・血液中の好中球 / リンパ球比率と免疫チェックポイント阻害薬の効果

 血液中の好中球 / リンパ球比率が高いと、つまり白血球全体におけるリンパ球比率が相対的に少ないと、免疫チェックポイント阻害薬の効果が弱まる、としばしば言われます。

 昨今、腫瘍病巣内における炎症細胞浸潤が乏しいと免疫チェックポイント阻害薬の効果が弱い(cold tumor)という概念がよく言われますが、進行がんの患者さんでは、血液中のリンパ球比率の所見から、cold hostという概念を考えてもいいのではないかという気がします。

 cold hostではニボルマブ+イピリムマブ併用療法を積極的に治療に組み込むとか、どうでしょうか。

 

 

 

Differential prognostic effect of systemic inflammation in patients with NSCLC treated with immunotherapy or chemotherapy: A post hoc analysis of the phase III OAK trial.

 

Alessio Cortellini et al.

ASCO2022 abst.#9056

DOI:10.1200/JCO.2022.40.16_suppl.9056

 

背景:

 末梢血中の好中球 / リンパ球比率(neutrophil to lymphocyte ratio, NLR)が高いことは非小細胞肺がんの臨床経過において予後不良因子とされている。免疫チェックポイント阻害薬による治療、化学療法それぞれでどの程度の治療効果が得られるか、NLRにより予測できるかどうかは明らかでない。

 

方法:

 今回の後解析では、既治療非小細胞肺がん患者に対するアテゾリズマブとドセタキセルの有効性を比較するランダム化第III相OAK試験のデータを使用した。主要評価項目は治療開始前のNLRが各治療群においてどの程度のインパクトを全生存期間(OS)にもたらすかとした。加えて、血中循環DNA(cfDNA)を次世代シーケンサー(NGS)で解析することで、患者の炎症状態を遺伝子発現の面からも評価した。

 

結果:

 アテゾリズマブ群(A群)のうち600人、ドセタキセル群(D群)のうち575人で治療開始前のNLRを評価できた。全体のNLR中央値は4(四分位間2.6-6.7)だった。NLR≧4であることは喫煙歴があること(88.6% vs 78.1%, p<0.01)、男性であること(66.4% vs 57.6%, p=0.01)、PS不良であること(71.3% vs 55.2%, p<0.01)、遠隔転移巣が多いこと(63.2% vs 51.6%, p=0.01)、扁平上皮がんであること(32.1% vs 21.4%, p<0.01)、KRAS遺伝子変異があること(30% vs 18.7%, p=0.02)と相関していたが、PD-L1発現状態やEGFR / ALK遺伝子変異の有無とは相関がなかった。

 治療開始前のNLR≧4であることは、D群と比べてA群でより強く生命予後不良であることと相関していた(A群におけるハザード比1.64(95%信頼区間1.35-2.01)、D群におけるハザード比1.32(95%信頼区間1.08-1.60)、多変数解析による相関有意水準p=0.08)。EGFR / ALK陽性患者を除外して解析すると、この傾向がより強まった(A群におけるハザード比1.67(95%信頼区間1.35-2.06)、D群におけるハザード比1.24(95%信頼区間1.02-1.52)、多変数解析による相関有意水準p=0.02)。NLR≧4かつPD-L1陰性患者の死亡リスクを解析したところ、D群と比べてA群でより強く生命予後不良だった(A群におけるハザード比2.28(95%信頼区間1.72-3.03)、D群におけるハザード比1.42(95%信頼区間1.08-1.86)、多変数解析による相関有意水準p=0.01)。治療開始前のcfDNAをNGSで解析した結果、血中の腫瘍遺伝子変異量(tumor mutational burden, TMB)が高い患者(カットオフ値は1メガ塩基あたり16変異=16mut/Mb)ではNLR中央値が有意に高かった(4.6 vs 3.7, p=0.01)。EGFR, KRAS, TP53, KEAP1, STK11, SMARCa4, ARID1A, DDRといった解析対象遺伝子はいずれもNLRとは相関していなかった。

 

結論:

 今回の後解析では、治療開始前のNLRが低い患者を抽出することで、D群よりもA群においてより生命予後の良い患者を同定できることが明らかとなった。背景の遺伝子変異状態とは関係がなかった。NLRが低く、PD-L1発現陽性の患者でもっともアテゾリズマブが有効であったため、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療の効果を予測するにあたり、NLRはPD-L1発現状態を補完する存在となりうる。

 

 

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