肺がん診療から少し話題が離れます。
私の今の職場では、過去の職場よりも遥かに他の職種のみなさんの力に頼ることが多いです。
医師になって3-4年目くらいまでは、担当患者さんの福祉関連業務や施設入居調整など、全部自分でしていました。
今ではかなり分業化され、自分一人だけでは到底まかないきれなくなりました。
ある年の夏の盛り、外来で定期診療していた患者さんが亡くなりました。
もう何十年も前に脳出血を患い、右不全片麻痺、運動性失語の後遺障害がありました。
終日車いす生活をしていて、日常生活全般において介助を要していました。
その介護の担い手は、認知症を患うも体はそれなりに元気なご主人でした。
ご自宅で二人で生活しておられました。
本人はもとより、ご主人の認知症も進行するにつれ、家庭での生活が徐々に荒れていきました。
腐った食品が食卓に上るのは日常茶飯事です。
汚物まみれのベッドで二人とも眠りにつきます。
おむつ交換もままなりません。
定期内服薬の管理はご夫妻ともぐちゃぐちゃです。
病院で診療することしかできない医師には、生活面の支援を直接する力はありません。
隣県に住まうご家族は、様子を見に来れても週末くらいで、新型コロナウイルス感染症が蔓延してしまうとそもそも県をまたいで移動するのもためらわれます。
結果として、尿路感染症、急性腸炎、脱水、転落による骨折などで、入退院を繰り返します。
バリエーションは様々あるかもしれませんが、子供たちと離れて暮らさざるを得ない独居老人世帯、老々介護世帯は、どこもこんな感じだと思います。
そんな中、様々なプロがお二人の生活を支えてくれます。
家庭環境まで含めた生活全般を把握し、ケアプランを作成して管理するケアマネージャーさん。
体調の変化、服薬管理、病状悪化時の受診手続きなどを担う訪問看護師さん。
食事の準備、選択、入浴などを支援するホームヘルパーさん。
訪問看護師と絶えず情報交換し、受診時の診療に活かそうとする外来看護師さん。
病状悪化時に入院生活の支援を行う病棟看護師さん、介護福祉士さん。
事務手続きの支援、金銭的負担軽減支援を行う医事課職員さん。
退院後の生活設計(長期入院療養するのか、施設に入るのか、環境を整えて自宅退院を目指すのか)と必要な諸手続き、他の医療機関との連携業務を担う医療ソーシャルワーカーさん。
できるだけ本人の能力を活かして社会復帰を促す理学療法士さん、作業療法士さん、言語聴覚士さん。
入院療養中の栄養管理、食種調整を行う栄養士さん、管理栄養士さん。
必要に応じて心理面のサポートをする臨床心理士さん。
ざっと数え挙げるだけでも、これだけの専門職の方々が患者さんの生活を支えています。
そして、直接患者さんには接しないものの、療養環境の維持に必要不可欠な職種がまだあります。
施設管理課のスタッフさんや、病院清掃に携わるスタッフさんです。
今の勤め先では、病院食の調理や清掃業務は外部委託しています。
どちらの職種の方々も極めて朝が早いのです。
私よりも若いスタッフさんが、朝の5時や6時(場合によってはもっと早いかも)から黙々と勤務しておられるのを当直勤務中にお見掛けすると、本当に頭が下がります。
今回取り上げた患者さんは、約2か月前に体調不良で入院し、精査したところ進行S状結腸癌が見つかりました。
認知機能低下(による病状理解不能)とPS低下のため支持療法のみで経過観察の方針となり、亡くなりました。
奥さんが亡くなられたことをご主人に理解していただくのに、3-4か月を要しました。