・姑息的放射線照射による遠隔腫瘍縮小(アブスコパル)効果と免疫チェックポイント阻害薬 その1

 免疫チェックポイント阻害薬がこれから実地臨床で使えるようになりそうだという2015年に参加した講演会で「アブスコパル効果」という聞きなれない用語に触れ、以後ずっと頭にこびりついていました。

 放射線治療、または別の種類の局所療法が、標的のがん病巣を縮小させるだけでなく、離れている未治療のがん病巣も縮小させることをアブスコパル効果というそうです。

 放射線治療により物理的にがん細胞・組織が破壊され、そこから流出したがん細胞特有の蛋白質その他の構成要素(がん特異抗原)を患者さんの免疫システムが認識し、免疫反応が未治療のがん病巣を攻撃するものと理解しました。

 免疫チェックポイント阻害薬を使用するにあたり、放射線治療歴のある患者さんの方が治療効果が高いという報告が当時垣間見られていて、免疫チェックポイント阻害薬は放射線治療によるアブスコパル効果を増強するのかもしれないという仮説が提唱されていました。

 

 あれから6年が経過しました。

 実臨床でも、確かに放射線治療歴のある患者さんの方が、免疫チェックポイント阻害薬が効きやすい手ごたえがあります。

 局所進行非小細胞肺がんにおける化学放射線療法+デュルバルマブ併用療法の生存期間延長効果はPACIFIC試験で示されているし、これまた実臨床においてそれらしい感触は得られています。

 進行期非小細胞肺がんの患者さんで、あるいはもしかしたら小細胞肺がんの患者でさえも、適切に化学療法や免疫チェックポイント阻害薬と根治的、ないしは姑息的な放射線治療を組み合わせることにより、より良好な治療効果が得られるかもしれません。

 これまたあくまで仮説の域を出ませんが、がん特異抗原の抽出という目的に焦点を絞るならば、定位照射で、かつ照射範囲を絞って、放射線治療による毒性を極力低減し、患者さんへのダメージを最小限に抑えて免疫チェックポイント阻害薬による薬物療法に取り組みやすくするというコンセプトが成り立つでしょう。

 また、照射対象とする病巣についても、原発巣よりもより悪性度が高いと予想される転移巣を対象とする方が理に叶っていると考えられます。

 

 こうしたコンセプトの臨床試験は、第II相の段階では既に結果が出ていて、統合解析で良好な成績が示されていたので取り上げました。

 これを読んで、姑息照射の適応がある病巣には躊躇なくなんらかの照射を行い、その後で免疫チェックポイント阻害薬を使うようにしたいと思いました。

 今回は抗PD-1阻害薬であるペンブロリズマブに関する試験を取り上げますが、次回はさらに一歩進んで、抗CTLA-4抗体と放射線治療の併用に関する試験を取り上げます。

 

 

Pembrolizumab with or without radiotherapy for metastatic non-small-cell lung cancer: a pooled analysis of two randomised trials

 

Willemijn S M E Theelen et al., Lancet Respir Med. 2021 May;9(5):467-475.

doi: 10.1016/S2213-2600(20)30391-X. Epub 2020 Oct 20.

 

背景:

 放射線治療は免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果を増強するかもしれない。第II相PEMBRO-RT試験と第I / II相MDACC試験において、進行非小細胞肺がんの患者をペンブロリズマブ+放射線治療併用療法群(Pembro-RT群)とペンブロリズマブ単独療法群(Pembro群)に無作為に割り付けた。これらの臨床試験を個別に解析したところ、併用療法群の有効性が示唆されたものの、対象患者数が少なかったことで奏効割合やその他の評価項目に統計学的有意差を認めなかった。そのため、進行非小細胞肺がん患者における免疫チェックポイント阻害薬の効果を放射線治療が増強するかどうかを推測するために、両試験に統合的解析を行った。

 

方法:

 PEMBRO-RT試験とMDACC試験の適格条件は、18歳以上の進行非小細胞肺がん患者で、照射範囲外の測定可能病変として少なくとも1か所の放射線非照射予定部位を有することとした。PEMBRO-RT試験では、化学療法治療歴を有することが求められたが、MDACC試験では治療歴の有無は問われなかった。免疫チェックポイント阻害薬による治療歴のないことを条件とした。PEMBRO-RT試験では、割付調整因子を喫煙歴(<10-pack years vs ≧10 pack-years)として、対象患者をPembro-RT群とPembro群に1:1の割合で無作為に割り付けた。MDACC試験では、放射線治療スケジュールの忍容性に基づいて2群のコホートに対象患者を組み入れ、Pembro-RT群とPembro群に1:1の割合で無作為に割り付けた。放射線治療の性質上、どちらの試験でも盲検化はできなかった。両群ともに、ペンブロリズマブは1回200mgを3週間後ごとに経静脈投与した。PEMBRO-RT試験におけるペンブロリズマブの初回投与は、放射線治療(24Gyを3回分割照射)の最終照射に引き続いて1週間以内に行った。一方MDACC試験におけるペンブロリズマブの投与は、放射線治療(50Gyを4回分割照射、もしくは45Gyを15回分割照射)の初回照射と同時に行った。「放射線照射を行っていない病巣」のみを効果判定の対象とした。今回の統合解析における評価項目は、放射線照射範囲外の病巣における奏効割合(abscopal response rate, ARR)、放射線照射範囲外の病巣における病勢コントロール割合(abscopal disease control rate, ACR)、プロトコール治療開始後12週間目でのARRおよびACR、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)とした。解析手法として、itention-to-treat解析を採用した。

 

結果:

 全体として148人の患者が統合解析の対象となり、76人がPembro群、72人がPembro-RT群に割り付けられた。追跡期間中央値は33ヶ月(四分位間32.4-33.6)だった。148人中124人(84%)は非扁平上皮がんであり、111人(75%)は化学療法治療歴があった。両治療群に、PD-L1発現状態や転移巣の状態を含めた背景因子の偏りはなかった。Pembro-RT群において、放射線照射部位として頻度が高かったのは肺転移巣(72人中28人(39%))、胸郭内リンパ節(72人中15人(21%))、肺原発巣(72人中12人(17%))だった。ARRはPembro群で19.7%(76人中15人)、Pembro-RT群で41.7%(72人中30人)だった(オッズ比2.96、95%信頼区間1.42-6.20、p=0.0039)。ACRはPembro群で43.4%(76人中33人)、pembro-RT群で65.3%(72人中47人)だった(オッズ比2.51、95%信頼区間1.28-4.91、p=0.0071)。PFS中央値はPembro群で4.4ヶ月(四分位間2.9-5.9)、Pembro-RT群で9.0ヶ月(四分位間6.8-11.2)だった(ハザード比0.67、95%信頼区間0.45-0.99、p=0.045)。OS中央値はPembro群で8.7ヶ月(四分位間6.4-11.0)、Pembro-RT群で19.2ヶ月(14.6-23.8)だった(ハザード比0.67、95%信頼区間0.54-0.84、p=0.0004)。今回の統合解析において、未知の有害事象は確認できなかった。

 

結論:

 進行期非小細胞肺がん患者のペンブロリズマブ単剤療法に放射線治療を上乗せすることにより、奏効割合他の治療効果が有意に向上した。今回の結果が、無作為化第III相臨床試験で検証されることが期待される。

 

 

 

 

 

 また、プラチナ併用化学療法+ペンブロリズマブ+三次元/定位照射の生存期間延長効果を検証する第III相試験も既に進行中です。

 こうした興味深いコンセプトを問う臨床試験は、伝統的にフランスで好んで計画される傾向があります。

 エスプリですね。

 

PD-1 Inhibitor and Chemotherapy With Concurrent Irradiation at Varied Tumour Sites in Advanced Non-small Cell Lung Cancer (NIRVANA-LUNG)

ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03774732

・三次元照射もしくは定位照射可能な原発巣/転移巣を有する進行非小細胞肺がん患者が対象

・プラチナ併用化学療法+ペンブロリズマブ併用療法に姑息的な三次元照射もしくは定位照射を上乗せすることの有効性と安全性を検証する第III相臨床試験

・主要評価項目は全生存期間で、2年生存割合を評価する

・フランス国内の23施設で、症例数460人を目標に実施中の多施設共同第III相試験