2020/11/27はいろいろな薬事承認が成された日だったようです。
非小細胞肺がん治療の領域にも、「免疫チェックポイント阻害薬2剤併用」という新たな地平が開かれました。
また、抗CTLA-4抗体が非小細胞肺がん領域で薬事承認されたという意味でも新しい出来事です。
CheckMate277試験とCheckMate9LA試験の結果を根拠として、ニボルマブ+イピリムマブ±化学療法が未治療進行非小細胞肺がんに適用可能となりました。
CheckMate-277試験とCheckMate9LA試験については過去にも触れているので、以下のリンクを参照のこと。
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968110.html
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e976407.html
効果・安全性の両面から、イピリムマブを実地臨床で追加すべきかどうかは判断が難しいです。
こちらは、「腫瘍免疫サイクル」としてよく知られた図表です。
① がん細胞に特徴的ながん特異抗原が放出される
② がん特異抗原が抗原提示細胞に捕捉される
③ リンパ節において、抗原提示細胞ががん特異抗原の情報をT細胞に受け渡す
このとき、抗原提示細胞上のB7タンパクとT細胞上のCD28タンパクがくっつくと、T細胞の働きが活性化されます。
一方で、抗原提示細胞上のB7タンパクとT細胞上のCTLA-4タンパクがくっつくと、T細胞の働きが抑制されます。
④ がん特異抗原を認識できるようになったT細胞が、リンパ節から血管内へと移動する
⑤ がん病巣を発見したT細胞は、血管からがん病巣への沁みだす
⑥ T細胞ががん細胞を発見し、がん細胞表面にあるがん特異抗原・MHCタンパク複合体を、T細胞受容体を介して認識する
このとき、T細胞表面にあるPD-1タンパクとがん細胞表面にあるPD-L1タンパクがくっつくと、T細胞の働きが抑制されます
⑦ T細胞ががん細胞を攻撃する
③の過程で、CTLA-4にくっついてB7とCTLA-4がくっつけないようにし、T細胞を活性化する薬がイピリムマブ(ヤーボイ®)です。
⑦の過程で、PD-1にくっついてPD-1とPD-L1がくっつけないようにし、T細胞を活性化する薬がニボルマブ(オプジーボ®)です。
ニボルマブは、治療スケジュールが複数あり、それに応じて治療必要量も変わります。
具体的には、2週間ごとに240mg、あるいは3週間ごとに360mgの投与量です。
化学療法1コース3週間のリズムに慣れている医療従事者にとっては、3週間ごとに360mgの使用法が馴染みやすいでしょう。
イピリムマブは単独では使用できず、ニボルマブとの併用が前提となっていて、6週間ごとに反復投与します。
投与スケジュールと投与量を図示するとこのようになります。
オプジーボは2週間ごとなら2週間ごと、3週間ごとなら3週間ごとと原則を決めてどの患者にも適用した方が、間違いがないでしょう。
何度見てもわかりにくいことこの上ありません。
敢えてまとめるなら、全体集団ではイピリムマブ+ニボルマブ併用療法(NI群)とプラチナ併用化学療法(C群)の2群比較をベースに、PD-L1≧1%の患者集団ではニボルマブ単剤療法(N群)を、PD-L1<1%の患者ではニボルマブ+プラチナ併用化学療法(NC群)をさらに治療集団として加えています。
CheckMate-227試験におけるPD-L1≧1%の患者集団でのNI群とC群の生存曲線です。 なぜかこの図表にはN群に関する生存曲線が描かれていません。
NI群とN群の間に有意差がついていないので、NI群とC群の差に目を向けさせるため、恣意的にパンフレットの図表からは除かれているのかもしれません。
最初の6か月間だけで見るならば、C群の方が優っています。
それ以降で見るならば、NI群の方が優っています。
最終的には統計学的有意にNI群の方が生存期間を延長しています。
CheckMate-227試験におけるPD-L1<1%の患者集団でのNI群、NC群、C群の生存曲線です。
まず、生存曲線の末尾の方を見る限り、NI群が圧倒的に優れているように見えます。 PD-L1発現の有無にかかわらず、3年経過以降は長期生存が期待できるというのはNI群の大きなメリットではないでしょうか。
試験デザイン上、ここに上がっている治療群間には統計学的な有意差はついていないのですが、この生存曲線の語る事実を素直に受け止める方が本質をとらえられるように思います。
CheckMate-227試験における無増悪生存曲線です。
はっきり言えることは、化学療法が入っていなければ、最初の6か月間の成績が悪いということです。
治療内容に化学療法を含んでいないNI療法は、再現性を以て最初の6か月間の治療成績が劣っています。
奏効割合のデータからは、一定の傾向を見出すのは難しいようです。
PD−L1<1%だったら、C群よりNC群の方が腫瘍縮小効果が高い、ということくらいしか言えません。
毒性については、皮膚・内分泌系の重篤な毒性がNI群で目立ちます。
NI群においては、胃腸・肝・肺毒性が、治療中止に至る毒性として多いようです。
今度はCheckMate-9LA試験です。
解析計画の記述は長すぎて読む気になれませんが、試験デザインはシンプルで好感が持てます。
初期治療効果の劣るNI群の弱点を補うために、試験治療群(NI-Chemo群)では治療初期の1ヶ月半から2ヶ月の間は化学療法を併用します。
対照群はシンプルに標準化学療法(Chemo群)です。
したがって、本試験ではChemo群に対してNI-Chemo群が優れているかどうかだけが明らかになります。
NI群に対してNI-Chemo群が優れるかどうかとか、PD-L1≧50%の患者集団で、抗PD-1抗体単剤療法に対してNI-Chemo群が優れるかどうかとかはわかりません。
CheckMate-9LA試験における全患者集団の生存曲線です。
追跡期間が短くてこれからどうなるのか予断を許しませんが、統計学的有意差はついたとのです。
少なくとも、NI-Chemo群において、治療初期に化学療法を併用した効果は出ているようで、治療開始初期からNI-Chemo群の生存曲線が上を行っています。CheckMate-227試験におけるNI群の生存曲線とは様相が異なります。一方で、2本の生存曲線が末広がりでなく先すぼまりになっているのは、今後どのように展開するのか気になるところです。長期経過を追ったら成績が変わらなくなった、とか、逆転した、となれば、異なる解釈が必要になります。
CheckMate-9LA試験における、PD-L1≧50%の患者集団の生存曲線です。
CheckMate-9LA試験における、PD-L1=0-49%の患者集団の生存曲線です。
CheckMate-9LA試験における、PD-L1≧1%の患者集団の生存曲線です。
CheckMate-9LA試験における、PD-L1<1%の患者集団の生存曲線です。
これまた変わりません。
結局、PD-L1発現状態によらず、同じような傾向に落ち着くようです。
イピリムマブを併用することによって、PD-L1発現状態が効果予測因子となるニボルマブの特性が弱められるのかもしれません。
CheckMate-9LA試験における、無増悪生存曲線です。
治療初期は似たり寄ったりです。
治療開始から4-17ヶ月あたりは、NI-Chemo群の方が良さそうです。
それ以降はまた似たり寄ったりです。
CheckMate-9LA試験における奏効割合です。
CheckMate-9LA試験における有害事象です。
皮膚・内分泌・肝胆道系のGrade 3以上の有害事象がNI-Chemo群で気になります。
同じく、CheckMate-9LA試験における有害事象です。
治療中止に至る有害事象として診るならば、皮膚や内分泌はそれほど大きな問題ではありません。
一方、胃腸・肝・肺・腎・過敏症症状が治療中止に至る有害事象として無視できないようです。
ここからは私の妄想です。
CheckMate-227試験におけるNI群の生存期間中央値は概ね17ヶ月、対するCheckMate-9LA試験におけるNI-Chemo群の生存期間中央値は概ね14ヶ月で、3ヶ月の開きがあります。
14ヶ月と言えば、CheckMate-227試験におけるC群の成績に近いです。
異なる臨床試験の結果だから直接比較は難しい、とはいいながら、両臨床試験のシェーマを見る限り、患者背景はほぼ同じ、CheckMate-227試験におけるC群とCheckMate-9LA試験におけるChemo群の治療内容もほぼ同じです。
CheckMate-9LA試験結果から、化学療法単独に対するニボルマブ+イピリムマブの効果が4ヶ月の生存期間上乗せと見積もると、もしCheckMate-227試験でNI-Chemo群を走らせていたら、C群の生存期間14ヶ月に4ヶ月を上乗せして、多分生存期間中央値は18ヶ月くらいで落ち着いたのではないでしょうか。