膠原病と肺がん、嚥下障害

 この病気と診断されたときは、悪性腫瘍の検索をしましょうと推奨される病態はいくつかある。

 同一部位に肺炎を繰り返す患者における、その部位の根元の肺門部型肺がん。

 帯状疱疹を発症した患者における悪性腫瘍合併。

 そうしたものの中に、膠原病も含まれる。

 私が学生の頃は、混合型結合組織病(MCTD)と診断したときは必ず悪性腫瘍を合併していないかどうか調べるようにと教わった。

 

 膠原病の領域では、血液検査でもある程度悪性腫瘍合併の有無を判断できるようになったようだ。

 皮膚筋炎という病気に関連して、TIF1γ抗体という検査があるらしい。

 本検査が陽性となると、その50-70%に悪性腫瘍を合併することが知られているとのこと。

 

 余談になるが、皮膚筋炎では嚥下障害を合併することも多い様子。

 症例報告を調べてみると、いくつも引っかかってきた。

 膠原病関連間質性肺炎、肺がんを含めた悪性腫瘍、嚥下障害による誤嚥性肺炎と、呼吸器内科医としても無視できない疾患である。

 

Paraneoplastic Dermatomyositis Syndrome Presenting as Dysphagia

Emmanuel Ofori, Gastroenterology Res. 2017 Aug;10(4):251-254.

doi: 10.14740/gr841w.

 皮膚筋炎は稀な自己免疫疾患で、50−60代の女性に多く見られる。皮膚筋炎は急性、もしくは進行性の無痛性近位筋力低下、眼窩周囲のヘリオトロープ疹、手指伸側のゴットロン徴候が特徴的である。皮膚筋炎の病態生理はいまだ解明されていないが、T細胞、B細胞の免疫活性の異常が指摘されてきた。皮膚筋炎はまた、悪性腫瘍を合併することが多く、その発症タイミングも悪性腫瘍発症前、悪性腫瘍発症と同時、悪性腫瘍の診断確定後の発症と幅がある。今回我々は腎細胞がん、乳癌、子宮体部漿液性乳頭腺がんの病歴があり、進行性の筋力低下、30ポンド(約13.5kg)の体重減少、3ヶ月にわたって続く嚥下障害を呈した72歳の女性について報告する。臨床症状として歩行障害、顔の発疹(色素沈着)、手指伸展障害を伴っていた。左上腕二頭筋生検により皮膚筋炎と確定診断した。副腎皮質ステロイドの経静脈投与による免疫抑制療法を行ったが治療反応性は乏しく、経腸栄養を行うために胃瘻を増設した。

Dermatomyositis Induced by Hepatitis B Virus-related Hepatocellular Carcinoma: A Case Report and Review of the Literature

Jen-Wei Chou, Intern Med. 2017;56(14):1831-1837.

doi: 10.2169/internalmedicine.56.7595.

 肝細胞癌の傍腫瘍症候群としての皮膚筋炎 / 多発性筋炎は一般的ではない。過去の文献を紐解いても、ほとんど報告がない。今回報告するのは、慢性B型肝炎アルコール依存症の背景があり、発疹を来した55歳の男性患者である。腹部CTを撮影したところ、血管に富む肝腫瘍が多発しており、肝細胞がんとして矛盾しない所見だった。その後彼は嚥下障害と四肢筋力低下も合併した。血液検査データと筋電図の所見から、炎症性筋疾患が示唆された。これにより、本患者を肝細胞癌を誘因とする皮膚筋炎と診断した。プレドニゾロンと抗ウイルス療法を行ったが、2ヶ月後に病状の悪化により死亡した。

Oropharyngeal dysphagia as a first manifestation of dermatomyositis associated with colon cancer

J C Espinoza-Cobos, Rev Gastroenterol Mex. Oct-Dec 2010;75(4):522-7.

 皮膚筋炎は特発性炎症性ミオパチーで、特徴的な皮膚症状を伴うことで知られている。その15−20%が嚥下障害を伴い、低栄養状態を来しやすく、誤嚥性肺炎の素因となり、QoLの低下を招き、予後不良である。皮膚筋炎と悪性腫瘍はしばしば合併し、卵巣がん乳がん、肺がん、大腸がんの合併が知られている。今回は大腸がんに関連して皮膚筋炎を発症した85歳の男性について報告する。初期症状は進行性の嚥下障害で、その後に近位筋優位の筋力低下、特徴的な皮膚症状を発症した。傍腫瘍症候群として皮膚筋炎を疑い、腫瘍マーカーを測定したところCEAが高値だった。下部消化管内視鏡により大腸がんを合併していることが明らかになった。

Lung adenocarcinoma, dermatomyositis, and Lambert-Eaton myasthenic syndrome: a rare combination

Fernanda Manente Milanez, J Bras Pneumol. 2008 May;34(5):333-6.

doi: 10.1590/s1806-37132008000500014.

 肺の悪性腫瘍はブラジルを含めた全正解で増加傾向にあり、おそらくは喫煙人口が増えているためと考えられる。全体の患者が増えてくると、稀な病態も経験されることがある。今回は喫煙歴、高血圧の既往のある66歳の男性について報告する。近位筋群に進行性の筋力低下を認め、2ヶ月後には嚥下障害、発声障害、胸部のV字型の皮疹が臨床症状として加わった。胸部レントゲン写真ではspiculationを伴う肺多発結節を右肺上葉に認めた。血液生化学検査では、クレアチンキナーゼが高値を示していた。補助検査と生検を行ったのち、本患者は右肺上葉切除術を受けた。病理診断は原発肺腺がんだった。