・姑息的放射線照射による遠隔腫瘍縮小(アブスコパル)効果と免疫チェックポイント阻害薬 その2

 前回はペンブロリズマブと放射線治療の相互作用によるアブスコパル効果のお話をして終わりました。

 こちらは、イピリムマブと放射線治療の相互作用によりアブスコパル効果が認められたとする報告です。

 古典的なサイモンの2-atage designで小規模な臨床試験を行いつつ、そのメカニズムを実験データで裏付けるという報告で、基礎研究に疎い私のような臨床家でもある程度理解できる内容でした。

 とはいえ、本論文の構成は臨床系の論文と比べるとirregularでまとめるのに苦労したうえ、実験データに関する記述に関する私の理解がいまひとつで自信がないので、ここでは実臨床に即した内容のみ書き残します。

 

 放射線治療によるアブスコパル効果をイピリムマブが増強する、と表現するべきなのか、イピリムマブによる薬理作用を放射線治療による病巣からのがん特異抗原抽出が増強する、と表現するべきなのか、迷います。

 いずれにせよ、放射線治療による新規がん特異抗原の提示と、それによる免疫反応を増強するというコンセプトを考えると、PD-1 / PD-L1系よりもCTLA-4系の方が放射線治療との親和性は高いのかもしれません。

 

 さらに一歩進んで、抗PD-1 / PD-L1抗体と抗CTLA-4抗体の併用療法を放射線治療と組み合わせるというコンセプト、これから開発されることに期待したいものです。

 

 

 

Radiotherapy induces responses of lung cancer to CTLA-4 blockade

 

Silvia C Formenti et al., Nat Med. 2018 Dec;24(12):1845-1851.

doi: 10.1038/s41591-018-0232-2. Epub 2018 Nov 5.

 

要約:

 局所的な放射線治療は、前臨床試験および悪性黒色腫患者に関する複数の症例報告において、抗CTLA-4抗体による全身性の反応を増強することが示されているが、既往の抗CTLA-4抗体治療に反応しない腫瘍に対しても全身性反応(アブスコパル効果)を誘導するかどうかはわかっていない。放射線治療は抗腫瘍T細胞の活性化、照射を受けた腫瘍内部でのI型インターフェロン誘導に依存した抗腫瘍効果を促す。マウスのがんモデルにおいて、腫瘍内I型インターフェロン誘導はアブスコパル効果招来には欠かせない。

 放射線治療と抗CTLA-4抗体併用療法で治療を受けた患者に見られるアブスコパル効果のメカニズムはよく分かっていない。今回我々は、一般に抗CTLA-4抗体単剤療法、もしくは抗CTLA-4抗体と化学療法併用では有意な腫瘍縮小効果が得られないとされる進行非小細胞肺がんを研究対象とした。既治療進行非小細胞肺がん患者に対して、放射線治療と抗CTLA-4抗体の併用療法が抗腫瘍T細胞を誘導することを報告する。奏効割合は参加患者のうち18%で、病勢コントロールが得られたのは31%だった。放射線治療後に血清中インターフェロンβが増加することと、放射線治療後早期に劇的に血中T細胞クローンが変化することが最も強い効果予測因子であり、前臨床試験で得られたデータを裏付けることとなった。腫瘍縮小効果が認められたある患者の免疫機能解析を行ったところ、放射線治療により増幅された遺伝子由来の新規がん特異抗原を認識するCD8陽性T細胞が体内で急速に増えていることが分かった。免疫原性を持つ遺伝子変異産物が放射線治療により免疫システムにさらされることがアブスコパル効果の発生に必要であるとする仮説を支持する結果だった。

 

背景:

 姑息的放射線照射とイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)の併用療法によるアブスコパル効果で完全寛解が長期持続している進行非小細胞肺がん患者の症例経験から、今回の臨床試験を企画した。病巣局所への姑息的放射線照射が、病巣それ自体をいわば「体内ワクチン」として免疫系に認識させ、さらにCTLA-4受容体をブロックすることによる抗腫瘍免疫反応との相乗効果を引き起こす、という仮説を検証することにした。

 

方法:

 今回の第II相試験は単施設単アーム試験であり、試験デザインとしてサイモンのoptimal two-stage designを採用した。第1段階では10人の患者を組み入れ、全くアブスコパル効果が確認されなかった場合にはこの時点で無効中止とした。1人以上の患者でアブスコパル効果が確認出来たら、第2段階としてさらに29人の患者を組み入れることにした。全体として少なくとも4人(10.25%)でアブスコパル効果が確認できなければ無効とした。姑息的放射線治療は画像誘導放射線治療(image guided radiothrapy, IGRT)あるいは強度変調放射線治療(intensity modulated radiotherapy, IMRT)の手法を用いたリニアック外照射を用い、任意の1ヶ所の病巣に照射することとした。第I相部分(13人)では6GyX5回、第II相部分(26人)では9.5GyX3回の照射スケジュールとした。イピリムマブは3mg/kg/回の投与量で、1回目を放射線治療1日目に合わせて投与し、病勢進行、患者死亡、忍容不能の毒性発生、患者の臨床試験参加同意撤回のいずれかのイベントが発生するまで、3週間ごとに4コース反復した。主要評価項目は放射線照射範囲外における腫瘍縮小効果(Abscopal Response Rate, ARR)とした。プロトコール治療開始日を1日目とし、88日目に施行したPET/CTで効果判定を行った。効果判定の基準としては、irRCとRECIST1.1を併用した。

 

結果:

 2014年06月から2015年04月までに39人の患者を集積した。年齢中央値は68歳(48-97)、男性16人(41%)、腺がん34人(87%)、扁平上皮がん3人(8%)、3レジメン以上の化学療法歴がある患者が17人(45%)、20-pack-year超の喫煙歴を有する患者が23人(61%)、転移のある臓器数の中央値は3(1-6)で、内訳は骨16人(41%)、脳16人(41%)、肝9人(23%)、肺34人(90%)、軟部組織他23人(61%)だった。ドライバー遺伝子変異(陽性者数/検索総数)はEGFRが6/29(21%)、ALKが0/19(0%)、ROS1が0/6(0%)、RETが1/11(9%)、KRASが7/20(35%)だった。39人中21人(54%)がプロトコール治療を完遂し、88日目のPET/CTによる効果判定を受けた。1人はプロトコール治療を完遂したものの、効果判定を受けなかった。17人はプロトコール治療を完遂できず、うち8人は治療中に死亡し、9人は治療中に病勢進行を来した。ARRは18%(7/39)だった。プロトコール治療を完遂した集団に限定すればARRは33%(7/21)で、7人中2人は完全奏効、5人は部分奏効だった。加えて5人は病勢安定の状態にあったため、放射線照射範囲外における病勢コントロール割合(Abscopal Control Rate, ACR)は31%(12/39)だった。生存者の経過観察期間中央値は43ヶ月(38-47)で、全患者集団における生存期間中央値は7.4ヶ月(95%信頼区間4.4-12.6)だった。プロトコール治療を完遂した患者集団では、生存期間中央値は13.0ヶ月(95%信頼区間10.6-25.2)であり、完遂できなかった患者集団の3.0ヶ月(95%信頼区間2.5-3.5)に比べて有意に延長していた(p<0.001)。放射線照射範囲外における病勢コントロールが得られた患者集団では、生存期間中央値は20.4ヶ月(95%信頼区間12.9-未到達)で、そうでない患者集団の3.5ヶ月(95%信頼区間3.1-7.4)に比べて有意に延長していた(p<0.001)。プロトコール治療を完遂した21人のうち4人はデータカットオフ時点で生存しており(うち3人では病勢コントロールが得られていた)、それぞれの生存期間は38ヶ月、42ヶ月、44ヶ月、47ヶ月だった。治療開始前に採取された腫瘍組織でのPD-L1発現状態、腫瘍組織へのCD8陽性T細胞の浸潤状態、放射線照射部位や照射スケジュールは、治療効果予測因子とはならなかった。プロトコール治療を完遂した患者集団21人において、放射線照射範囲外における病勢コントロールが得られた患者は12人で、そのうちEGFR遺伝子変異が検索されていたのは9人、陽性だったのは0人だったが、病勢進行と判定された残り9人のうち、EGFR遺伝子変異が検索されていたのは8人、陽性だったのは4人で、EGFR遺伝子変異陽性者には有意に病勢進行の患者が多かった(p=0.029)。