ASCOの肺癌ガイドライン更新

 IV期非小細胞肺癌に対するASCOの診療ガイドラインが2017年8月14日付けで更新されていた。

 前回更新が2015年だったので、2年ぶりの更新となる。

 2014年2月から2016年12月までに公表された論文に基づくとのこと。

 http://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.2017.74.6065

 ただし、残念ながら、我が国の実地臨床の観点からは、すでに時機を逸している感がある。

 そのため、ガイドライン更新の速度は、今後ますます速まることが予想される。

 ALK陽性肺癌に対する二次治療など、大規模臨床試験の裏づけが乏しいものについては、あえて記載されていない。

 また、個別の薬剤選択においては、米国の一般的な考え方や臨床を反映している(日本とはもちろんのこと、欧州との間でも相違点がある)ことは知っておくべきで、日本で応用するときには日本の実情に合わせる必要がある。

 前回のガイドラインと比較すると、この2年間の変化を振り返るのにちょうどいい。

 免疫チェックポイント阻害薬登場のインパクトがいかに大きいのかがよくわかる。

 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e825064.html

<キーポイント>

・IV期の非小細胞肺癌は治せない

・IV期の非小細胞肺癌に対する化学療法の選択は、年齢に基づいて決めるべきではない

<初回治療>

●EGFR遺伝子変異(−)、ALK融合遺伝子(−)、ROS1融合遺伝子(−)、パフォーマンスステータス0、1(、元気な2)の非扁平上皮癌患者

・PD-L1発現が50%以上で、禁忌でなければ、ペンブロリズマブ単剤療法が勧められる

 (エビデンスレベル:高、推奨度:高)

・PD-L1発現が50%以下の場合は、殺細胞性抗腫瘍薬の併用療法各種(カルボプラチン+パクリタキセル併用時はベバシツマブを併用しても良い)が勧められる

 プラチナ併用化学療法(エビデンスレベル:高、推奨度:高)

 非プラチナ併用化学療法(エビデンスレベル:中、推奨度:低)

・ペメトレキセド、カルボプラチンにベバシツマブを併用することのエビデンスはこれまでのところ不足している

・その他の免疫チェックポイント阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用はいずれも勧められない

・パフォーマンスステータス2の患者においては、殺細胞性抗腫瘍薬の併用療法、単剤療法、もしくは緩和ケアが考慮される

 化学療法(エビデンスレベル:中、推奨度:低)

 緩和ケア(エビデンスレベル:中、推奨度:高)

●EGFR遺伝子変異(−)、ALK融合遺伝子(−)、ROS1融合遺伝子(−)、パフォーマンスステータス0、1(、元気な2)の扁平上皮癌患者

・PD-L1発現が50%以上で、禁忌でなければ、ペンブロリズマブ単剤療法が勧められる

 (エビデンスレベル:高、推奨度:高)

・PD-L1発現が50%以下の場合は、殺細胞性抗腫瘍薬の併用療法各種が勧められる(ベバシツマブは使えない)

 プラチナ併用化学療法(エビデンスレベル:高、推奨度:高)

 非プラチナ併用化学療法(エビデンスレベル:低、推奨度:低)

・その他の免疫チェックポイント阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用はいずれも勧められない

・パフォーマンスステータス2の患者においては、殺細胞性抗腫瘍薬の併用療法、単剤療法、もしくは緩和ケアが考慮される

 化学療法(エビデンスレベル:中、推奨度:低)

 緩和ケア(エビデンスレベル:中、推奨度:高)

・シスプラチン+ジェムシタビン併用療法に対してnecitumumabを併用することについては、専門家パネルとしては推奨も否定もしない

●EGFR感受性変異陽性の患者では、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブのいずれかが勧められる

 (エビデンスレベル:高、推奨度:高)

●ALK融合遺伝子陽性の患者では、クリゾチニブが勧められる

 (エビデンスレベル:中、推奨度:中)

●ROS1融合遺伝子陽性の患者では、クリゾチニブが勧められる

 (エビデンスレベル:低、推奨度:低)

<二次治療>

●EGFR遺伝子変異(−)、ALK融合遺伝子(−)、ROS1融合遺伝子(−)、パフォーマンスステータス0、1(、元気な2)の患者

・PD-L1発現が1%以上の患者で、特定の禁忌事項がなく、初回治療で化学療法が行われ、免疫チェックポイント阻害薬の治療歴がなければ、ニボルマブ単剤療法、ペンブロリズマブ単剤療法、アテゾリズマブ単剤療法が勧められる

 (エビデンスレベル:高、推奨度:高)

・PD-L1発現が不明か、もしくは1%未満の患者で、特定の禁忌事項がなく、初回治療で化学療法が行われていれば、ニボルマブ単剤療法、アテゾリズマブ単剤療法、殺細胞性抗腫瘍薬の併用療法各種(我が国では単剤で行うか、ドセタキセル+ラムシルマブで行うかだろう)のいずれかが勧められる

 (エビデンスレベル:高、推奨度:高)

・その他の免疫チェックポイント阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用はいずれも勧められない

・初回治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者では、殺細胞性抗腫瘍薬の併用療法各種が勧められる

 プラチナ併用化学療法(エビデンスレベル:高、推奨度:高)

 非プラチナ併用化学療法(エビデンスレベル:低、推奨度:高)

・初回化学療法後で、免疫チェックポイント阻害薬の使用が近畿の患者では、ドセタキセルが勧められる

 (エビデンスレベル:中、推奨度:中)

・非扁平上皮癌の患者でペメトレキセドの治療歴がなければ、ペメトレキセドが勧められる

 (エビデンスレベル:中、推奨度:中)

●感受性EGFR遺伝子変異を有する患者では・・・

・初回治療でEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用した後に病勢進行に至った患者で、T790M耐性変異が見つかった場合には、オシメルチニブが勧められる

 (エビデンスレベル:高、推奨度:高)

・T790M耐性変異が見つからなかった場合には、プラチナ併用化学療法が勧められる

 (エビデンスレベル:低、推奨度:高)

・初回治療でEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用し、当初は腫瘍縮小効果が見られ、後に緩やかな、軽度の病勢進行が一部の臓器で見られた場合には、(外科切除や定位放射線照射といった)局所治療を行いつつEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を継続するのもひとつの選択肢である(エビデンスレベル:不十分、推奨度:低)

●ROS1融合遺伝子陽性の患者では・・・

・クリゾチニブの治療歴がなければ、クリゾチニブが勧められる

 (エビデンスレベル:低、推奨度:中)

・クリゾチニブの治療歴があれば、プラチナ併用化学療法±ベバシツマブが勧められる

 (エビデンスレベル:不十分、推奨度:中)

<三次治療>

●EGFR遺伝子変異(−)、ALK融合遺伝子(−)、ROS1融合遺伝子(−)、パフォーマンスステータス0、1(、元気な2)の非扁平上皮癌患者で、既に化学療法も免疫チェックポイント阻害薬も使用済みの患者では、ペメトレキセド単剤療法もしくはドセタキセル単剤化学療法が勧められる

 (エビデンスレベル:低、推奨度:高)

●EGFR感受性変異陽性で、初回治療でEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用し、プラチナ併用化学療法も行った患者では、ペメトレキセド単剤療法やドセタキセル単剤療法に優先して免疫チェックポイント阻害薬を使用するのを支持するデータは乏しい

 (エビデンスレベル:不十分、推奨度:)

<四次治療>

 標準治療と呼べるものはなく、治験・臨床試験への参加や、緩和ケアについて患者と担当医で話し合うべきである