・免疫チェックポイント阻害薬とHLA

 HLA(Human Leukocyte Antigen, ヒト白血球型抗原)は、白血球の血液型と言えるものであり、自己と非自己の識別に関与する重要な免疫機構として働いています。

 免疫学の領域では重要なキーワードですが、HLAが話題に上るのは後天性免疫不全症候群(AIDS)や臓器移植時の拒絶反応について考えるときくらいで、肺がんの診療においてHLAを意識することなんて皆無でした。

 しかし、今回の報告を見ると、少し興味がわいてきます。

 PD-L1≧50%の患者さんでも免疫チェックポイント阻害薬の効果が悪いことが一定の割合でみられ、治療開始からの3か月間が勝負といわれますが、HLAを調べることによってそうした患者さんを事前に予測できるのではないかという気になります。 

 末梢血好中球 / リンパ球比率も同様で、こうした治療効果予測因子を認めた場合には、PD-L1≧50%であっても化学療法を併用する、という方法論は成り立つかもしれません。

 

 

 

 

 

301MO - Genomic HLA as a predictive biomarker for survival among non-small cell lung cancer patient treated with single agent immunotherapy

 

Afaf Abed et al., ESMO Asia 2020

 

背景:

 PD-1 / PD-L1単剤療法を受けた切除不能局所進行、もしくは進行非小細胞肺がん患者における、HLA-I / IIのホモ接合性が生存期間延長に寄与するかどうかを検証した。

 

方法:

 オーストラリア西部の2か所の主要ながんセンターから、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた肺がん患者170人の血液サンプルを集めた。白血球を分離して高品質のDNAを抽出し、HLA-I / IIのタイピングに用いた。HLA-I / IIのタイプ、全生存期間、無増悪生存期間の間の関連性について、log-rankテストを用いた単変数解析を行った。HLA-Iと全生存期間、無増悪生存期間との相関や、全生存期間解析におけるHLA-Iホモ接合性の効果に影響を与えうる変数(年齢、PD-L1発現状態、ECOG-PS、治療モダリティー)についてのサブグループ解析について、Cox比例ハザードモデルを用いて多変数解析を行った。さらに、個々の患者のHLA-AおよびHLA-Bのサブタイプと全生存期間の相関について、log-rank検定を用いて解析した。

 

結果:

 単変数解析においては、1つあるいはそれ以上のHLA-I特定領域のホモ接合性と、治療に用いられた免疫チェックポイント阻害薬の種類(抗PD-1抗体 vs 抗PD-L1抗体)のみが統計学的有意な生命予後不良因子だった(前者のハザード比は2.17、95%信頼区間は1.13-4.17、p=0.02、後者のハザード比は3.16、95%信頼区間は1.66-5.99)。HLA-1遺伝子型は、PD-L1≧50%の患者集団に限定した解析ではさらに強い予後不良因子だった(ハザード比3.93、95%信頼区間は1.30-11.85、p<0.001)。多変数解析では、HLA-I遺伝子型(ハザード比2.07、95%信頼区間は1.07-4.01、p=0.03)とともに、治療開始前の末梢血好中球・リンパ球比(NLR)も生命予後予測因子となった(ハザード比2.17、95%信頼区間は1.12-4.20、p=0.02)。無増悪生存期間においても、PD-L1発現状態とHLA-I遺伝子型の間の交絡を調整してもなお、1つあるいはそれ以上のHLA-I特定領域のホモ接合性は予後不良因子だった(ハザード比2.37、95%信頼区間は1.12-5.01、p=0.02)。HLA-I遺伝子型と治療内容には相関は見られず、多変数解析にこれら因子を含めても解析結果に影響はなかった。HLA-A02の存在は、唯一の生命予後良好因子だった(ハザード比0.56、95%信頼区間は0.34-0.93、p=0.023)。

 

結論:

 1つあるいはそれ以上のHLA-I特定領域のホモ接合性は、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法を受けた進行非小細胞肺がん患者における全生存期間、無増悪生存期間双方の予後不良因子だった。PD-L1発現≧50%の患者集団では、更にその傾向が顕著になった。HLA-A02の存在は唯一の予後良好因子だった。