EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対するペンブロリズマブ、化学療法、エルロチニブ

 EGFR遺伝子変異陽性肺がんの方に免疫チェックポイント阻害薬を使っていいものか。

 そんな質問を頂いた。

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬も、化学療法も全てやりつくして、最後の挑戦としてペンブロリズマブを使用するとのこと。

 データベースを検索してみたところ、EGFR遺伝子変異陽性患者でペンブロリズマブを使用した患者が4人いた。

 ニボルマブやアテゾリズマブを使用した患者はいなかった。

・Exon 18点突然変異+Exon 20点突然変異複合、原発肺腺がん完全切除後の術後補助化学療法臨床試験としてペンブロリズマブを使用、プロトコール治療完遂

・Exon 19欠失変異、多発肺転移を伴う進行原発肺腺がん、初回治療としてオシメルチニブを使用するも約22ヶ月で病勢進行、カルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法に移行

・Exon 19挿入変異、腹部リンパ節と肝転移を伴う進行原発肺腺がん、カルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法

・脳転移による下肢脱力を契機に発見された進行原発肺腺がん、オンコマインDxでドライバー遺伝子変異見つからず、PD-L1発現もなく、カルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法開始、その後cobas ver.2を用いたEGFR遺伝子変異再検索でExon 21点突然変異+de novo Exon 20 T790M変異複合が発覚するも、完全奏効になったのでそのまま治療変更せずに継続

というわけで、ペンブロリズマブを使用している患者は、どちらかというとup-frontに、EGFR-TKIよりも先行して使っている患者ばかりだった。

 過去の報告としては、初回治療としてペンブロリズマブ単剤療法を行ってみたもの、ペンブロリズマブ+EGFR-TKIを行ってみたものが見つかったので、参考までに記しておく。

 あまりパッとしないのが寂しい。

A Phase II Study of Pembrolizumab in EGFR-Mutant, PD-L1+, Tyrosine Kinase Inhibitor Naïve Patients With Advanced NSCLC

A Lisberg et al., J Thorac Oncol 2018 Aug;13(8):1138-1145.

doi: 10.1016/j.jtho.2018.03.035.

背景:

 ペンブロリズマブは、非小細胞肺癌に対して有意な抗腫瘍活性を示すにも拘らず、EGFR遺伝子変異陽性の患者においては陰性の患者に比べて効果が得られがたい。KETNOTE-001試験における我々の施設の経験では、EGFR遺伝子変異陽性の患者にあっても、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)治療歴のない患者の方が、治療歴のある患者よりもペンブロリズマブが有効だった。一般に、EGFR-TKI治療歴のないEGFR遺伝子変異陽性患者はペンブロリズマブの臨床試験からは除外されており、こうした患者における治療意思決定のためのデータは不足しており、PD-L1発現≧50%の患者についてはとりわけそうである。

方法:

 PD-L1発現陽性(≧1%)の進行非小細胞肺がん患者で、EGFR遺伝子変異陽性かつEGFR-TKI治療歴のない患者を対象に第II相臨床試験を立案した。対象患者にペンブロリズマブ200mg/回を3週間ごとに反復投与した。主要評価項目は奏効割合とした。副次評価項目は安全性、奏効割合以外の有効性評価項目、ペンブロリズマブ投与後のEGFR-TKI使用の効果と安全性とした。

結果:

 登録予定だった25人のうち11人までは集積したが、予想したような治療効果が得られないため患者集積を中止した。82%の患者では前治療歴がなく、64%の患者で治療感受性のEGFR遺伝子変異を認め、73%の患者ではPD-L1発現≧50%だった。奏効割合は9%(1/11)だったが、患者の腫瘍組織を用いたEGFR変異再検索により、当初の変異判定が誤りだったことが判明した(実際にはEGFR遺伝子変異陰性だった)。治療関連の有害事象はペンブロリズマブの既知の有害事象と類似していたが、特筆すべきこととして患者登録から6ヶ月以内に2人が死亡しており、うち1人は肺臓炎に起因していた。

結論:

 EGFR遺伝子変異陽性、PD-L1陽性、EGFR-TKI未治療の進行非小細胞肺がん患者に対するペンブロリズマブ単剤療法は効果に欠け、これはPD-L1≧50%の患者においても同様だった。この患者集団に対するペンブロリズマブ単剤療法は治療選択肢として不適切である。

本文記載より抜粋:

 EGFR遺伝子変異の内訳は、Exon 21点突然変異が4人、Exon 19欠失変異が3人、Exon 20挿入変異が2人、その他のuncommon mutation(E330K)が1人、野生型が1人だった。野生型の患者のみが喫煙者で、その他の患者は非喫煙者もしくは禁煙後の患者だった。野生型の患者のペンブロリズマブ投与継続期間は8.2ヶ月で、その他の患者では1.4-4.1ヶ月だった。プロトコール治療終了後の後治療を受けたのは9人、うち2人は化学療法もしくは放射線治療を受け、うち7人(Exon 21 3人、Exon 19 3人、Exon 20 1人)はEGFR-TKIを使用し、使用されたのは全てエルロチニブだった。データカットオフの時点で、7人中5人はエルロチニブを継続しており、治療継続期間中央値は109日間で、のこる2人はエルロチニブ投与中に死亡していた。このうち1人はExon 20挿入変異の患者で、プロトコール治療後に化学療法ではなく(効果があまり期待できない)エルロチニブを使用していた。肺臓炎で亡くなった患者はExon 19欠失変異の患者で、エルロチニブ開始から6週間目の段階では腫瘍縮小を認めたものの、ペンブロリズマブの最終投与から132日目、エルロチニブ投与開始から89日目に死亡した。

Pembrolizumab in Combination With Erlotinib or Gefitinib as First-Line Therapy for Advanced NSCLC With Sensitizing EGFR Mutation

James Chih-Hsin Yang, et al., J Thorac Oncol 2019 Mar;14(3):553-559

doi: 10.1016/j.jtho.2018.11.028

背景:

 抗EGFR薬はEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者に対する標準治療である。第I / II相のKEYNOTE-021試験において、抗EGFR薬のエルロチニブやゲフィチニブと抗PD-1抗体であるペンブロリズマブを併用する治療の忍容性を検証した。

方法:

 成人、未治療、EGFR遺伝子変異陽性、IIIB / IV期の非小細胞肺がん患者を対象として、ペンブロリズマブ2mg/kg、3週間ごとの点滴静注に加え、コホートEではエルロチニブ150mg/日内服、コホートFではゲフィチニブ250mg/日内服を行った。コホート拡大は、いわゆるフィボナッチ法に基づき、3+3デザインで行った。RECIST基準ver.1.1に基づき、中央判定により効果判定を行った。主要評価項目は第II相試験における推奨用量の決定とした。

結果:

 コホートEには12人(うち東アジア人は2人のみ)が、コホートFには7人(すべて東アジア人)が登録された。用量制限毒性やGrade 5の有害事象(=有害事象による患者死亡)は認めなかった。ペンブロリズマブ+エルロチニブ併用療法は忍容可能で、それぞれの単剤療法の際に予測される有害事象と同様だった。しかし、ペンブロリズマブ+ゲフィチニブ併用療法はGrade 3/4の肝機能障害を7人中5人(71.4%)で認め、そのうち4人で毒性による治療終了に至った。ペンブロリズマブ+エルロチニブ療法における高頻度の有害事象は発疹(50%)、ざ瘡(にきび)(33.3%)、下痢(33.3%)、甲状腺機能低下症(33.3%)、掻痒症(33.3%)だった。ペンブロリズマブ+エルロチニブ療法における奏効割合は41.7%(5/12)で、その中にはPD-L1発現が50%以上だった4人がすべて含まれていた。ペンブロリズマブ+エルロチニブ療法における無増悪生存期間中央値は19.5ヶ月(95%信頼区間は3.0-19.5ヶ月)、6ヶ月無増悪生存割合は81.8%(95%信頼区間は44.7-95.1%)、6ヶ月生存割合は91.7%(95%信頼区間は53.9-98.8%)だった。ペンブロリズマブ+ゲフィチニブ併用療法における奏効割合は14.3%(1/7)、無増悪生存期間中央値は1.4ヶ月(95%信頼区間は0.2-13.0ヶ月)、6ヶ月無増悪生存割合は47.6%(95%信頼区間は7.5-80.8%)、6ヶ月生存割合は85.7%(33.4-97.9%)だった。