2022年12月28日付で、進行・再発非小細胞肺がんに対する治療として厚生労働省の適応承認を受けたデュルバルマブ+トレメリムマブ+プラチナ併用化学療法。
プラチナ併用化学療法は二剤併用なので、とどのつまり四剤併用のがん薬物療法です。
本治療の有効性は、第III相POSEIDON試験で示されました。
ただし、本試験で証明された主要評価項目は、プラチナ併用化学療法にデュルバルマブを上乗せすることによる無増悪生存期間延長効果です。
プラチナ併用化学療法にデュルバルマブ+トレメリムマブを上乗せすることで無増悪生存期間と全生存期間が延長した、というのは副次評価項目に過ぎません。
そうはいっても本試験はやはり、デュルバルマブ+トレメリムマブ+プラチナ併用化学療法の有効性を証明したもの、として記憶されることでしょう。
プラチナ併用化学療法の種類は、肺がんの組織型で異なります。
非扁平上皮非小細胞肺がんではカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法。
扁平上皮がんではカルボプラチン+ジェムシタビン併用療法。
どちらにも使えるのはカルボプラチン+ナブパクリタキセル併用療法。
そのように規定されていました。
実際には、非扁平上皮非小細胞肺がん患者の95.5%にカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法が、扁平上皮がんの88.3%にカルボプラチン+ジェムシタビン併用療法が適用されており、カルボプラチン+ナブパクリタキセル併用療法の適用は限られていたようです。
さて、POSEIDON試験におけるデュルバルマブは抗PD-L1抗体、トレメリムマブは抗CTLA-4抗体です。
一方、類似コンセプトの先行臨床試験であるCheckMate 9LA試験におけるニボルマブは抗PD-1抗体、イピリムマブは抗CTLA-4抗体です。
どちらもプラチナ併用化学療法とセットの治療法です。
どう使い分けるべきなのでしょうか。
試しに作成してみたのが冒頭の図表です。
全生存期間に関するサブグループ解析結果を一覧にまとめました。
各項目についてみていきます。
判断のポイントは以下としました。
1.ハザード比の95%信頼区間上限が1未満かどうか
2.ハザード比の絶対値が0.80未満かどうか
〇 性別
T+D+CT併用療法は、女性においては1も2も満たしておらず、不合格です。
I+N+CT併用療法は、男性では文句なく有効で、女性においても1は満たしており、許容範囲というところでしょうか。
〇 年齢
T+D+CT併用療法は、年齢を問わず及第点で、65歳以上の患者さんの方が成績が優れているようです。
一方のI+N+CT併用療法は、年齢が高くなるにつれて効果が落ちるようで、75歳以上では1も2も不合格で、お勧めできません。
〇 PD-L1発現
どちらの治療法も、PD-L1>50%の方が効果が高そうですが、どのPD-L1発現状態でも有効性は期待できそうです。
〇 病理組織型
T+D+CT併用療法は、扁平上皮がんでは1も2も満たしておらず、不合格です。
対照的に、I+N+CT併用療法はどの組織型でも効果が期待できるうえ、扁平上皮がんにより効果が高いようです。
〇 化学療法
T+D+CT併用療法におけるカルボプラチン+ジェムシタビンは1も2も不合格です。
本治療は扁平上皮がんでしか使用されていませんので、ありそうな話です。
一方、あまり適用されていないながらもカルボプラチン+ナブパクリタキセルのハザード比は0.55とよい数字を残しており、扁平上皮がんにT+D+CT併用療法を用いるならカルボプラチン+ナブパクリタキセルを適用するとよいかもしれません。
〇 喫煙歴
あまり気分のよい話ではありませんが、両治療とも喫煙経験者には有効です。
翻っていえば、両治療とも非喫煙者にはお勧めできません。
〇 人種
これもあまり気分のよい話ではなりませんが、少なくともT+D+CT併用療法はアジア人では1も2も満たしておらず、不合格です。
〇 ECOG-PS
T+D+CT併用療法はECOG-PS 1の患者さんに、I+N+CT併用療法はECOG-PS 0の患者さんに向いているようです。
年齢と併せて考えると、若くて症状のない患者さんにはI+N+CT併用療法を、高齢で症状がある患者さんにはT+D+CT併用療法をお勧めするとよさそうです。
〇 臨床病期
T+D+CT併用療法は、比較的進行度の低い(転移巣の少ない)IVA期の患者さんの方が有効性が高いようです。
まとめると、
・65歳以上の高齢者
・非アジア人
・ECOG-PS 1
・臨床病期IVA期
の患者さんにはT+D+CT併用療法がお勧めできそうで、
・扁平上皮がん
・アジア人
・臨床病期IVB期
の患者さんにはT+D+CT併用療法はお勧めできなさそうです。
アジア人に勧められないとなると、そもそも我が国で使用する余地があるのか、という身も蓋もない結論となってしまいますが・・・。
また、非喫煙者にはT+D+CT併用療法もI+N+CT併用療法もあまりお勧めしない方が良さそうです。
Durvalumab With or Without Tremelimumab in Combination With Chemotherapy as First-Line Therapy for Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer: The Phase III POSEIDON Study
Melissa L Johnson et al.
J Clin Oncol. 2023 Feb 20;41(6):1213-1227.
doi: 10.1200/JCO.22.00975. Epub 2022 Nov 3.
目的:
オープンラベル第III相POSEIDON試験では、進行非小細胞肺がん患者に対するトレメリムマブ+デュルバルマブ+化学療法(T+D+CT)とデュルバルマブ+化学療法(D+CT)それぞれを化学療法単独(CT)と比較・評価した。
方法:
EGFR / ALKの遺伝子異常のない進行非小細胞肺がん患者1,013人を対象に、1:1:1の割合でT+D+CT群とD+CT群とCT群に無作為に割り付けた。T+D+CT群ではトレメリムマブ75mg、デュルバルマブ1,500mgとプラチナ併用化学療法を21日間隔で最大4コース行い、その後トレメリムマブを1コースだけ、デュルバルマブを4週間ごとに病勢進行に至るまで継続して投与した。D+CT群ではデュルバルマブ1,500mgとプラチナ併用化学療法を21日間隔で最大4コース行い、その後デュルバルマブを4週間ごとに病勢進行に至るまで継続して投与した。CT群ではプラチナ併用化学療法を21日間隔で最大6コース行った。どの治療群においても、ペメトレキセド維持療法は適用可能だった。主要評価項目はCT群を対象としたD+CT群の無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)における優越性とした。副次評価項目はCT群を対象としたT+D+CT群のPFSおよびOSにおける優越性とした。
結果:
CT群に対し、D+CT群は有意にPFSを改善した(ハザード比0.74、95%信頼区間0.62-0.89、p=0.0009、PFS中央値はD+CT群5.5ヶ月 vs CT群4.8ヶ月)が、OSは改善しなかった(ハザード比0.86、95%信頼区間0.72-1.02、p=0.0758、OS中央値はD+CT群13.3ヶ月 vs CT群11.7ヶ月、2年OS割合はD+CT群29.6% vs CT群22.1%)。CT群に対し、T+D+CT群はPFS(ハザード比0.72、95%信頼区間0.60-0.86、p=0.0003、PFS中央値はT+D+CT群6.2ヶ月 vs CT群4.8ヶ月)およびOS(ハザード比0.77、95%信頼区間0.65-0.92、p=0.0030、OS中央値はT+D+CT群14.0ヶ月 vs CT群11.7ヶ月、2年OS割合はT+D+CT群32.9% vs CT群22.1%)を有意に延長した。grade 3/4の有害事象発現割合はT+D+CT群で51.8%、D+CT群で44.6%、CT群で44.4%だった。治療関連有害事象のために治療中止となった患者和の割合はT+D+CT群で15.5%、D+CT群で14.1%、CT群で9.9%だった。
結論:
CTと比較して、D+CTは有意にPFSを延長した。一定回数のTをD+CTに上乗せすることにより、CTと比較して有意にOSとPFSが改善し、T上乗せにより臨床的に意味のある忍容性の問題は生じなかった。T+D+CT併用療法は進行非小細胞肺がんに対する初回治療の新しい選択肢である。
なお、比較のためのCheckMate 9LA試験のサブグループ解析データは、以下の論文から引用しました。
参考までに。
First-line nivolumab plus ipilimumab with two cycles of chemotherapy versus chemotherapy alone (four cycles) in advanced non-small-cell lung cancer: CheckMate 9LA 2-year update
M Reck et al.
ESMO Open. 2021 Oct;6(5):100273.
doi: 10.1016/j.esmoop.2021.100273. Epub 2021 Oct 1.