・子宮内膜がん(子宮体がん)がん薬物療法の進歩

 

 現在、子宮内膜がん(子宮体がん)終末期の入院患者さんを担当しています。

 子宮・膀胱・直腸が互いに交通(穿通)してしまい、感染によるものかがんの浸潤によるものか判然としない痛みにさいなまれていらっしゃいます。

 

 かかりつけの産婦人科の先生への定期受診は半年に1回で、今回痛みのために自宅での生活が難しくなっても、

 「緩和医療のための入院はできません」

 「オキノーム(疼痛増強時に頓服するための即効型合成麻薬)をこれまで通り出しておきますので、次回予約はまた半年後にしておきますね」

といった対応だったそうです。

 その後の話し合いの結果、自宅近くの病院で入院緩和ケアをしてもらおうということになり、簡単な1枚きりの紹介状を持参して私のもとにお越しになりました。

 緩和医療目的の長期入院が受け入れられない病院であること、地域に緩和ケア専用病棟がない(かつてはあったけれど、CoVID流行のあおりでなくなってしまった)ことを考えると産婦人科の先生の立場も分からなくはないのですが、それにしても切ない成り行きだと感じました。

 

 疼痛コントロール目的で入院して頂いたのですが、本人は痛くてきついばかりで、点滴の針を自分で抜いてしまって抗菌薬の点滴は続けられないし、酸素吸入をさせてもマスクを外してしまうしで、治療が維持できません。

 ご家族とお話しして、本人の嫌がることは一切やめて、疼痛コントロールに集中して取り組もう、ということになりました。

 徐放型(持続型)合成麻薬を内服して頂いたところ、眠気が強くなって食事も内服もできなくなってしまい、やむを得ず皮膚貼付型の麻薬に切り替えました。

 これがよかったようで、徐々に眠気が軽くなり、まだ疼痛コントロールは十分ではありませんが、穏やかに意思疎通できるようになり、食事も少しずつなら食べられるようになりました。

 あとは目標をどこに置くかで、短期間でも自宅に帰れるように負荷の少ないリハビリを織り込んでいくか、入院緩和ケアを継続しご家族との時間をできるだけ過ごせるような環境を整えるか、対応を考えているところです。

 

 そんなわけで、今回は肺がんではなくて、子宮内膜がん(子宮体がん)のお話です。

 従来はこのがんに対する薬物療法はカルボプラチン+パクリタキセル一辺倒、これでダメならあとはない、という印象でしたが、最近はここにも免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の波が来ているようです。

 つい最近論文が公表されたカルボプラチン+パクリタキセル+ペンブロリズマブ併用療法や、2022年02月ごろ同じく論文が公表されたレンバチニブ+ペンブロリズマブ併用療法について、要約のみ掲載します。それぞれ一次治療、二次治療で有望な結果を示しています。近い将来、進行子宮内膜がんの患者さんに対しては、一次治療でカルボプラチン+パクリタキセル+ペンブロリズマブ併用療法を行い、病勢進行したらそのまま二次治療のレンバチニブ+ペンブロリズマブに移行する、とすればよいのではないでしょうか。

 

 

 

Pembrolizumab plus Chemotherapy in Advanced Endometrial Cancer

 

Ramez N Eskander et al.
N Engl J Med. 2023 Mar 27. 
doi: 10.1056/NEJMoa2302312. Online ahead of print.

 

背景:

 子宮内膜がんに対する初回標準がん薬物療法はカルボプラチン+パクリタキセル併用療法である。本治療にペンブロリズマブを上乗せすることの利点は明らかでない。

 

方法:

 今回の二重盲検プラセボ(偽薬)対照無作為化第III相臨床試験において、測定可能病変を有する(stage IIIもしくはIVA相当)あるいはstage IVBあるいは術後再発の子宮内膜がん患者816人を対象とし、カルボプラチン+パクリタキセル併用療法に加えてペンブロリズマブを上乗せする群(Pem群)とプラセボを上乗せする群(Pla群)に1:1の割合で割り付けた。ペンブロリズマブとプラセボは、3週間ごとに6サイクル投与し、その後は6週間ごとに最大14サイクルまで維持投与することとした。患者集団はミスマッチ修復遺伝子機能低下コホート(dMMRコホート)とミスマッチ修復遺伝子機能維持コホート(pMMRコホート)に層別化された。最後の治療から少なくとも12ヶ月を経過していれば、術後補助化学療法の既往はあってもよいこととされた。主要評価項目は各コホートにおける無増悪生存期間(PFS)とした。dMMRコホートにおいて少なくとも84件、pMMRコホートにおいて少なくとも196件の死亡もしくは病勢進行イベントが確認されたら、中間解析を行うように規定した。

 

注)dMMR、pMMRについては以下のリンクを参照

診療ガイドライン | がん診療ガイドライン | 日本癌治療学会 (jsco-cpg.jp)

 

結果:

 12ヶ月時点の解析では、dMMRコホートにおけるPFS割合はPem群で74%、Pla群で38%(ハザード比0.30、95%信頼区間0.19-0.48、p<0.001)で、増悪もしくは死亡に関する相対危険度はPem群で70%低下した。PFS中央値はPem群未到達(95%信頼区間30.6-未到達)、Pla群7.6ヶ月(95%信頼区間6.4-9.9)だった。pMMRコホートにおけるPFS中央値はPem群13.1ヶ月(95%信頼区間10.5-18.8)、Pla群8.7ヶ月(95%信頼区間8.4-10.7)、ハザード比0.54(95%信頼区間0.41-0.71、p<0.001)だった。有害事象は想定の範囲内だった。

 

結論:

 進行もしくは術後再発子宮内膜がん患者に対し、標準化学療法にペンブロリズマブを上乗せすると有意にPFSが延長した。 

 

 

 

 

Lenvatinib plus Pembrolizumab for Advanced Endometrial Cancer

 

Vicky Makker et al.
N Engl J Med. 2022 Feb 3;386(5):437-448. 
doi: 10.1056/NEJMoa2108330. Epub 2022 Jan 19.

 

背景:

 進行子宮内膜がんに対し、プラチナ併用化学療法を行って病勢進行に至った後の標準治療は確立していない。

 

方法:

 今回の第III相臨床試験において、少なくとも1レジメンのプラチナ併用化学療法を施行済み(で病勢進行後)の進行子宮内膜がん患者を対象に、Len+Pem群(レンバチニブ20mgを1日1回内服+ペンブロリズマブ200mgを3週間ごとに点滴)と対照群(ドキソルビシン体表面積1平米あたり60mgを3週間ごとに点滴、もしくはパクリタキセル体表面積1平米あたり80mgを毎週点滴(3週投与、1週休薬))に1:1の割合で無作為割付した。主要評価項目は2項目、RECIST1.1準拠で独立判定委員会評価による無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)とした。ミスマッチ修復遺伝子機能維持コホート(pMMRコホート)と全体コホートで別々に評価した。安全性も評価した。

 

結果:

 計827人の患者(pMMRコホート697人、その他の130人はミスマッチ修復遺伝子機能低下患者)を無作為割付し、Len+Pem群411人、対照群416人となった。PFS中央値はLen+Pem群で有意に延長していた(pMMRコホート:Len+Pem群6.6ヶ月 vs 対照群3.8ヶ月、ハザード比0.60、95%信頼区間0.50-0.72、p<0.001、全体コホート:Len+Pem群7.2ヶ月 vs 対照群3.8ヶ月、ハザード比0.56、95%信頼区間0.47-0.66、p<0.001)。OS中央値もLen+Pem群で有意に延長していた(pMMRコホート:Len+Pem群17.4ヶ月 vs 対照群12.0ヶ月、ハザード比0.68、95%信頼区間0.56-0.84、p<0.001、全体コホート:Len+Pem群18.3ヶ月 vs 対照群11.4ヶ月、ハザード比0.62、95%信頼区間0.51-0.75、p<0.001)。Grade 3以上の有害事象割合はLen+Pem群88.9%、対照群72.7%だった。

 

結論:

 プラチナ併用化学療法既治療の進行子宮内膜がん患者に対するレンバチニブ+ペンブロリズマブ併用療法は、化学療法群と比較して有意に無増悪生存期間と全生存期間を延長した。