期原発肺腺がんと診断された方ですが、結果的に術前ペンブロリズマブ単剤療法の後に完全切除を施行され、病理学的完全寛解が確認され、現在も元気でお過ごしとのことです。

 学会報告や論文からはうかがい知ることのできない、患者さん本人の本音がにじみ出ています。

 

 進行期肺がんの領域で進んでいる免疫チェックポイント阻害薬+化学療法併用の波はもう周術期治療の分野にも打ち寄せてきていますが、こうした患者さんの声を我々は知っておくべきでしょう。

 

 

 

 肺癌治療中の50代女子です。X年5月に非小細胞肺腺癌(T3、N3、M0、ステージIIIb)と診断されました。ドライバー遺伝子変異は無く、PD-L1発現率は95%、主治医の勧めで初回からキイトルーダで治療しました。6回投与の後、謎の筋肉痛と関節痛がひどくなり、消去法でリウマチでもヘルニアでもないから副作用かなーと判定され、腫瘍がどんどん小さくなって経過も良好だからと2ヶ月間休薬、痛みが軽減したので11月より再開しました。休薬により状態が悪くなっていないかとCTを撮ったところ、もっともっと小さくなっちゃってて。 そこで、主治医が「完治を目指して手術で切除することを検討したい」とおっしゃったのです。「完治は望めないから」とキイトルーダなわけだし、自覚症状はなく、副作用も上記のようなものであるため、私自身は告知以前と全く同じ生活(朝晩は犬と1時間ずつ早歩き、週に6日はスポーツジムでトレーニング、月に何度か2時間立ちっぱなしで仕事)ができていました。切除して肺機能になにか障害が出たらやだなー、とは思いました。そして、少なくともかかりつけの病院においては「免疫チェックポイント阻害薬で小さくなったから切除して完治」というケースはまだひとつもないと聞いており、完治したら嬉しいけど不安もあるな、と思っていました。

 様々なことを考え合わせた上、素人ながら「切除手術は実験的なもの」という感触を持ちました。

 告知からしばらくの間は受け止めようがなくてオロオロしましたが、その後「がんはそこにいてもいい。悪さをしなければ、そこにあってもいい」という考え方に到達したことで、「そのためのキイトルーダなのだ」と深く納得し、悪さをしなければ普通に暮らせるのだからと気が楽になり、よく食べよく飲みよく笑い、運動する、という生活に戻ることができました。キイトルーダの副作用や「耐性ができてしまったら困るな」ということは心配ではあるけれど非常に安定している、治療も生活もうまくいっていて不満がない、という状況だったのにこの提案。うーむ・・。

 結局、キイトルーダ11回投与の後、X+1年3月に肺葉切除手術を受けました。切ってみたら癌細胞がなくなっていたそうです。その後、肺活量も元通り、生活にもトレーニングなどの趣味にもなんら困るところなく暮らしています。

 ここまでの治療を振り返って、いくつか考えたことがあります。

 

1)患者自身にとっては、放射線治療も免疫チェックポイント阻害薬も未知なるもの。特に免疫チェックポイント阻害薬については診断当時知っている人が少なくて、どの治療をするか選べと言われておおいに困ってしまいました。結果的にキイトルーダを選択して吉と出ましたが、放射線治療を選択していたらどうなっていたんだろう。そこは素人が決めるとこじゃない、という気がしました。「最後は自分で決めて」のスタンスが、患者初心者にとっては非常に辛かった、という思い出です。

 

2)免疫チェックポイント阻害薬の効き目についてもっともっといろいろなことがわかってくれば、私のようなケースは「切らないで完治」ということになるのではないか。「切ってみたら癌細胞がなかった」というのは、嬉しさと残念さが半々でした。肺は取られちゃったあとだし。なお、投与5回めから出始めた筋肉痛は投与終了から1年4ヶ月経っても残っていて、ステロイド剤と鎮痛剤の服用を長期にわたり続けました。その後、胃をやられてしまいました。ロキソニンをはじめ、複数の痛み止めを使っていたら胃が荒れました。やむなく鎮痛剤の種類を替え、さらに分量を減らし、プレドニゾロンについてもすこしずつ減量を試みたところ、不思議なことにある時期からふと「あれ?一段階楽になったかも」と思えるようになり、揺り戻しもありつつ、最近ではあきらかに「前よりマシ」になっています。それって、キイトルーダの効力が切れるということ?そしたら再発しちゃうってこと?素人としては、そんな不安もありますけれど・・・・痛みが減るのは何にせよめでたいことと思うようにしております。