・KRAS遺伝子変異陽性肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の使い方

 

 先だってある先生から、

 「KRAS G12C遺伝子変異陽性、PD-L1 高発現(少なくとも50%以上)の切除不能非小細胞肺がんの高齢患者さんがいるんだけど、初回治療はソトラシブと免疫チェックポイント阻害薬のどっちがいいんだろう?」

と相談を受けました。

 その時のお話を聞く限りでは、切除不能ながら胸郭外の転移はなさそうでしたので、 

 「局所進行の状態にとどまっているのであれば、カルボプラチン併用根治的胸部放射線照射を行って、その後にデュルバルマブ維持療法を行ってはどうですか」

 「もし根治的胸部放射線照射の適応がなければ、免疫チェックポイント阻害薬よりもソトラシブを先に使う治療を組み立てるのがいいんじゃないでしょうか」

とお答えしました。

 

 今回紹介する報告は、こうした疑問点に一定の示唆を与えるものだと思います。

 ソトラシブの適用条件は、

 「がん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」

ですので、1次治療ではソトラシブは使用できません。

 

医療用医薬品 : ルマケラス (ルマケラス錠120mg) (kegg.jp)

 

 今回の報告では、1次治療としては化学療法+免疫チェックポイント阻害薬併用療法が望ましい、ということで、高齢者に本治療を適用していいのかとか、本治療後に増悪した場合にソトラシブを用いたときの安全性はどうなのか、という懸念はありますが、患者さんと治療方針を話し合う上での参考資料にはなるでしょう。

 

 

 

Outcomes of first-line immune checkpoint inhibitors with or without chemotherapy according to KRAS mutational status and PD-L1 expression in patients with advanced NSCLC: FDA pooled analysis.

 

Erica C. Nakajima et al.

ASCO annual meeting 2022, abst.#9001

DOI:10.1200/JCO.2022.40.16_suppl.9001

 

背景:

 一般に、ドライバー遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬投与には不利益(有効性・安全性ともに相対的に低い)を伴うと過去のデータが示している。一方、Kirsten rat sarcoma oncogene(KRAS)遺伝子変異陽性非小細胞肺がんにおいては、免疫チェックポイント阻害薬による1次治療の有用性が認められると一部の後方視的解析で示唆されている。この知見をより裏付けるため、参加者のKRAS遺伝子変異状態(変異あり、もしくは変異なし)が明らかにされていて、免疫チェックポイント阻害薬単独、あるいは免疫チェックポイント阻害薬+化学療法を1次治療で使用することの意義を検証する臨床試験12件を統合解析し、免疫チェックポイント阻害薬+化学療法併用(ICI+chemo)群、免疫チェックポイント阻害薬単独(ICI alone)群、化学療法単独(chemo alone)群での有効性を評価することにした。

 

方法:

 統合データを用いて、KRAS遺伝子変異状態(変異陽性、G12C変異陽性、変異なし)ごとに、奏効割合と全生存期間を解析した。奏効割合と95%信頼区間はClopper-Pearson法を用いて推計した。全生存期間中央値はKaplan-Meier法を用いて推計した。サブグループ解析はKRAS遺伝子変異状態、PD-L1発現状態(陽性(≧1%) vs 陰性(<1%)、高発現(≧50%) vs 低発現(<50%))を層別化因子として、コックス比例ハザードモデルを用いて行った。

 

結果:

 KRAS遺伝子変異状態は1,430人の患者で報告されていた(変異なし 61%、変異あり 39%=555人)。KRAS G12C変異(157人)はそのうちの11%を占めていた。背景因子はKRAS遺伝子変異陽性、KRAS G12C変異陽性、KRAS変異なしのどのサブグループでも偏りはなかった。それぞれのサブグループ、治療群における有効性は図1の通りだった。

 

結論:

 今回の後方視的統合解析から、KRAS遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者は、変異陰性患者と同様に、ICI+chemo併用1次治療の有用性があることが示唆され、早い段階で併用療法を受けるべきことが示唆された。KRAS遺伝子変異陽性非小細胞肺がんでは、ICI aloneやchemo aloneと比較してICI+chemoの有効性が最も高かった。KRAS G12C変異陽性患者の数が少なかったので、この患者集団における結果の解釈には限界がある。今後、KRAS遺伝子変異陽性非小細胞肺がんに対する分子標的薬の有効性を検証する臨床試験を立案するにあたっては、対照群としてICI-chemo併用群を設定するべきである。