・私のレジェンド

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 長く肺癌診療を続けていると、レジェンドとしか言いようのない患者さんに出会います。

 局所進行肺癌に対して、右片肺切除+縦郭リンパ節郭清といった大きな手術を受けて、長期生存している患者さん。

 進行肺癌に対する化学療法を繰り返しながら、胃転移、大腸転移、膀胱転移に対する病巣部分切除と脳転移に対する複数回の定位脳照射を経て、なおも力仕事に出かけていく患者さん。

 進行肺癌+二次癌に苛まれながらも、小さな子供さんのために手術、定位脳照射、数えきれないくらいの化学療法を繰り返してきた私と同年代の患者さん。

 たくさんのレジェンドの中に、私が子供の育て方で悩んでいたときに相談に乗ってくださった方がいます。

 確定診断の時点で骨盤転移を合併していた方で、早期にPSが低下して治療に行き詰まるのではないかと心配していました。

 EGFR遺伝子変異陽性の方だったのですが、治療開始当時はまだEGFRチロシンキナーゼ阻害薬から始めるのがいいのか、化学療法から始めるのがいいのか、結論が出ていない頃でした。ご本人といろいろと相談しましたが、体力があるうちにきつい治療から取り組もうということになり、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法から開始し、その後EGFRチロシンキナーゼ阻害薬にスイッチしました。この方は現在もまだエルロチニブを服用しておられ、オシメルチニブは温存できています。 

 当初から食事療法にも熱心に取り組まれていました。当時はピンとこなかったのですが、治療の土台となる日々の食事を工夫することの大切さは、いまならよく分かります。

 その方とは今でも新年にことよせてご挨拶をしています。

 私はどちらかというと年賀状の習慣にやや否定的な手合いですが、一方で新しい年を言祝ぐにあたり、ご様子伺いのためについ筆を執りたくなるような方が、今回取り上げるレジェンドです。

 私から賀状をお送りしたところ、先方からはショートメールが返ってきました。

 返事にことよせて、地方紙に記事を投稿したから読んでみてね、とのこと。

 ご許可を頂いて、その記事をここで取り上げます。

 

 

<がん検診控えが心配>

 新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、国民生活に大きな影響を与えている。連日、発表される新規感染者数に目を奪われるが、人命を脅かすのは未知のウイルスばかりではない。

 日本人の死因で最も多いのが、がんだ。2020年に亡くなった人は37万8千人にも上る

新型コロナにより検診や受診を控える人が増え、患者数も減っているといい、心配している。

 私も余命半年の告知を受けて以来、闘病中だが無事、11年目の新年を迎えることができた。多くの人の温かい支援に感謝している。元日には、主治医からメールが届いた。 

 「多くの患者から相談を受けるが、長い間、頑張っている人がいることを話すと、皆さん勇気が湧いてくるようです」

という内容だった。とても励みになり、まだまだ頑張らなければという気になった。

 何といっても、治療を早期に始めるほど生存率が上がる。検診は必ず受けてほしいと思う。