・KEYNOTE-671試験についてのインタビューから

 

 II期、III期の非小細胞肺がん患者さんに対する周術期治療について検証したKEYNOTE-671試験について、興味深いインタビューがwebinerとして公開されていましたので、視聴しました。随分と意訳してしまいましたが、内容を簡単にまとめておきます。聞き手も話し手も女性で、girl talkというか和気あいあいとした楽しそうな雰囲気で、よいwebinerでした。

 

 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 

Narjust Florez先生:

 先生は実地臨床を改める臨床試験であるKEYNOTE-671についてご発表されました。本試験のデザインについて、簡潔にまとめて頂けますか?

 

Heather A. Wakelee先生:

 KEYNOTE-671試験は非小細胞肺がん周術期にペンブロリズマブを使用することについて検証しました。シスプラチンベースの化学療法4コースに対してペンブロリズマブか偽薬を併用し、その後手術をして、術後治療でもペンブロリズマブか偽薬を使用するというものです。

 

Narjust Florez先生:

 これまでに知られている臨床試験とは異なるデザインですね。サンドイッチ効果と言いますか、術前にもペンブロリズマブ、術後にもペンブロリズマブを使うということですね。そうした理解でよろしいですか?

 

Heather A. Wakelee先生:

 その通りです。今回の周術期アプローチは多くの早期非小細胞肺がん患者さんに関わる内容であり、ここ数ヶ月の間に似たようなデザインの3つの臨床試験が解析され、他の臨床試験も進行中です。

 

Narjust Florez先生:

 今回の臨床試験について、主な結果をまとめていただけますか?

 

Heather A. Wakelee先生:

 今回の臨床試験はII期、III期の非小細胞肺がん患者さんを対象にしました。主要評価項目は2つあり、どちらがうまく行っても臨床試験としては成功です。今回は1回目の中間解析を行い、無イベント生存期間に関するハザード比が0.58となり、高度な統計学的有意差がつきました。全生存期間については解析に足る十分なイベントが発生していませんが、これまでのところは有望な傾向が見てとれます。

 

Narjust Florez先生:

 今回の無イベント生存期間の有意差が証明されたことで、我々は術後にもペンブロリズマブによる治療機会を得たということでよいでしょうか?

 

Heather A. Wakelee先生:

 そのとおりです。あるいは別の見かたもできるかもしれません。以前から私たちはそうした治療機会を持っていました。術後補助療法として米国食品医薬品局が承認済みの免疫チェックポイント阻害薬は既に2種ありますし、術前補助療法としては、化学療法と併用する条件付きで1種が承認済みです。今回の結果はこれらの治療戦略を組み合わせたものと言えます。

 

Narjust Florez先生:

 今回の臨床試験で、より良好な治療成績が得られそうなサブグループは見つかりましたか?

 

Heather A. Wakelee先生:

 今回の臨床試験でよかったことは、全てのサブグループ解析を行ってみたものの、どのサブグループをとってみても試験治療群でよい傾向が見られたことです。サブグループによっては、わずかな差異はありました。II期とIII期の患者を比べてみると、II期の患者でもハザード比は0.65ですが、95%信頼区間の上限は1.01であり、厳密には統計学的有意差はつきませんでした。もっとも、その解釈には慎重であらねばなりません。サブグループ解析で有意差を検証できるようなデザインはもともとしていませんから。とはいえ、III期の患者ではハザード比は0.5台にあり、II期よりも幾分大きな差がつきました。そのほかに、こちらの方が衆目を引くかもしれませんが、PD-L1に関するサブグループ解析も行いました。本試験参加者の3分の1はPD-L1の発現がない患者で、3分の1は1-49%発現、3分の1は50%以上発現の患者が占めていました。50%以上発現の患者群ではより良好な無イベント生存期間結果が得られ、ハザード比は0.43近くの水準でした。1-49%の患者群でもほぼ同様の結果で、1%未満の患者ではこれが0.77となり、95%信頼区間は1をまたいでいました。しかし、1%未満の患者集団においてもなお、試験治療群が優れる傾向にありました。とにかくあまりに多くのサブグループ解析を行ってしまったがために、このような結果になっているのかもしれません。繰り返しますが、サブグループ解析結果の解釈には慎重であらねばなりません。他の臨床試験結果を参照すると、術後補助療法や術前補助療法という前提で、PD-L1陰性であってもなお試験治療群において有望な結果が確認できているということはとても好ましいことのように私には思えますし、PD-L1高発現の患者では治療効果も最も高いというほとんどの臨床試験で繰り返し示されてきたこともまた、好ましいことだと思います。

 

Narjust Florez先生:

 これらの臨床試験結果を踏まえて考えるに、早期肺がんの文脈では、まだ治療対象を広げることはできそうですね。進行期肺がんについて我々が知っているデータと比べると、KEYNOTE-671試験において提示された治療戦略にはまだ続きがあり、今回の結果はその第1章に過ぎないのでは?おそらく外科医のみなさんは耳をそばだててこの質問を聞くと思うのですが、KEYNOTE-671試験の結果は、II期、III期の患者だけではなく、外科手術を受ける全ての患者さんに影響するでしょうか?

 

Heather A. Wakelee先生:

 良い質問です。持ち上がりつつある議論の1つに、術前治療の要素を持つ臨床試験結果全てを参照すると、中には手術できなかった患者もいた、ということがあります。この点では、KEYNOTE-671試験も他の試験の多くと同様です。これらの臨床試験において手術できなかった患者の割合は全体の15-20%といったところで、今回の試験でも似たようなものでした。外科的視点から、外科医はこう言うでしょう。

「つまり、中には手術が受けられない患者がいるということだね。そんな術前治療、いったい誰が受けるというんだ?」

しかし、今回のように術前療法が組み込まれた臨床試験への参加を検討されたような患者の多くは、そうでもしなければ切除対象になり得なかった患者である、という事実にも目を向けなければなりません。今回の臨床試験によって、我々が本当の意味で多くの患者から外科切除の機会を奪ってしまったのかどうかは私にはわかりません。実際のところ今回の臨床試験で、術前療法の段階で病勢進行し外科切除ができなくなった方は多くはありませんでしたが、他の理由で外科切除を受けないと決断した患者はたくさんいました。この点については注意深くあらねばなりませんし、私自身は、

「大局的に見て、手術を受けなかった、受けられなかった患者がいたということは、何を意味しているのか」

ということに思いを馳せています。III期の患者について、その自然史を私たちは知っています。III期の患者にはある種の薬物療法が必要で、それなしには多くの患者を治癒させることはできません。私の見解では、III期の患者は全て術前薬物療法を受けるべきだと考えます。それも、過去には例のないことながら、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法を併用する術前薬物療法こそが標準治療だと言えます。II期の患者については議論の余地があります。治療開始前に外科医、放射線治療医、腫瘍内科医ほかの多職種によるキャンサーボードで治療戦略を練るべきでしょう。外科切除を目指すべきなのか?III期の患者に行うような胸部放射線照射を行えば治癒しうるのか?外科切除を先行させ、その後に得られた病理・検査所見によってその後の追加治療を加えるべき対象なのか?そうしたことをII期の患者では考えなければならないのかもしれません。

 

Narjust Florez先生:

 術前治療を行うにあたりそれは優れた視点で、集学的ケアは必要不可欠です。こうした取り組みは担当医レベルや診療科レベルで済ませるべきものではなく、みんなで一緒に取り組む必要があります。先生が今回KEYNOTE-671試験結果を公表してくださったおかげで、地域社会における私の仕事仲間の多くが、いまも患者さんの治療に今回の知見を適用しています。地域のがん治療医が実地臨床に活かせるように、今回の臨床試験結果をまとめていただけますか?

 

Heather A. Wakelee先生:

 KEYNOTE-671試験はII期、III期の患者を治療する上でのもうひとつの治療選択肢を我々に示しており、化学療法とペンブロリズマブの併用療法を行い、続いて外科切除を行い、その後にペンブロリズマブ単剤療法を行うことは理にかなった治療戦略です。現時点では術前療法の部分は米国食品医薬品局の承認を受けていないため、あまり強く主張するつもりはありません。しかし、集学的治療の視点から議論することの重要性は強調する必要があります。どの地域社会においてもです。放射線治療医とともに仕事をすることになりますし、II期やIII期の患者について治療前に議論する道は既に始まっていますし、いくつかの検査を行わなければなりません。

 

Narjust Florez先生:

 そうですね。

 

Heather A. Wakelee先生:

 EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子の有無を調べなければなりません。KEYNOTE-671試験ではこれらの遺伝子異常を持つ患者は少なく、あまりに少なすぎたため確たることは言えませんが、KEYNOTE-671試験以外の同様のデザインの臨床試験ではこれらの遺伝子異常を持つ患者は除外されていますし、少なくともEGFR遺伝子変異陽性の患者ではADAURA試験においてオシメルチニブによる術後補助療法の有望な結果が示されています。ドライバー遺伝子変異を見つけた場合には免疫チェックポイント阻害薬以外の治療選択肢があるわけで、その際には免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療戦略は最善ではないと感じるかもしれません。ドライバー遺伝子変異陽性肺がんの治療戦略という視点では、周術期治療はどんな趨勢にあるのかを知っておかねばなりません。PD-L1発現状態を知ることも有益で、III期の患者に対して手術すべきか、放射線治療すべきかと決めかねているときを考えてみてください。PD-L1発現状態は比較的速やかに得られる検査所見ですし、PD-L1高発現であることが分かれば、

 「オーケイ、薬物療法で効果が期待できる患者のようだ」

と治療を前に進めることができます。最大4コースのシスプラチン併用化学療法とペンブロリズマブによる術前療法を行い、その後外科切除を行うことで、III期ならより多くの患者を完全切除することができ、手術自体を安全に済ませられることもKEYNOTE-671試験でわかっています。そして術後ペンブロリズマブ単剤療法を行えば、ハザード比0.58の有意差を以てペンブロリズマブを使わない場合よりも無イベント生存期間を延長できることが分かっています。これは周術期治療について過去行われたほとんどの臨床試験よりも優れたデータです。PD-L1高発現、III期の患者において本治療の有効性が高いことは、とてもワクワクする所見です。そうした点で、KEYNOTE-671は意義深い試験です。

 

Narjust Florez先生:

 治療開始前の確定診断の段階でドライバー遺伝子変異やPD-L1発現状態を明らかにするのは、とても大切なポイントですね。治療方針を定めるにあたり、これらを確認することで外科切除標本の病理所見を待たなくてもいいわけですから。先生、これが最後の質問です。肺がんの患者さんやそのご家族に、今回の臨床試験結果を説明されますか?

 

Heather A. Wakelee先生:

 素晴らしい質問です。この臨床試験結果は科学的な知見であり、New England Journal of Medicine誌に公表しています。誰でも読むことができます。しかし、患者さんやそのご家族と会って話すときには、繰り返しになりますが、多職種によるキャンサーボードの場で今回の知見について議論したく思います。毎週、外科医や放射線治療医と、それぞれが診療した患者さんについて議論します。放射線治療医、外科医、腫瘍内科医の誰が初診にあたろうとも、キャンサーボードの場でプレゼンし、議論して、一緒に治療方針を組み立てます。その後に患者さんに会って、時には放射線治療や外科切除を考えていると話すでしょうし、外科切除について考えているときには、手術だけでは治療として十分でないこと、いくつかの臨床試験でそれを示す確かなデータが既に示されていることを我々は裏付けとして知っています。そして、患者さんからドライバー遺伝子変異が検出されなかったとして、術前療法として化学療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用した場合には、外科切除しうる可能性が高まり、術後再発するまでの期間が長くなるか、あるいは術後再発せずに済む可能性もまた高まることを話すでしょう。また、いまはまだはっきりと言えませんが、この治療により生存期間が延長することをも見込んでいると伝えるでしょう。