・術前(Neoadjuvant)療法としての複合免疫療法

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 切除可能非小細胞肺がんの術前薬物療法というのは、ギリギリ切除可能かな、という患者さんに対する術前化学放射線療法をときどき行うくらいで、遍く行うような代物ではありませんでした。

 しかし、CheckMate-816試験の結果を受けて、遠からず我が国でも、少なくともII-IIIA期の患者さんに対してニボルマブ+プラチナ併用化学療法を標準治療として行う日が来るでしょう。

 術前化学療法群では無イベント生存期間中央値20.8ヶ月(14.0-26.7)、2年無イベント生存割合45.3%、2年生存割合70.6%です。

 対して術前ニボルマブ+化学療法群では無イベント生存期間中央値31.6ヶ月(30.2-未到達)、2年無イベント生存割合63.8%、2年生存割合82.7%です。

 無イベント生存期間に関するハザード比は0.63(97.38%信頼区間0.43-0.91、p=0.005)、生存期間に関するハザード比は0.57(99.67%信頼区間0.30-1.07、p=0.008)でした。

 

 CheckMate-816試験、当初はさらに術前ニボルマブ(3mg/kg、2週間ごと3コース)+イピリムマブ(1mg/kg、1コース目単回投与のみ)群が設定されていたようですが、どうも先行する第II相NEOSTAR試験の結果を受けて、本治療群に関する検討を中止したようです。

 NEOSTAR試験の結果が良好だっただけに、玉虫色な成り行きです。

 

 今回取り上げるのは、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法とは異なる術前複合免疫療法の話題です。

 デュルバルマブを基軸として、新規薬物との併用療法の意義を検証したランダム化第II相試験で、デュルバルマブ単剤よりも新規薬物との併用療法の方が効果が高いようです。

 ただし、各治療群間の統計学的な優劣を検証する試験デザインではないため、今後どのように発展していくのかは未知数です。

 術前療法として治療したのち、病巣がどのように変化するのか基礎研究として調べて、どのような臨床的有用性に繋がっていくのか、どんなバイオマーカーが有用で、進行期患者の治療に活かせるのか、という探索的な意味合いが強いのかもしれません。

 

 

 

In the Neoadjuvant Setting, Combination Immunotherapy With Durvalumab Is More Effective Than Durvalumab Alone for Early-Stage NSCLC

 

By The ASCO Post Staff
Posted: 4/13/2022 1:15:00 PM
Ref.) Cascone et al.
the American Association for Cancer Research (AACR) Annual Meeting 2022 (Abstract CT011).

 

 早期非小細胞肺がん患者の術前療法として抗PD-L1モノクローナル抗体であるデュルバルマブと他の新規薬物を併用すると、デュルバルマブ単剤療法よりの治療効果を上回ることがわかった。
 多施設共同無作為化第II相NeoCOAST試験は、デュルバルマブ単剤、あるいは以下の各新規薬物:抗CD73モノクローナル抗体であるOleclumab、抗NKG2Aモノクローナル抗体であるmonalizumab、抗STAT3アンチセンスオリゴヌクレオチドであるDanvatirsen、との併用療法が術前療法として有効かどうかを評価することを目的とした。本試験は、各治療群間の統計学的な差を検証するようなデザインでなかったが、どの併用療法においても、デュルバルマブ単剤療法に比べてmajor pathologic response(MPR)が優れていた。
 非小細胞肺がんの術前治療の分野では、昨年Cascone先生が公表した第II相NEOSTAR試験(ニボルマブ+イピリムマブ併用療法がニボルマブ単剤療法よりも奏効割合が高まる)とか、CheckMate816試験の結果に基づいてニボルマブ+プラチナ併用化学療法が2022年3月に術前治療として薬事承認されたとか、最近明るい話題が多いのだが、NeoCOAST試験もそうした進捗の1つである。デュルバルマブを含む複合免疫療法は、以前は切除不能III期非小細胞肺がんを対象とした第II相COAST試験で検証され、その効果が示されており、より早期の患者に対して有効かどうか検証するための論拠となっていた。

 

 NeoCOAST試験には、未治療、切除可能(腫瘍長径20mm超)、臨床病期I-IIIA期の非小細胞肺がん患者を対象とし、2019年03月から2020年09月までの期間に84人の患者を集積した。男性が59.5%、喫煙歴のある患者が89%を占めた。年齢中央値は67.5歳、人種は白人89%、黒人6%、アジア人2%、その他2%という内訳だった。83人の患者が28日間隔のデュルバルマブ単剤療法もしくは新規薬物との複合免疫療法のどれかを受けた。

 主要評価項目は担当医評価によるMPR(切除病巣もしくは郭清リンパ節内に占める残存腫瘍細胞が10%以下と定義)割合とした。担当医評価による病理学的完全奏効(pCR)割合を副次評価項目とした。探索的評価として、腫瘍病巣・便中・血中バイオマーカーを挙げた。

 

 デュルバルマブ単剤療法と比較して、どの複合免疫療法においてもMPR割合やpCR割合が向上していた。複合免疫療法同士の比較では、治療効果に統計学的有意差は認めなかった。デュルバルマブ単剤療法群のMPR割合は11.1%、pCR割合は3.7%で、これは過去の免疫チェックポイント阻害薬単剤術前療法の治療成績と同等だった。

 対して、複合免疫療法によるMPR割合はデュルバルマブ+Oleclumab併用療法19%、デュルバルマブ+Monalizumab併用療法30%、デュルバルマブ+Danvatirsen併用療法31.3%で、pCR割合はデュルバルマブ+Oleclumab併用療法9.5%、デュルバルマブ+Monalizumab併用療法10%、デュルバルマブ+Danvatirsen併用療法12.5%だった。


 デュルバルマブ単剤療法における治療関連有害事象は34.6%に発生し、PD-1 / PD-L1抗体の既知のデータと類似していた。各複合免疫療法においても新たな毒性は認められなかった(治療関連有害事象は43.8-57.1%で認められた)

 

 デュルバルマブ+Oleclumab併用療法群、デュルバルマブ+Monalizumab併用療法群においては、MPR割合は腫瘍細胞のPD-L1発現割合が1%以上であることと有意に相関していた。デュルバルマブ+Oleclumab併用療法群では、治療開始前の生検サンプルで腫瘍細胞のCD73発現が高いことが病理学的腫瘍縮小と有意に相関しており、他の臨床試験データと同様、治療により腫瘍細胞のCD73発現が低下することが分かった。デュルバルマブ+Oleclumab併用療法群ではまた、治療開始前の時点と比較して腫瘍中心部におけるNK細胞やCD8陽性T細胞の細胞密度が高まっており、腫瘍微小環境における免疫応答細胞の誘導を示唆している。

 

 治療開始前と治療後の血液サンプルを用いたトランスクリプトーム解析を行ったところ、2種類の複合免疫療法間で、病巣に動員される免疫細胞の種類が異なっていることが分かった。デュルバルマブ+Oleclumab併用療法群において、MPRが確認された患者では、B細胞活性化やT細胞 / B細胞共刺激経路に関わる遺伝子群が増幅されていた。デュルバルマブ+Monalizumab併用療法群では、NK細胞やT細胞の動員と関連する血球郵送因子であるCXCL9やCXCL11の発現が、治療中の血液サンプル解析では上昇していた。

 

 研究チームは次の仕事に着手している。Cascone博士を主任研究者として、NeoCOAST試験に続く無作為化臨床試験としてNeoCOAST-2試験が走り始めた。切除可能IIA-IIIA期非小細胞肺がん患者を対象に、術前デュルバルマブ+化学療法に加えてOleclumabもしくはMonalizumabを併用し、手術を行い、術後補助療法としてデュルバルマブ+OleclumabもしくはMonalizumabを投与するコンセプトであり、現在も患者集積を行っている。

 

 

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