・免疫チェックポイント阻害薬による術前免疫療法

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 ときどき思い立って、データベースを使って肺がん患者さんの過去を遡り、気づきを探すことにしています。

 5年間以上の長期生存を達成した患者さんの臨床経過はとくに参考になります。

 こうした作業は、学会発表で経過をまとめる医師がときどき行う程度で、実際にはあまり為されていないのではないでしょうか。

 前向き臨床試験がすべてであり、標準治療以外の治療は行う価値はなく、実地臨床で診療する患者の過去なんて振り返らない、という医師には、永遠に見えてこない景色があります。

 私は、臨床試験から得られる知見と、実地臨床から得られる経験(と振り返り)、そして社会人・家庭人としての常識、これらがうまくかみ合って、初めて最良の診療ができると信じています。

 長生きしている患者さんの診療を振り返ってその都度感じるのは、その時々の患者さんの状況に応じて、知恵を絞って、諦めずに泥臭く悪戦苦闘すると、ときになんらかの光明が見えるということです。

 ドライバー遺伝子変異陽性の患者さんでも、分子標的薬が効いていた期間よりも殺細胞性抗腫瘍薬が効いていた期間の方が長くなることもあります。

 脳転移再発した完全切除後の患者でも、脳転移の治療をした後に5年以上長生きすることもあります。

 

 免疫チェックポイント阻害薬が実地臨床に浸透して、どの程度長生きする患者さんが増えるのか、楽しみです。

 進行期の患者さんだけでなく、周術期補助療法としても各種臨床試験が行われていますが、実際に参加された患者さんたちはなんとなく長生きしているような印象を受けます。

 以下の記事を見ると期待が持てます。

 

 

 

 

What’s the Current Status of Neoadjuvant Immunotherapy?

The ASCO Post

April 25, 2020

 

<肺がんに対する術前免疫療法>

 免疫療法は、進行期肺がんに対する薬物療法として、そして完全切除後の肺がんに対する術後療法として進化してきた。術前療法としての意義も検討されつつある。免疫療法を行うことで、治療前には手術ができなかった患者に対して、手術ができるようになるかもしれない。また、免疫療法の効果が極めて良好な患者では、手術そのものが不要になるかもしれない。

 こうした術前免疫療法の可能性については、すでに50以上の臨床試験が非小細胞肺がん患者を対象に広く行われており、その多くは第III相臨床試験である。

 こうした臨床試験の初期のものは既に結果が報告されている。非小細胞肺がん患者20人を対象とした臨床試験(Forde PM, Chaft JE, Smith KN, et al: Neoadjuvant PD-1 blockade in resectable lung cancer. N Engl J Med 378:1976-1986, 2018., http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e932057.html)では、完全奏効はほとんど観察されなかった一方で、Major pathologic response rate(病理学的に、病巣内の腫瘍細胞のうち90%は死滅していた患者の割合)は45%(9人)で、3年間の間に術後再発を来した患者はわずか1人で、その患者も適切に再治療できている。長期経過観察において、寛解状態を維持している患者の血中を循環する腫瘍DNAは認められておらず、免疫療法がよく効いた患者では、腫瘍特異的T細胞クローン数が有意に高く保たれており、潜在的に抗腫瘍活性を惹起している。

 非小細胞肺がんの術前免疫療法臨床試験における病理学的完全寛解割合は24%であり、これは術前化学療法におけるそれの20%よりも高い。さらには、術前免疫療法の方が毒性が軽い。特筆すべきことに、NADIM II試験(ClinicalTrials.gov identifier NCT03838159)において術前化学療法にニボルマブを上乗せしたところ、Major pathologic response rateは74%に上った。

 術前免疫療法は、化学療法と併用される・されないに関わらず、忍容可能で病理学的寛解状態へ導きうるということで、こうした所見は複数の第III相臨床試験で検証中である。術前化学免疫療法と術前化学療法を比較する現在進行中の臨床試験には、CheckMate 816試験(ニボルマブ)、KEYNOTE-671試験(ペンブロリズマブ)、IMpassion030試験(アテゾリズマブ)が含まれる。AEGEAN試験は、抗PD-L1抗体であるデュルバルマブとプラセボを比較するコンセプトである。そのほかに、新規薬物を用いた臨床試験も進行中である。

 2010年から2020年にかけては、進行期肺がん患者に対する分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が勃興した時代だった。2020年から2030年は、こうした治療が早期肺がんの治療に応用し、再発の回避を目指すことになるだろう。