・吐き気のコントロール

 2013年4月12日から14日にかけて、東京国際フォーラムで開催された日本内科学会総会に出席してきました。

 昨日は、腫瘍内科領域のポスタープレゼンテーションに参加しました。

 内科領域全体に通じるような話題、ということで、化学療法に伴う吐き気の演題が2件ありました。

共 通するテーマは「中等度催吐性リスクの化学療法時、制吐療法をどうするか」です。

 

 米国臨床腫瘍学会は2006年に制吐薬のガイドラインを改訂し、抗がん薬治療による催吐性を高度・中等度・軽度・最小度と分類しました。

 2011年には更なる改訂が成され、催吐性分類には大きな変更は加わっていないながらも、推奨内容には以下のように記載されています。

http://www.asco.org/institute-quality/antiemetics-asco-clinical-practice-guideline-update

 「高度催吐性リスクの治療時には、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメサゾン、NK1受容体拮抗薬(アプレピタント=イメンド)の三種併用が必須である。ホスアプレピタント(プロイメンド)静注はアプレピタント内服に比べて遜色なく、いずれも使用可能である。パロノセトロン(アロキシ)は、中等度催吐性リスクの治療時には、デキサメサゾンとの併用で他の5-HT3拮抗薬よりもより推奨される。軽度催吐性リスクの治療時には、初回化学療法の前にデキサメサゾンを試してみてもよい。(中略)治療中の症状モニタリングが重要で、医療者は嘔吐よりも悪心・嘔気を過小評価している。」

 2010年に発表されたわが国の制吐薬適正使用ガイドラインは、概ね2006年版のASCOガイドラインを踏襲しているといっていいと思いますが、上記のプロイメンドやアロキシの使用には踏み込んでいません。

 また、中等度催吐性リスクの患者では、イメンド/プロイメンドの使用は、治療上のオプションとして記載されているのみです。

 

 まずは、兵庫県立がんセンター腫瘍内科の発表から。

 悪心・嘔吐のリスクファクターとして認知されている「若い女性で飲酒習慣がない人」をターゲットに絞って、第II相臨床試験を行い、その結果の報告でした。

 対象となった患者のほとんどは卵巣癌もしくは子宮癌の患者さんでしたが、イメンド併用時には非併用時よりも悪心・嘔吐コントロール率が10%程度向上したとのことでした。

 試験デザイン上は25%程度の向上を見込んでいたのでnegative studyということになります。

 試験開始前に、「若い女性で飲酒習慣がない人」が「そうでない人」に比べて本当に悪心・嘔吐のリスクが高いのか事前調査をしていないことも、ちょっと残念でした。

 

 続いて、九州大学からの発表です。

 こちらは、軟部肉腫の患者さんにターゲットを絞って後方視的に検討していました。

 目に付いたのは、悪心・嘔吐はまずまずコントロールできても、食事が取れない患者さんがかなり高頻度に認められたことでした。

 ちょっと質問してみましたが、制吐薬の使用法が標準化されて、以前よりも悪心・嘔吐で苦しむ患者さんが減ったものの、食事が取れないことに関してはあまり解消されていないことは、参加した誰もが感じていました。

 

 若い・女性・飲酒習慣がない、といった疫学的な因子のほかに、患者さん側の因子として悪心・嘔吐の発現率を予測できるバイオマーカーはないのか。

 制吐薬の進歩によって悪心・嘔吐はまずまずコントロールできるようになったが、食事摂取不良を改善させる手立てはないのか(多分、味覚障害が強く関係しているのだと思うのですが)。

 これからの課題を参加者の先生方と共有できた、有意義なポスター・ディスカッションでした。

 

 まずは、痛みの評価のように、悪心・嘔吐・食欲不振もなんらかの尺度で経時的に評価するようにしたほうがいいんでしょうね。