・新しい吐き気止め、ホスネツピタント(アロカリス)

 今も昔も、プラチナ併用化学療法を行う際の吐き気、食欲不振対策は大切です。

 私が社会人になったころは、メトクロプラミド入りの大量の点滴とグラニセトロンで治療していましたが、それでもみなさんげっそりしていました。

 右も左も分からないままに、指導医に促されて初めて抄読会で読んだ論文は、New England Journal of Medicineに掲載された初のニューロキニン-1(NK-1)阻害薬、アプレピタントに関するものでした。

 アプレピタントは内服薬なのですが、内服の時間帯を遵守するのがやや煩雑なため、注射薬のホスアプレピタントを使用している方は少なくないのではないでしょうか。

 

 あれから四半世紀。

 プラチナ併用化学療法に対する吐き気止めの治療は、デキサメサゾン+5HT3拮抗薬+NK-1阻害薬の3剤併用が標準治療となっています。

 点滴を準備する立場としては、朝早くからせっせとたくさんの薬を調整しなければならないので大変です。

 

 2022年03月28日、新しいNK-1阻害薬のホスネツピタントが新たに薬事承認されました。

 ホスアプレピタントと比較すると注射部位の局所反応が低減されるのが強みのようです。

 ここでは、我が国で行われたランダム化第II相試験、第III相試験の論文について紹介します。

 デキサメサゾン+パロノセトロン+ホスネツピタントの3剤併用療法がもっとも今風な制吐治療、ということになりそうです。

 

 

 

Multicenter, placebo-controlled, double-blind, randomized study of fosnetupitant in combination with palonosetron for the prevention of chemotherapy-induced nausea and vomiting in patients receiving highly emetogenic chemotherapy

 

Shunichi Sugawara et al.
Cancer. 2019 Nov 15;125(22):4076-4083. 
doi: 10.1002/cncr.32429. Epub 2019 Aug 5.

 

背景:

 今回報告する無作為化二重盲検第II相試験では、シスプラチンベースの化学療法を受ける日本人患者を対象に、化学療法誘発性の嘔気・嘔吐予防目的で、ニューロキニン1受容体拮抗薬であるホスネツピタントの単回静注することの有効性と安全性を評価した。

 

方法:

 シスプラチン(70mg/㎡/回以上の投与量)ベースの化学療法を受ける予定の患者を対象に、パロノセトロン0.75mgとデキサメサゾンに加えて、ホスネツピタント81mg、235mg、プラセボ(偽薬)のいずれかの投与を受けるように無作為割り付けした。主要評価項目は治療開始から120時間後までの間の完全奏効(=嘔吐なし、制吐薬頓用なし)割合とした。完全奏効割合は、81mg群 vs プラセボ群、235mg群 vs プラセボ群で比較した。割り付け調整因子は性別、年齢層(55歳未満か、55歳以上か)とした。安全性についても評価し、とりわけ注射部位の局所反応(infusion reaction)を示唆する所見については特別の注意を払った。

 

結果:

 594人の患者が無作為割り付けされた。プラセボ群194人、81mg群195人、235mg群195人と割り付けられ、有効性評価対象とされた。完全奏効割合はプラセボ群54.7%、81mg群63.8%で、調整後の両群の差は9.1%、95%信頼区間-0.4-18.6、p=0.061と有意差はつかなかった。一方、235mg群の完全奏効割合は76.8%で、プラセボ群との比較で調整後の両群の差は22%、97.5%信頼区間は11.7-32.3、p<0.001と有意差を認めた。安全性は3群間で特に相違はなかった。ホスネツピタントに関わるinfusion reactionは81mg群、235mg群ともに1%以下だった。

 

結論:

 ホスネツピタント235mgはシスプラチン併用化学療法によって惹起される嘔気・嘔吐の予防策として、プラセボ群より優位に優れており、安全性の面でも満足いく結果を残した。  

 

 

 


Randomized, Double-Blind, Phase III Study of Fosnetupitant Versus Fosaprepitant for Prevention of Highly Emetogenic Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting: CONSOLE

 

Akito Hata et al.
J Clin Oncol. 2022 Jan 10;40(2):180-188. 
doi: 10.1200/JCO.21.01315. Epub 2021 Nov 18.

 

目的:

 催吐性高リスク群に分類される化学療法による悪心・嘔吐の予防的治療として、ホスネツピタント(FosNTP)とホスアプレピタント(FosAPR)の有効性と安全性を検証した。今回の第III相臨床試験では、異なるニューロキニン1阻害薬であるFosNTPとFosAPRを、それぞれパロノセトロンとデキサメサゾンと組み合わせて使用する直接比較第III相試験を行った。

 

方法:

 シスプラチンベースの化学療法を受ける予定の患者を、パロノセトロン0.75mg+デキサメサゾンに加えてFosNTPを用いる群と、FosARPを用いる群に1:1の割合で無作為割り付けした。主要評価項目は治療開始から120時間後までの間の完全奏効(=嘔吐なし、制吐薬頓用なし)割合とした。割り付け調整因子は性別、年齢層とした。FosAPRに対するFosNTPの非劣性を証明することを目的とした(完全奏効割合非劣性の閾値は-10%とした)。

 

結果:

 全体で795人の患者が無作為割り付けされ、そのうち785人がプロトコール治療を受け(FosNTP群392人、FosAPR群393人)、有効性と安全性の評価対象となった。完全奏効割合はFosNTP群75.2%、FosAPR群71.0%(両群間の差は4.1%、95%信頼区間-2.1-10.3%)で、FosAPRに対するFosNTPの非劣性が証明された。完全奏効割合を治療開始からの経過時間帯ごとに見ていくと以下の通りとなった。

 0-24時間:FosNTP群93.9% vs FosAPR群92.6%

 24-120時間:FosNTP群76.8% vs FosAPR群72.8%

 120-168時間:FosNTP群86.5% vs FosAPR群81.4%

 0-168時間:FosNTP群73.2% vs FosAPR群66.9%

 治療関連有害事象の発生割合はFosNTP群22.2% vs FosAPR群25.4%、注射部位の局所反応(infusion reaction)はFosNTP群11.0% vs FosAPR群20.6%(p<0.001)、そのうち明らかにFosNTPやFosAPRに起因するものはFosNTP群0.3% vs FosAPR群3.6%(p<0.001)だった。

 

結論:

 FosNTPはFosAPRに対し、制吐作用の非劣性を証明し、安全性も良好で、注射部位の局所反応(infusion reaction)リスクは低減されていた。FosNTPは化学療法に起因する嘔気・嘔吐の予防策として有用である。

 

 

 

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 悪心、嘔気に対する管理の考え方、基本的にはあまり変化はないですね。

 とくに初回治療では、躊躇せず積極的に制吐薬を使うべきだと思います。

 最初に辛い経験をすると、2回目以降の治療に二の足を踏んでしまいます。

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