・患者さんの理解度に合わせた、必要にして十分な病状説明と同意の取得

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 インフォームド・コンセント、インフォームド・アセントという言葉がありますね。

 インフォームド・コンセントとは、「医療者による説明を十分に理解したうえで(インフォームド)、 患者さんが検査や治療の実施に自発的に同意する(コンセント)こと」だそうです。

 英語の語感からすれば、十分な説明を受けた「患者さんが」、検査や治療の実施に「医療者に対して」同意を与えるということであり、インフォームド・コンセントの文脈における主語は医療者ではなくて患者さんです。

 インフォームド・アセントも同様で、子供を対象とした臨床試験の現場から発生した用語らしいのですが、本質的にはインフォームド・コンセントと変わりません。

 「親権者が」「医療者に対して」インフォームド・コンセントを与えた前提で、インフォームド・アセントとは、「子どもの理解度に応じてわかりやすく臨床試験について説明し、子ども自身が発達に応じた理解をもって了承(合意)すること」だそうです。

 説明を受ける側、ひいては医療者に対して同意を与える主体たる「患者さん」の理解力によって、コンセントといったり、アセントと言い換えたりしていると考えて、概ね間違いないようです。

 

 由来が子供を対象とした臨床試験ではありますが、大人が相手であっても、インフォームド・アセントの方が医療面接における哲学としては馴染みやすい気がします。

 肺がん診療をはじめとして、現代医療はあまりにも複雑になりすぎました。

 本ブログに日々書いている学会発表や論文報告の内容を、一般的な患者さんが理解できるとは思えません。

 あえてインフォームド・コンセントやら、インフォームド・アセントといった横文字を使わずに日本語で書き記すなら、「患者さんの理解度に合わせた、必要にして十分な病状説明と同意の取得」といったところでしょうか。

 

 例えば、

 「あなたの局所進行非小細胞肺がんに対して、術前補助化学療法後の根治的外科切除と、化学放射線療法後の免疫チェックポイント維持療法の、どちらがいいですか」

と聞かれても、一般的な患者さんはおろか、一般内科医でもどちらがいいなど決めきれないでしょう。

 どちらがいいかは、治療主体となる担当医(アグレッシブな外科医なら前者を推すでしょうし、標準的な腫瘍内科医なら迷わず後者を選ぶでしょう)によっても意見が異なるでしょうし、どちらが優位かといった議論を始めると、もはや宗教論争の様相を呈してきます。

 むしろ、自分が自信を持って勧められる治療を提示し、そのメリット・デメリット、次に勧められる治療の提示と比較、くらいで必要にして十分なのではないでしょうか。

 

 悪い知らせを伝える場面でのSPIKESほどに厳密でなくてもいいと思いますが、診療方針を説明する医師には、面談の冒頭に少し世間話をして、患者さんやご家族の理解力を推し量るコミュニケーション能力が求められます。

 その上で、相手の理解力に合わせた必要十分な説明(口で言うほど簡単にはまとめられないが)をして、同意を求めなければなりません。

 いたずらに複雑な話をしても、お互い時間を浪費するだけですし、かといって情報に飢えている方に簡単な話しかしないと、相互信頼の問題に発展しかねません。

 一律に同じような質・量の病状説明をするのではなく、相手にとってどんな説明が必要にして十分なのか、世間話をしながら見極める感受性・洞察力・観察力を養いたいものです。

 

 

 関連記事です。

 今回の内容は、SPIKESのP・I・Kに関わるところですね。

 SPIKESのPは、患者さんの病状認識を確認するステップです。

 患者さんが何を知っているのかを把握して、説明内容を組み立てます。

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 続いてSPIKESのIでは、患者さんがどんな情報を求めているのか探ります。

 中には、自分にとって不都合な説明は受けたくない、という方もいらっしゃいます。

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 P・Iを経て、病状のまとめと今後の方針の説明、Kに向かいます。

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