・緩和ケア病棟の閉鎖

 先日、近隣の医療機関からこんな文書連絡がありました。

 

 「当院の緩和ケア病棟を閉鎖します」

 

 ここは準公的医療機関であり、この地域では唯一、緩和ケア専門病棟を有していました。

 旧知の医師が病棟責任者を務めていて、彼の前職のころから、私は何度も助けていただきました。

 

 なぜ閉鎖に至ったかというと、紛れもなく新型コロナウイルス感染症の流行が直接の原因です。

 この医療機関大分県がん診療連携協力病院であるとともに、第二種感染症指定医療機関でもあります。

 新型コロナウイルス感染症患者が地域で発生したときには、真っ先に受け入れなければならない立場にあります。

 感染確定患者も来れば、疑い患者も来ます。

 確定患者は専用病棟に隔離できますが、疑い患者はそうはいきません。

 疑い患者は診断が確定するまでの間、どこの病棟に入院させればよいか、ということになり、結局受け入れ先が緩和ケア病棟になったようです。

 4月以降そうした形で緩和ケア病棟が新型コロナウイルス感染疑い患者病棟として運用されることになりました。

 当然のことながら、緩和ケア病棟スタッフの業務は縮小されます。

 

 収束の見通しが立っていれば、一時的な経過措置として我慢もできます。

 ただ、少なくとも我が国政府・社会は、国民経済を守るためという理由で、徹底的な封じ込めは行っていません。

 国家予算を組んで、旅行や会食、ショッピングを推奨して、結果として最悪の時期に今年最高の流行を招くことになりました。

 本日大分県では過去最高の1日21人の新規患者が報告され、流行は収束するどころか拡大の一途をたどっています。

 緩和ケア病棟の業務を再開する見通しは全く立たず、病棟責任者の医師は退職を決意したようです。

 

 その医師に電話をして心境を聞いてみました。

 「残念ながら、再開の見通しは立ちません」

 「私は緩和ケア診療をするためにここに赴任したので、この状況ではここにいる意味はありません」

 「退職後は旧知の医師を頼って、在宅緩和医療のお手伝いを始めてみます」

とのことでした。

 

 また一つ、大分での肺がん診療に新型コロナウイルスの爪痕が残されました。