2021年日本臨床腫瘍学会のPresidential Session 2でNEJ026試験のupdated dataが公表されていました。
NEJ-026試験は、EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象に、エルロチニブ+ベバシズマブ併用療法とエルロチニブ単剤療法の有効性を比較する試験であり、主要評価項目は無増悪生存期間とされていました。
NEJ-026試験については、以前も取り上げたことがあります。
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e944390.html
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e974779.html
主要評価項目は達成され、全生存期間は併用療法群50.7ヶ月、単剤療法群46.2ヶ月と、両群ともに極めて有望な結果を残しています。
解釈の切り口によって、捉え方はさまざまでしょう。
こちらは、やや乱暴な一覧表です。
発表時のスライド内容を、表に作り直してみました。
それぞれの臨床試験で患者背景がさまざまであるうえ、NEJ試験以外はどれも国際共同試験なので、単純な比較はできません。
とはいえ、NEJ-009試験とNEJ-026試験の結果が魅力的なのは間違いありません。
後治療でオシメルチニブを使えたら(ということは、再生検でT790Mが陽性だった患者)、生存期間は長かったようです。
不思議なことに、この患者集団で最も成績が良さそうなのは、エルロチニブ単剤群でT790M陽性になってからオシメルチニブを使えた患者のようです。
NEJ-026のプロトコール治療中、p0, p1, p2と3回にわたって血液検査を行い、循環腫瘍DNA(ctDNA)を検索しました。
p0はプロトコール治療開始前、p1はプロトコール治療開始から6週間経過後、p2はプロトコール治療開始後病勢進行確認時にサンプルを採取しています。
p0(−)、すなわち、プロトコール治療開始前の段階でctDNA陰性なら生存期間が長いのは、当たり前と言えば当たり前の話です。
BE群とE群のPFSの差は、p0(−)の患者集団同士では1.8ヶ月程度ですが、p0(+)の患者集団同士では4ヶ月に拡大します。
より予後不良のp0(+)の患者集団では、ベバシズマブの上乗せ意義があると考えてよいのかも知れません。
p0(+)かつp1(−)の患者集団では、BE群とE群のPFSの差が4.4ヶ月とのことです。
しかし、p0(+)の患者が治療後にp1(−)となるかどうかを予測するのは不可能なので、p0の状態だけを確認すればベバシズマブを上乗せするかどうかの判断には事足ります。
EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんの患者さんのうち、リキッドバイオプシーでEGFR遺伝子変異が確認された患者さんでは、積極的にベバシズマブやラムシルマブの上乗せを考慮してよいのかもしれません。
こちらは、学会発表にはなかった内容ですが、個人的な興味としてまとめてみました。
RELAY試験(エルロチニブ+ラムシルマブ)は全生存期間のデータがないので今回は含めていません。
とどのつまり、日本人のみを対象に絞った場合、EGFR-TKIを絡めたどの治療が有望なのでしょうか。
興味深いのは、現在もっとも一般的に利用されているはずのオシメルチニブ単剤療法は、NEJ-009レジメンやNEJ-026レジメンはおろか、アファチニブやダコミチニブといった第2世代EGFR-TKI単剤にも劣後している可能性が高いことです。
さらに言えば、NEJ-026におけるエルロチニブ単剤よりも、FLAURAにおけるオシメルチニブ単剤の方が7ヶ月も全生存期間が劣っています。
だからオシメルチニブよりもエルロチニブの方が優れているなどと言うつもりはありませんし、このこと自体が異なる臨床試験同士の、しかも副次評価項目のサブグループ解析同士を比較することの不適切さを示していると考えますが、それを差し引いてもオシメルチニブ単剤療法を見直すきっかけにはなるのではないでしょうか。
治療初期の効果不足を背景にTPS>50%の患者集団におけるペンブロリズマブ単剤療法を見直して併用療法を考えるのであれば、生存期間延長の効果不足を背景にEGFR遺伝子変異陽性の患者集団におけるオシメルチニブ単剤療法をもまた、見直すべきではないでしょうか。