・LC-SCRUM AsiaにおけるKRAS G12C出現頻度

 KRAS G12C変異陽性肺がんに対するsotorasibの有効性が示され、臨床導入が現実味を帯びてきました。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e989723.html

 

 今回の報告はあくまでNRAS、HRASにスポットを当てたものですが、実臨床におけるインパクトという意味では、KRAS陽性患者の実像を明らかにしたことの方が興味深いと思います。

 

 

 

Clinico-pathological and genomic features of NRAS- or HRAS-mutated non-small cell lung cancer (NSCLC) identified in large-scale genomic screening project (LC-SCRUM-Asia).

 

Yutaro Tamiya et al., 2021 ASCO Annual Meeting abst.#9054

 

背景:

 RAS(KRAS、NRAS、HRAS)は非小細胞肺がんなどのがん種において治療標的となりうるがん遺伝子であり、種々のRAS標的薬が臨床開発の途上にある。しかし、NRAS、HRASといった稀なRAS遺伝子変異がどの程度非小細胞肺がんの病態に関わっているのかは、まだよくわかっていない。

 

方法:

 大規模ゲノムスクリーニングプロジェクトであるLC-SCRUM-Asiaの枠組みの中で、次世代シーケンスシステムであるOncomine Comprehensive Assayを用いて肺がん患者のゲノム異常を前向きに解析した。本プロジェクトのデータベースを用いて、NRAS、HRAS遺伝子異常陽性患者の臨床病理学的背景をKRAS遺伝子異常陽性患者と比較した。

 

結果:

 2015年3月から2020年12月までの期間で、9131人の非小細胞肺がん患者がLC-SCRUM-Asiaに登録された。そのうち8374人(92%)で、次世代シーケンサーでの解析に成功した。RAS遺伝子変異は、タイプ別にそれぞれKRAS遺伝子変異1134人(14%)、NRAS遺伝子変異50人(0.6%)、HRAS遺伝子変異15人(0.2%)が認められた。NRAS変異、HRAS変異で頻度が高かった変異は、NRASでQ61X(78%)、HRASでG13X(80%)だった。一方で、KRAS変異で頻度が高かったのはG12X(84%)だった。NRAS変異では、HRAS変異より有意に男性が多かった(p=0.03)。KRAS、NRAS、HRAS変異全てにおいて、喫煙者が多かった(全体の79%)。NRAS変異(70%)とKRAS変異(89%)では腺がんが多く、一方HRAS変異の60%は扁平上皮がんだった。Tumor Mutation Burden(TMB)はKRAS変異よりもNRAS変異で有意に高値だった(p=0.03)。TP53変異の併存は、KRAS変異よりもHRAS変異で有意に高頻度だった(30% vs 53%、p=0.05)。STK11変異は、統計学的には有意でないものの、KRAS変異よりもHRAS変異において高頻度だった(7% vs 20%、p=0.10)。抗PD-1 / PD-L1抗体の治療効果はこれまでの解析結果では差を認めないものの、HRAS変異を有する患者は本治療に反応していなかった(奏効割合0%、無増悪生存期間中央値1.6ヶ月)。

 

結論:

 NRAS変異、HRAS変異を有する非小細胞肺がんは、KRAS変異を有する非小細胞肺がんとは異なる臨床病理学的背景を有していた。とりわけ、KRAS変異陽性非小細胞肺がんと異なり、HRAS変異陽性非小細胞肺がんには免疫チェックポイント阻害薬が無効であった。