局所進行 / 進行期肺がんと外科切除

 修行先から持ち帰ったおみやげはいろいろある。

 その中でも、今でも現役で役立てているのが、肺がん患者管理用のデータベース書式だ。 

 少しずつ手を加えながら使い続けている。

 そろそろ運用開始から10年を迎える。

 ときどき、ふと立ち止まるのだ。

 局所進行 / 進行期とひとくくりにされて、薬物療法の対象となる方たち。

 分子標的薬が出てこようが、免疫チェックポイント阻害薬が出てこようが、治療開始時の説明は変わらない。

 「治癒は望みがたい病状です」

 「治療の主役は、薬物療法です」

 「目標は症状を和らげることと、少しでも長生きをすることです」

 

 5年生存をする人は2000年代前半より確実に増えている気がする。

 この10年でも、多分増えている。

 しかし、長く生きている人をデータベースで紐解いてみると、ひとつの共通項が見えてくる。

 なんらかの形で、手術を受けている確率が高いのだ。

 最近でこそあまり聞かなくなったが、かつては肺がん副腎単発転移の患者さんの標準治療は、外科切除だった。

 腎細胞がんや生殖腺がんの領域では、進行期であったとしても外科切除が治療の前提である。

 大腸がんでも、肝転移の標準治療は外科切除である。

 多発肺転移を伴う小細胞がん、外科的肺生検ののちに化学療法を受け、10年くらい長生きしている患者さん。

 局所進行肺腺がんで、術前化学放射線療法→手術→術後化学療法を行い、結局脳転移再発したものの、その後の分子標的薬治療で寛解状態の患者さん。

 局所進行肺腺がんで、化学放射線療法後幾度となく再発したものの、膀胱転移を切り、大腸転移を切り、胃転移を切り、その後もう3年近くがん治療なしで無再発を続けている患者さん。

 全ての長期生存者がそうだとまでは言わないものの、治療の途中でなんらかの外科治療を受けている人が多い。

 手術を受ける体力のある人が長生きするのだ、という逆説的な捉え方もできるかもしれない。

 しかし、腫瘍組織が多ければ多いほど、様々なバイオマーカー検索も行いやすい、ということを考えると、目的を明らかにした上で進行期の患者さんにも外科切除を組み込む臨床試験があってもいい時期に来たのかもしれない。