・虫歯や歯周病と肺がん

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 上に掲げたのは、何を隠そう私の智歯(親知らず)です。

 向かって左は右上顎の智歯、向かって右は右下顎の智歯です。

 どちらも傷んでいますが、ことに右下顎の智歯を見ると今でもゾッとします。

 半周くらいまっくろけで、ひどい齲歯だったことが分かります。

 

 虫歯や歯周病は、肺がんの治療と関係があります。

 誰しも、日頃から口腔ケアをきちんとするに越したことはないのですが、肺がんと診断されたらいよいよ口腔ケアは大切です。

 呼吸器外科の先生は、この患者さんに手術をしよう、と決めたら、即日歯科口腔外科に相談します。

 現代の肺がん診療における患者さん指導の一環として、口腔ケア指導は禁煙指導と同じくらいの意義があるのではないでしょうか。

 

 口腔ケアを適切に行うことの意義は、考えるに大きく2点あると思います。

 

1)感染症予防

 手術前後の時期や、肺がん薬物療法をする時期の歯周病口内炎、肺炎を予防します。

 手術前後の時期は、経過によっては安静臥床の期間が長くなり、それだけ肺炎を合併する確率が高くなります。

 肺がん薬物療法中は免疫力が低下することが多く、歯周病口内炎のために食事摂取困難となることもあれば、肺炎を合併することもあります。

 口腔内、歯肉を清潔に保つことは、それ自体がこうした合併症の予防に役立ちます。

 

2)骨転移治療

 骨転移があるとわかった時、進行や病的骨折を予防するために、ゾレドロン酸の点滴やデノスマブの皮下注射を併用します。

 この種の治療は、何らかの理由でがん薬物療法ができなくなったときも継続できますし、生活の質を保つためには大切な治療です。

 それぞれ、月に1回だけ使用する注射薬ですが、虫歯や歯周病に対してきちんと歯科診療を終えていることが前提です。

 そうでないと、「顎骨壊死」といって、顎の骨が崩れていく合併症が発生することがあります。

 崩れていく、というのは少し言い過ぎかもしれませんが、顎骨壊死を起こすと歯茎から膿が出続けて、歯が土台からグラグラになります。

 骨粗鬆症の治療薬でも顎骨壊死が起こることがあり、かかりつけの患者さんが何人か経験されましたが、早々簡単には治りません。

 そして、顎骨壊死を起こしてしまうと、ゾレドロン酸やデノスマブは使いづらくなります。

 虫歯や歯周病のケアができていないことが、骨転移の治療をできなくするリスクにつながるというわけです。

 

 私は今の職場で、誤嚥性肺炎の患者さんの嚥下機能評価を行い、その患者さんにあった食事のあり方やリハビリを考える取り組みもしています。

 ここでも口腔ケアは大きな役割を果たします。

 嚥下障害がある患者さんは、ほぼ例外なく口腔内に問題を抱えています。 

 適切な歯科診療に患者さんをつないであげるだけで、嚥下機能が改善し、誤嚥のリスクを減らしつつよりおいしい食事が食べられるようになることをしょっちゅう経験します。

 認知機能の低下を示唆する項目として、

 「口腔ケアを適切にできないこと」

を加えてもいいのではないかと思うくらいです。

 

 肺がん領域のみならず、嚥下障害・誤嚥性肺炎診療の領域も診療するようになり、口腔ケアの重要性は身に染みました。

 かつて、高校の同級生が勤めていた歯科へ治療に通ったことがありますが、結局仕事が多忙なことを理由にして、受診しなくなってしまいました。

 今の職場に移り、自宅近くの歯科で治療を再開しました。

 当初は、

 「虫歯が20本はあります」

 「1本は神経を抜かないとどうにもなりませんね」

 「親知らずも3本残っています」

 「親知らずのうち1本は、歯肉の中に横向きに埋まっていて、当院では対処できません」

 「他の歯の治療がすべて終わったら、歯科口腔外科に紹介しましょう」

と言われてゲッソリしたが、どうにか親知らずの抜去を含めて全ての治療を完了し、今も月に1回程度、メンテナンスに通っています。

 

 私の肺にも、異形腺腫様過形成か微小腺がんかを思わせる病巣がいくつかあります。

 私の母が肺がんになった以上、私も将来肺がんを罹患する可能性は十分にあります。

 歯科定期受診は、将来肺がんになったときのための先行投資と考えて、続けていこうと思います。