・各種ドライバー遺伝子異常に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果

 

 対象患者数が少ないのが難点だが、さまざまなドライバー遺伝子異常陽性肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果について扱われた報告が2022年ASCO年次総会のポスター発表に含まれていました。

 要約の背景にあるように、一般にはEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子陽性肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬は「労(有害事象)多くして益(有効性)少なし」といった印象を受けますが、他のドライバー遺伝子異常に関しても十把一絡げにはできなさそうです。

 V600E以外のBRAF遺伝子変異や、エクソン20挿入変異以外のHER2変異に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果は際立っています。

 

 

 

Immunotherapy and chemo-immunotherapy for non–small cell lung cancer with novel actionable oncogenic driver alterations.

 

Laura Mazzeo et al.
ASCO2022 abst.#9057
DOI:10.1200/JCO.2022.40.16_suppl.9057

 

背景:

 免疫チェックポイント阻害薬単剤療法(IO alone)、もしくは免疫チェックポイント阻害薬とプラチナベース化学療法の併用療法(chemo-IO)は、PD-L1発現状態によりけりではあるが、いずれもIV期非小細胞肺がんに対する標準治療だ。EGFR遺伝子変異陽性、もしくはALK遺伝子異常陽性の患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性は限定的だが、それ以外のドライバー遺伝子異常陽性患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性はよく分かっていない。これまでにわかっている範囲でドライバー遺伝子変異を持たない非小細胞肺がんと比べると、BRAFやc-MET異常陽性の非小細胞肺がんでは奏効割合は同等、RET異常陽性では低く、HER2やEGFRエクソン20異常陽性ではデータに一貫性がない。

 

方法:

 2016年1月から2022年1月にかけて、後に挙げる何らかのドライバー遺伝子異常が検出され、ECOG-PS 0-2で、IO aloneやchemo-IO治療歴のあるIV期非小細胞肺がん患者を後方視的に集積した。対象としたドライバー遺伝子異常は、METエクソン14スキップ変異(METex14)、BRAF遺伝子変異(V600E変異あるいはその他の変異)、RET融合遺伝子(RETr)、HER2点突然変異(HER2mut)、HER2エクソン20挿入変異(HER2ex20)、uncommon EGFR変異(uEGFRmut)、EGFRエクソン20欠失変異(EGFRex20)とした。臨床病理学的背景、分子生物学的背景、治療反応性に関する解析を行った。

 

結果:

 64人の患者が集積され、METex14が20人(31%)、EGFRex20が12人(19%)、uEGFRmutが7人(11%)、BRAF V600Eが3人(5%)、BRAF nonV600Eが5人(8%)、HER2ex20が7人(11%)、HER2mutが6人(10%)、RETrが4人(6%)だった。このうち43人がIO aloneを、21人がchemo-IOを受けていた。観察期間中央値は22ヶ月で、全体の無増悪生存期間中央値(mPFS)は5.40ヶ月(95%信頼区間4.73-6.9)だった。chemo-IO群のmPFSは6.77ヶ月(95%信頼区間5.37-未到達)、IO alone群のmPFSは5.10ヶ月(95%信頼区間2.60-6.7)で、chemo-IO群の方が優れている傾向にあった(p=0.054)。治療内容によらず、ドライバー遺伝子異常ごとに評価すると、METex14ではmPFSは5.33ヶ月(95%信頼区間2.30-13.9)、BRAFでは9.9ヶ月(95%信頼区間6.70-未到達)、EGFRでは4.93ヶ月(95%信頼区間1.80-6.9)、HER2では11.4ヶ月(95%信頼区間4.2-未到達)、RETrでは5.28ヶ月(95%信頼区間1.42-未到達)だった。病勢コントロール割合は、全体としてchemo-IOの方がIO aloneよりも優れていた(84.2% vs 50%, p=0.013)。

結論:

 今回検討したドライバー遺伝子異常では、免疫チェックポイント阻害薬による恩恵はありそうだった。chemo-IOは病勢コントロール割合の観点ではIO aloneより優れていた。ドライバー遺伝子異常を有する腫瘍においても、免疫チェックポイント阻害薬の有効性をきちんと検証すべきである。



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