・進行非小細胞肺がん2次治療における免疫チェックポイント阻害薬+抗がん薬併用の意義

 

 進行非小細胞肺がんの二次治療以降で免疫チェックポイント阻害薬が有効なことは、CheckMate-017試験、CheckMate-057試験、KEYNOTE-010試験、OAK試験あたりで再現性をもって示されました。

 それでは、長く標準治療として君臨してきたドセタキセルをさらに上乗せしたらなにかいいことがあるのか、を検証したのが今回紹介する臨床試験です。

 不幸にも臨床試験継続中に、進行非小細胞肺がんの一次治療で免疫チェックポイント阻害薬が使用できるようになってしまったため、患者集積が進まなくなり中途半端な形で臨床試験が終わってしまったようです。

 腎機能障害がある、毒性が怖いといった理由で、プラチナ併用化学療法ができない患者さん、EGFR遺伝子変異を有しながらもEGFRチロシンキナーゼ阻害薬が効かなくなってしまった患者さんにとって、治療の進め方を考えるうえで参考になる結果ではないでしょうか。

 

 気になるポイントを3点挙げます。

1.免疫チェックポイント阻害薬やドセタキセル使用歴のない進行非小細胞肺がんの二次治療として、ニボルマブ単剤よりもニボルマブドセタキセル併用療法の方が全生存期間、無増悪生存期間を延長し、奏効割合も高まる

2.ニボルマブ単剤→ドセタキセル単剤、もしくはニボルマブ単剤→ドセタキセル+ラムシルマブ併用療法と逐次治療を進めるよりも、ニボルマブドセタキセル併用療法の方が生存期間を延長する

3.EGFR遺伝子変異陽性患者においても、1.のことが言える 

 

 unmet-needsを拾い上げている興味深い結果のように感じましたので、論文に細かく目を通してみました。

 

 

 

A randomized phase II/ III trial of nivolumab versus nivolumab plus docetaxel for previously treated advanced or recurrent non–small cell lung cancer: TORG1630.

Yosuke Kawashima et al.

ASCO2022 abst.#9030

DOI:10.1200/JCO.2022.40.16_suppl.9030

 

 

A randomized comparison of nivolumab versus nivolumab + docetaxel for previously treated advanced or recurrent ICI-naïve non-small-cell lung cancer: TORG1630

Yuri Taniguchi et al.

Clin Cancer Res. 2022 Aug 18;CCR-22-1687.

doi: 10.1158/1078-0432.CCR-22-1687.

 

 

背景:

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤療法は、非小細胞肺がんに対する二次標準治療に位置付けられている。殺細胞性抗腫瘍薬をICIに上乗せすることで治療効果が増強されるかもしれない。

 

方法:

 今回の多施設共同オープンラベルランダム化第II / III相試験では、ICIを使用したことのない既治療非小細胞肺がん患者を対象に、A群:ニボルマブ単剤療法とB群:ニボルマブドセタキセル併用療法を比較した。割付調整因子はPS, 組織型、性別、ドライバー遺伝子変異とした。主要評価項目は第III相試験部分におけるB群の生存期間優越性とした。生存期間中央値をA群10.5ヶ月、B群14.0ヶ月、全生存期間に関するハザード比を0.75と仮定し、片側検定でのαエラーの有意水準を0.05、検出力80%として、計350人の患者集積が必要と見積もった。2017年11月から患者集積を開始したが、2018年後半にICIが1次治療から使用可能となったため、それ以降は患者集積を中止した。最終的に、131人の患者が登録された。

 

結果:

 128人(各群64人)が解析対象となった。患者背景は両群間でバランスがとれていた。生存期間中央値はA群14.7ヶ月(95%信頼区間11.4-18.7)、B群23.1ヶ月(95%信頼区間16.7-未到達)で、ハザード比は0.63(90%信頼区間0.42-0.95、p=0.0310)だった。無増悪生存期間中央値はA群で3.1ヶ月(95%信頼区間2.0-3.9)、B群で6.7ヶ月(95%信頼区間3.8-9.4)で、無増悪生存期間についてのハザード比は0.58(95%信頼区間0.39-0.88、p=0.0095)だった。奏効割合はA群で14.0%(95%信頼区間6.3-25.8)、B群で41.8%(95%信頼区間28.7-55.9)で、p=0.0014だった。全生存期間に関する様々なサブグループ解析を探索的に行ったところ、全ての割付調整因子でハザード比が良い傾向にあった。EGFR遺伝子変異陽性集団では、生存期間中央値はA群11.0ヶ月(95%信頼区間3.5-14.0)、B群20.6ヶ月(95%信頼区間5.8-未到達)、ハザード比0.45(95%信頼区間0.17-1.17))、無増悪生存期間中央値はA群1.8ヶ月(95%信頼区間1.4-2.0)、B群3.7ヶ月(95%信頼区間1.9-6.0)、ハザード比0.26(95%信頼区間0.10-0.65)、奏効割合はA群7.1%、B群30.8%だった。血液毒性と消化管毒性はB群で高頻度に認めた。A群のうち6人(9.4%)、B群のうち25人(39.1%)は有害事象のためにプロトコール治療を中止した。2人の治療関連死(A群で肺臓炎1人、B群で心筋炎1人)が発生した。

 

結論:

 予定よりも患者数が少なくなったため検出力が限られてしまったが、非小細胞肺がん二次治療においてニボルマブドセタキセルを上乗せすることで、毒性リスク上昇を軽微に抑えながらも、生存期間、無増悪生存期間、奏効割合が有意に改善した。

 

 

 

 

<論文本文より抜粋>

方法:

・本試験に参加できる患者の主な条件は以下の通り。

 病理学的に確定診断された非小細胞肺がん患者

 臨床病期はIIIB / IIIC / IV期(UICC-TNM分類、第8版)、または術後再発患者

 EGFR阻害薬やALK阻害薬を除き、1-2レジメンの化学療法を施行済みである

 スイッチ・メンテナンス療法は2レジメンと数える

 術後再発患者において、術後補助化学療法を直近1年以内に受けていたら1レジメンと数える

 既知のドライバー遺伝子異常陽性患者は、それに見合った治療を施行済みである

 20歳以上

 PS 0-1

・本試験に参加できない主な除外基準は以下の通り

 過去にドセタキセルや免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体)の使用歴がある

 免疫抑制薬を使用中である

 プレドニゾロン5mg/日相当以上の副腎皮質ステロイドを使用中である

 胸部CTで間質性肺炎の所見を認める

 症状を伴う脳転移がある

 直近28日以内に手術を受けた

 姑息的放射線治療を2週間以内に受けた

 根治的胸部放射線治療を6週間以内に受けた

・無作為化時の割り付け調整因子は以下の通り

 PS(0 vs 1)

 組織型(扁平上皮がん vs 非扁平上皮がん)

 性別(男性 vs 女性)

 ドライバー遺伝子変異(EGFR変異またはALK融合がある vs ない)

・A群ではニボルマブ240mgを2週間ごとに投与

・B群ではニボルマブ240mgを2週間ごと、ドセタキセル60mg/㎡を4週間ごとに投与

プロトコール治療はRECIST第1.1版準拠の病勢進行と判定されるか、治療継続不能な有害事象に見舞われるかするまで継続することとした

・有害事象により42日間以内に次コースの治療が開始できないときはプロトコール治療を終了した

・B群において、ニボルマブもしくはドセタキセルの単剤治療はプロトコール治療として認めないこととした

・後治療の制限は設けなかった

・本試験を開始した2017年の時点では、免疫チェックポイント阻害薬と殺細胞性抗腫瘍薬の併用療法に関する知見は乏しかったため、安全性プロファイルを確認することを目的とした第II相試験部分から開始することとした

・第II相試験部分に組み入れた患者は、第III相試験部分の解析にも組み入れることとした

・第II相試験部分における主要評価項目は6ヶ月無増悪生存割合と、治療開始から12週間までのgrade3以上の肺臓炎発症割合とした

・CheckMate017 / 057試験およびKeynote-010試験の結果を参考に、B群の6ヶ月無増悪生存割合の閾値を20%、期待値を35%に設定した。片側検定でのαエラーの有意水準を0.1、検出力85%として、必要患者数を46人と見積もった

・B群に50人が無作為割り付けされた時点で、いったん患者集積を中断した

・B群における6ヶ月無増悪生存割合の80%信頼区間下限が閾値を上回り、grade3以上の肺臓炎発症割合の80%信頼区間上限が7%未満だった場合に、第III相部分を開始することとした

・第III相部分の主要評価項目は全生存期間、副次評価項目は無増悪生存期間、奏効割合、安全性とした

・CheckMate017 / 057試験の結果を参考に、A群の生存期間中央値を10.5ヶ月と見積もった

・進行非小細胞肺がんの2次治療におけるドセタキセル単剤療法と支持療法の生存期間中央値がそれぞれ7.5ヶ月と4.6ヶ月だったことから、ニボルマブドセタキセルを併用することによる生存期間上乗せ効果を3.5ヶ月、B群の生存期間中央値を14.0ヶ月と見積もった

・以上から、A群とB群のハザード比は0.75と見積もった

・片側検定でのαエラーの有意水準を0.05、検出力80%、追跡期間2年間として、各群169人の患者集積が必要と見積もった

・10%程度の脱落を見込み、集積患者数総計を350人とした

・日本では、2018年後半から免疫チェックポイント阻害薬の単剤療法やプラチナ併用化学療法との併用療法が1次治療から適用できることになり、そのために劇的に患者集積が滞るようになった

・2020年06月30日、データモニタリング委員会の勧告に基づき、集積患者数を131人に下方修正した

・128人が第III相部分の主要評価項目解析対象となり、結果としてαエラーの有意水準は0.05、検出力は46%となった

 

結果:

・2019年06月27日に、第II相試験部分におけるB群の50人目の患者が登録されたため、いったん患者集積を中断した

・第II相部分におけるB群の6ヶ月無増悪生存割合は64.4%(80%信頼区間53.4-73.5)で、80%信頼区間の下限が閾値の20%を上回ったうえ、grade3以上の肺臓炎発症を認めなかったため、データモニタリング委員会は第III相試験部分への移行を勧告した

・第III相試験部分の集積患者131人は、66人がA群に、65人がB群に割り付けられた

・各群1人ずつが同意を取り下げ、さらにA群のうち1人が適格条件を満たしていないことが割付後に判明した。

・最終的に、有効性解析対象集団はA群64人、B群64人であり、安全性解析対象集団はA群65人、B群64人となった

・A群の43.8%、B群の34.4%はPD-L1発現状態がわかっていた

・EGFR遺伝子変異はA群14人(21.9%)、B群13人(20.3%)に認めた

・ALK融合遺伝子陽性の患者はいなかった

・2021年06月のデータカットオフ時点で、追跡期間中央値はA群12.5ヶ月(0.2-31.8)、B群18.9ヶ月(0.6-39.1)だった

・データカットオフ時点で、A群4人、B群2人はプロトコール治療を継続していた

・治療サイクル数中央値はA群2サイクル(1-28)、B群4サイクル(1-31)だった

・A群の71.9%、B群の51.6%は病勢進行により、A群の9.4%、B群の39.1%は有害事象によりプロトコール治療を中止していた

・B群で有害事象もしくは患者意思でプロトコール治療を中断した28人のうち、5人は後治療としてニボルマブ単剤療法を続けていた

・カットオフ時点で75件の生存期間イベント(A群42件、B群33件)が発生していた

・生存期間中央値は、A群14.7ヶ月(95%信頼区間11.4-18.7)、B群23.1ヶ月(95%信頼区間16.7-未到達)、ハザード比0.63(90%信頼区間0.42-0.95, p=0.0310)だった

・以下に挙げる集団を除くほとんどのサブグループ解析で、B群が優れる傾向にあった

 前治療歴が2レジメンの集団

 PD-L1発現が50%超の集団

 65歳未満の集団

・A群のうち、後治療でドセタキセルを含む治療を受けた患者(32人、うち15人はドセタキセル単剤療法、17人はドセタキセル+ラムシルマブ併用療法)と比較しても、生存期間におけるB群の優越性は維持されており、生存期間中央値はA群15.0ヶ月(95%信頼区間11.0-18.7)、B群23.1ヶ月(95%信頼区間16.7-未到達)、ハザード比0.53(95%信頼区間0.31-0.90)だった

・カットオフ時点で109件の無増悪生存イベント(A群54件、B群55件)が発生していた

・無増悪生存期間中央値は、A群3.1ヶ月(95%信頼区間2.0-3.9)、B群6.7ヶ月(95%信頼区間3.8-9.4)、ハザード比0.58(95%信頼区間0.39-0.88、p=0.0095)だった

・6ヶ月無増悪生存割合はA群26.4%、B群56.3%、12ヶ月無増悪生存期間はA群15.8%、B群22.6%だった

・奏効割合はA群14.0%(95%信頼区間6.3-25.8)、B群41.8%(95%信頼区間28.7-55.9)で、p=0.0014と有意差を認めた

・EGFR遺伝子変異を有するサブグループでは、生存期間中央値(A群11.0ヶ月(95%信頼区間3.5-14.0)、B群20.6ヶ月(95%信頼区間5.8-未到達)、ハザード比0.45(95%信頼区間0.17-1.17))、無増悪生存期間中央値(A群1.8ヶ月(95%信頼区間1.4-2.0)、B群3.7ヶ月(95%信頼区間1.9-6.0)、ハザード比0.26(95%信頼区間0.10-0.65))、奏効割合(A群7.1%、B群30.8%)といずれもB群で優れる傾向にあった

・発熱性好中球減少症はA群では起こらず、B群では20.3%に発生した

・消化管障害をB群で多く認めた(A群32.3%、B群53.1%)が、grade 3-4に限れば差はなかった

・grade 3の肺臓炎が3件発生した(A群1人、B群2人)

・grade 5の肺臓炎がA群で1件発生した

・grade 5の心筋炎がB群で1件発生した

・grade 4の重症筋無力症がB群で1件発生した

・肺臓炎によるプロトコール治療中止がA群で3件(うち2件がgrade3)、B群で6件(うち2件がgrade3)発生した

・病勢進行後、A群の85.2%、B群の71.2%が後治療を受けた

ニボルマブを含む免疫チェックポイント阻害薬を後治療として受けたのは、A群のうち15.2%、B群のうち54.1%に及んだ