・CheckMate 9LA試験 日本人サブグループ3年間追跡調査結果

 

 先日少しだけ取り上げたCheckMate 9LA試験の3年間追跡調査後の日本人解析結果について、あらためて取り上げます。

 CheckMate 9LA試験は、進行非小細胞肺がん患者さんを対象に、プラチナ併用化学療法2コース+ニボルマブ+イピリムマブ併用療法の意義を検証した第III相試験です。

 ニボルマブ、イピリムマブといった免疫チェックポイント阻害薬は抗腫瘍効果が長期にわたり持続する利点がある一方、治療初期の抗腫瘍効果が劣るという欠点が指摘されています。

 その治療初期の穴をプラチナ併用化学療法で補おうというコンセプトです。

 より詳しく知りたい方は、まず以下の記事をご覧になってください。

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 全体集団の3年間追跡調査結果は既に公表されており、以下の記事で扱いました。

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 今回は、2022年日本肺癌学会総会で扱われた、日本人の患者さんに対象を絞った解析結果について取り上げます。

 

 まずは患者背景です。

 全体集団は719人、そのうち日本人集団は50人で、日本人のプレゼンスは7%です。

 全体集団と比べると、やや男性多め、ややPS0多めという印象です。

 治療群間のバランスは全体集団同様に均質ですが、日本人集団の化学療法(Chemo)群にやや肝転移を有する患者さんが偏っています。

 日本人集団でPD-L1評価不能の患者さんが皆無なのは、各担当医の生真面目さを表しているようで興味深いです。

 

 続いて、プロトコール治療終了後の後治療の内訳です。

 全体集団と比較して、日本人集団では後治療を受けた患者さんの割合が多く、併用群では77%、化学療法群では89%に上ります。

 化学療法群では放射線治療を受けた患者さんが46%とほぼ半数です。進行期である以上、その全てが姑息的照射と考えられ、脳転移や有痛性の遠隔転移がどの程度含まれているのか細かいデータを見てみたいところです。姑息的照射を必要とする有症状の病勢進行が少ない、というのも併用群の利点と考えていいのかもしれません。

 化学療法群の75%が後治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用しています。標準治療なので当たり前かもしれません。

 併用群の32%、化学療法群の25%と少なくない患者さんが分子標的薬を使用しているのも、全体集団と比較して顕著です。こちらも詳細を見てみたいところです。

 

 全生存期間解析結果です。

 日本人集団の併用群における全生存期間が突出しています。

 中央値の32.5ヶ月(2.7年)はもちろん素晴らしいのですが、95%信頼区間の下限が15.8ヶ月(1.3年)で、全体集団の中央値に相当します。

 

 無増悪生存期間解析結果です。

 日本人集団の化学療法群では、3年未満で全ての患者さんが打ち切り例となっており、3年無再発生存割合が解析不能となっていました。

 全生存期間と無増悪生存期間を比較すると、日本人集団の併用群のみ約4倍、その他は約2-2.5倍で、日本人集団における免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果持続期間の長さが際立ちます。

 

 腫瘍縮小効果のまとめです。

 腫瘍縮小効果の弱さは免疫チェックポイント阻害薬の弱点の一つとされますが、化学療法群の奏効割合は全体集団、日本人集団共に25%程度なのに対し、併用群では全体集団で38%、日本人集団では50%に達しています。

 ざっくりと言って、日本人集団の併用群では2人に1人が病巣が半分以下に小さくなったという計算です。

 そうした患者さんにおいて、小さくなるまでにかかる期間の中央値が1.5ヶ月程度とのことですから、治療の切れ味という面でも優れているようです。

 奏効持続期間中央値は全体集団と比べて短いものの、95%信頼区間のバラツキを見る限り、対象患者数が少ないことに起因する偏りと考えてよいように思えます。

 

 日本人集団の併用群に限った免疫関連有害事象の解析結果です。

 3人に2人は発疹を経験し、Grade 3/4の重い発疹は4人に1人に上るようで、無視できない有害事象です。

 皮膚科医との連携が重要です。

 Grade 3/4の重篤な副腎不全、肺臓炎もそれぞれ1人ずつ発生しているようです。

 一方、治療関連死は日本人集団では皆無だったようです。

 なお、日本人集団の併用群では有害事象による治療中止が6人(27%)に上っています。

 ニボルマブ+イピリムマブ併用療法が絡む治療(CheckMate 227レジメンおよび9LAレジメン)ではよく取り沙汰されることですが、有害事象に遭遇した際に治療継続にこだわらない、必要に応じて随時休薬期間を置く、治療再開時も病勢と治療必要性をよく見極める、というのが肝要なようで、この辺も従来の殺細胞性抗腫瘍薬の治療哲学(治療開始予定日から一定期間以内に再開できなければ治療継続不能と判断して他の治療を検討する)とは異なる考え方が必要です。