・アンサーとセファランチン、放射線治療とリンパ球

 セファランチン、最近めっきり使わなくなってしまった薬の1つです。

 とても不思議な薬で、効能・効果は、

 「放射線による白血球減少」「円形脱毛症・粃糠性脱毛症」

とされています。

 かつて、胸部放射線治療を開始した患者さんによく処方していましたが、効果があるのかないのかよく分からず、いつのころからか処方しなくなりました。

 インタビューフォームを確認しても、有効性については以下のような記載しかありません。

 「放射線による白血球減少症に対する効果:放射線による白血球減少症 264 例に対する有効率は、「有効」以上で 64.8%(171/264)、「やや有効」以上で83.3%(220/264)であった」

 

 一方、アンサー皮下注は、そもそも使ったことがありません。 

 この薬はセファランチンよりももっとトンガっていて、効能・効果は、

 「放射線療法による白血球減少症」

と潔いくらいにこの用法に特化した薬です。

 1日1回皮下注射、週に2回を放射線治療中は継続するとのことです。

 こちらは二重盲検比較試験で有効性が検証されており、

 「放射線療法に起因する白血球減少症に対するアンサー皮下注 20μgの臨床的有用性を、肺癌患者において感染症併発を指標とし、プラセボ(生理食塩液)を対照とした二重盲検比較試験により検討した。その結果、感染症併発の発生率は、アンサー皮下注 20μg群 6.7%、プラセボ群21.2%でアンサー皮下注 20μg群の方が低値であった。また感染症の累積発生率および疑感染を含む 3 段階の感染症併発の検討では、アンサー皮下注 20μg群で感染症の併発が有意に抑制されていた」

とのことです。

 さらに、インタビューフォームを注意深く読んでみると、開発の経緯の項に

 「本剤は 1956 年に日本医科大学皮膚科学教室 丸山千里博士により、人型結核菌青山 B 株から製造された結核菌体抽出物質である」

 「本剤は基礎的検討で造血機能亢進作用並びに白血球減少回復促進作用が見出され、1986 年から臨床試験を開始し、放射線治療時の白血球減少に対する有用性が確認された」

とあります。

 ・・・早い話が、丸山ワクチンのB液ということですか?

 B液だけとはいえ、保険適応の薬として市販されているとは知りませんでした。

 コロニー刺激因子やIL-3の発現を誘導して、顆粒球や単球を増やすとのことです。

 

 なぜこんなことを書き始めたかというと、III期局所進行非小細胞肺がん放射線治療中のリンパ球が多く保たれる方が、生命予後がよいという話を聞いたからです。

 この論文では、放射線治療中のリンパ球最低値が≦500ケ/μLのグループと>500ケ/μLのグループとで比較したところ、後者の方が無増悪生存期間、全生存期間共に統計学的有意に優れていたとのことでした。

 

 じゃあリンパ球を増やす薬を併用しながら治療すればいいんじゃない?ということでアンサーとセファランチンを調べてみたのですが、残念ながらリンパ球を増やすような薬ではなかったようです。

 したがって、放射線治療を受ける患者さんにアンサーやセファランチン、ましてや丸山ワクチンをお勧めするような考えはありませんので、誤解のないようにお願いします。

 

 

 

 

Treatment-duration is related to changes in peripheral lymphocyte counts during definitive radiotherapy for unresectable stage III NSCLC

 

Luke R G Pike et al., Radiat Oncol. 2019 May 27;14(1):86.

doi: 10.1186/s13014-019-1287-z.

 

背景:

 非小細胞肺がん治療における根治的胸部放射線照射中における分割照射方法が、リンパ球減少症の程度に、さらには患者の生命予後に影響を与えるかどうかを検証した。

 

方法:

 切除不能III期非小細胞肺がん患者で、異なる照射量・分割方法により根治的胸部放射線照射を受けた115人の患者を対象とした。カルテと臨床検査データを見直して、放射線治療中のリンパ球数の変化を評価した。リンパ球数と臨床経過の相関を解析した。

 

結果:

 患者全体におけるリンパ球数減少値の中央値は1,300/μL(四分位区間は950-1510/μL)だった。全体のうち63人(54.8%)は、リンパ球数<500/μLと高度のリンパ球減少症に見舞われており、この状態になるまでの期間の中央値は放射線治療開始から5週目であり、放射線治療終了時や総照射量が最大になった時点ではなかった。高度のリンパ球減少を来すリスクは当初5週間で増加し(オッズ比は3.455、p=0.007)、その後はリスク増加は確認できなかった(オッズ比0.562、p=0.216)。リンパ球数の中央値は、放射線治療を完遂してから2ヶ月経過しても低値のままであり、治療開始前の水準には回復しなかった。高度の好中球減少に至らないことは独立した予後良好因子で、多変数解析で交絡因子を調整したあとでも、有意に無増悪生存期間(ハザード比0.544、p=0.010)、全生存期間(ハザード比0.463、p=0.011)を延長していた。高度のリンパ球減少は、全治療期間4週以内(3Gy/回×20回)の患者集団の方が、全治療期間4週間超(2Gy/回×30回)の患者集団よりも頻度が低かった(32.1% vs 62.1%、オッズ比0.289で71.1%の相対リスク低下、p=0.006)。多変数解析では、全治療期間4週以内であることがリンパ球減少のリスクを低減する独立した因子だった(オッズ比0.322、p=0.032)。

 

結論:

 切除不能III期非小細胞肺がん患者において、3Gy/回×20回の放射線照射法は有意に高度のリンパ球減少リスクを低下させ、生命予後を改善することが示された。