・終末期医療におけるささやかな目標

 

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 2021年末から終末期医療を続けている患者さんが2人いらっしゃいます。

 

 ひとりは高度の認知症を背景とした進行肺小細胞がんの患者さんです。

 実家の近所にお住まいで、私が子供のころ、血縁の方に子供会や自治会の行事であちこち連れて行っていただきました。

 

 病気に対する本人の理解は全く得られず、できることは対症療法のみでした。

 確定診断から3ヶ月くらいしか持たないでしょうと当初ご家族にはお話ししましたが、すでに半年を経過しました。

 今年に入って食事、内服、意思疎通ができなくなり、いよいよお別れのときが近づいてきていたようです。

 浮腫のためふつうの点滴治療ができなくなり、ご家族と相談の末、最期まで苦痛緩和目的の治療ができるようにと、年始早々からではありますが右脚の付け根から中心静脈輸液を開始しました。

 結局あくる日の未明に亡くなりましたが、お見送りの際にお話したところ、十分に手を尽くした、ということでご家族は納得されたようでした。

 

 もうおひとりは、末期腎盂がんの患者さんです。

 側腹部痛を契機に腎盂がんと診断しましたが、紹介先で摘出術をしたところ切除不能のリンパ節転移が明らかとなり、手つかずの部分を残したまま退院してこられました。

 リハビリを続けていたのですが、晩秋に多発脊椎転移が明らかとなりました。

 その後は衰弱の一途をたどり、満足に食事もできなくなりました。

 「ここまできたらじたばたしても仕方がない」

 「病院で寂しい最期を迎えるよりは、家族と一緒に住み慣れた環境で過ごしたい」

 「お茶漬け、赤だし、おしんこを食べたい」

と希望され、中心静脈点滴、在宅酸素療法、訪問診療、訪問看護等を整備して、年の瀬を迎える前になんとか在宅医療に持ち込むことができました。

 退院してもごはんは喉を通りません。

 退院してもほとんどご家族と会話を交わしません。

 でも、明らかに表情が柔らかくなりました。

 喉を通らなくても、ほんの数口でも、自ら希望して食事をとるようになりました。

 新型コロナウイルスオミクロン株の市中感染が確認された都道府県から帰省されたご家族とも、一緒に年末年始を過ごすことができました。

 

 治療やケアもさることながら、同じ時間・空間をご家族と共有できる環境を整えることも、われわれスタッフの使命なのでしょう。