・IMpower150試験:麺大盛り、肉野菜増し増し、背脂多めで!

 ASCO2018で発表されたIMpower150試験(Abst.#9002)、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル・・・。

 ちゃんと結果が出たんだけど、実臨床でやるかどうかと言われると悩んでしまいます。

 こんなてんこ盛りの超高額医療、果たして本当に受け入れられるのでしょうか?

 ・・・でも、我が国なら受け入れられそうな気がするから、怖いです。

 

 また、ECOG4599試験を踏まえて、historical armとしてBCPを選ぶのが王道だと言うのはわかります。

 でも、どうせ非扁平上皮癌に絞るなら、パクリタキセルをナブパクリタキセルにするとか、ペメトレキセドにするとかして欲しかったです。

 本文中では触れられていませんが、BCP群の約30%に対して、ABCP群の約40%が末梢神経障害に苦しんでいるというのはどうなんでしょう。

 4.5ヶ月の生存期間延長効果と引き換えなら止むを得ないとするべきなのでしょうか。

 

 それから、本題とは外れますが、本試験に参加するような施設でも、EGFR遺伝子変異陽性の患者が分子標的薬を使えないことがある、というのは驚きでした。

 こうした国では、本試験に参加するより、もっと先にやるべきことがあるのではないでしょうか?

 

 

 

Atezolizumab First-Line Treatment of Metastatic Nonsquamous NSCLC

Socinski et al., N Engl J Med 2018, online first

DOI: 10.1056/NEJMoa1716948

 

背景:

 VEGFによる免疫抑制機序をベバシズマブにより抑制することで、アテゾリズマブの殺腫瘍細胞活性が増強される可能性がある。今回のオープンラベル第3相試験では、未治療進行非小細胞非扁平上皮癌患者を対象として、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+化学療法が有効かどうかを検証した。

 

方法:

 アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル群(ACP群)とベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル群(BCP群)とアテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル群(ABCP群)の3群に無作為に患者を割り付けた。治療は3週ごとに、4−6コース行い、その後はアテゾリズマブ、ベバシズマブ、あるいはこれら両方を維持治療として継続した。主要評価項目は無増悪生存期間(ドライバー遺伝子変異陰性患者群と、ドライバー遺伝子変異陰性患者群のうちeffector T 細胞遺伝子高発現群で個別に解析)およびドライバー遺伝子変異陰性患者群の全生存期間とした。まずABCP群とBCP群を比較し、その後にACP群とBCP群を比較することとした。

 

結果:

 ドライバー遺伝子変異陰性患者群では、356人がABCP群に、336人がBCP群に割り付けられた。無増悪生存期間中央値はABCP群で8.3ヶ月(95%信頼区間は7.7-9.8)、BCP群で6.8ヶ月(6.0-7.1)、ハザード比は0.62(95%信頼区間は0.52-0.74)、p値<0.001で、ABCP群で有意に延長していた。effector T 細胞遺伝子高発現群で同じ解析を行うと、ABCP群で11.3ヶ月、BCP群で6.8ヶ月、ハザード比は0.51(0.38-0.68)、p値<0.001)で、やはりABCP群で有意に延長していた。ドライバー遺伝子変異陽性患者を含めた全患者群で解析しても、無増悪生存期間はABCP群で有意に延長しており、PD-L1低発現群、effector T細胞遺伝子低発現群、肝転移を有する患者群といったサブグループ解析でも同様の結果だった。ドライバー遺伝子変異のない患者群での全生存期間解析では、ABCP群が統計学的に優位だった(中央値はABCP群で19.2ヶ月、BCP群で14.7ヶ月、ハザード比は0.78(0.64-0.96)、p値=0.02)。

 

本文より:

・米国における未治療進行非小細胞肺癌患者に対する標準治療オプションには以下のものが含まれる:

 プラチナ併用化学療法

 非扁平上皮癌なら:

  プラチナ併用化学療法+ベバシズマブ

  プラチナ併用化学療法+抗PD-L1抗体

 ドライバー遺伝子変異を有する患者なら対応する分子標的薬

 腫瘍細胞の50%以上がPD-L1を発現していれば抗PD-L1抗体単剤療法

・今回のIMpower150試験では、2つのコンセプトを検証した

 1)抗VEGF抗体は免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強するのか

 2)免疫チェックポイント阻害薬は化学療法との併用で有効に機能するのか

・化学療法に対するアテゾリズマブの上乗せ効果は、今回は供覧しない

・今回対象とした患者の適格条件は以下のとおり

 ●進行/再発の非小細胞・非扁平上皮肺癌患者

 ●RECIST 1.1基準における測定可能病変あり

 ●化学療法による治療歴なし

 ●ECOG-PS 0もしくは1

 ●バイオマーカー検索可能な腫瘍組織が保存されている

 ●ベバシズマブ使用可能条件を満たしている

 ●PD-L1発現状態は不問

 ●EGF遺伝子変異陽性/ALK融合遺伝子陽性患者では、対応する分子標的薬を既に使用しており、病勢進行もしくは忍容不能の有害事象により治療継続できなくなった後である

・除外基準は以下のとおり

 ●未治療の中枢神経系への転移を有する

 ●自己免疫性疾患を合併している

 ●本試験参加前6週間以内に何らかの免疫チェックポイント阻害薬投与を受けている

 ●本試験参加前2週間以内に何らかの免疫抑制治療を受けている

・術前もしくは術後化学療法を受けた患者は、これら治療から6ヶ月以上を経過していれば本試験参加可能とした

ABCP群、ACP群、BCP群にはそれぞれ1:1:1の比率で無作為割り付けした

・割付調整因子は性別、肝転移の有無、PD-L1発現状態(使用抗体はVENTANA SP142)とした

・アテゾリズマブは1,200mg/回、ベバシズマブは15mg/kg/回、パクリタキセルは200mg/㎡/回(アジア人では175mg/㎡/回)、カルボプラチンは6AUC/回の投与量とした

・アテゾリズマブは、臨床的有用性があればbeyond PDでの治療も可とした

BCP群における後治療でのアテゾリズマブ投与は禁じられた

・OAK試験において、effector T細胞遺伝子発現状態が、PD-L1発現状態よりも有用な治療効果予測因子として確認されたため、IMpower150試験では評価項目に組み入れられた

統計学的設定はめんどくさいので端折ってしまうが、まずはABCP群とBCP群の比較を優先し、この比較で有意差がつけばACP群とBCP群の比較を行う、というのが基本だが、他にもこまごました規定が書かれていた。「無増悪生存期間の比較後に、αエラーを全生存期間解析のためにリサイクルする」とか、「ABCP群とBCP群の比較で有意差がつけば、余ったαエラーをACP群とBCP群の比較に使いまわす」とか、わかったようなわからないような手法が延々と書かれていた

・2015年3月から2016年12月までに、26カ国、240施設から1,202人の患者が集積された

・ACP群に402人、ABCP群に400人、BCP群に400人が割り付けられた

・ドライバー遺伝子変異のない患者群は1,040人(86.5%)を占め、ACP群に348人、ABCP群に356人、BCP群に336人が割り付けられた

・effector T細胞遺伝子発現状態はドライバー遺伝子変異のない患者群全体の95.6%で解析可能だった

・effector T細胞遺伝子高発現と分類された患者は上記のうち445人(42.8%)を占め、ACP群に161人、ABCP群に155人、BCP群に129人が割り付けられた

ABCP群のうち35人(8.8%)とBCP群のうち45人(11.3%)がEGFR遺伝子変異を有しており、それぞれのうち3人、4人は分子標的薬治療歴がなかったが、それぞれの母国においてEGFR阻害薬の使用が認められていないことが主な理由だった

ABCP群400人のうち13人(3.2%)とBCP群のうち21人(5.2%)はEML4-ALK融合遺伝子陽性だった

・アジア人はABCP群のうち56人(14.0%)、BCP群のうち46人(11.5%)を占めた

・TC3/IC3(≒PD-L1>50%)の患者がドライバー遺伝子変異を持たない患者群(ABCP群+BCP群800人のうち692人)のうち135人(20%)を占めていた

・TC0/IC0(≒PD-L1<1%)の患者がドライバー遺伝子変異を持たない患者群(ABCP群+BCP群800人のうち692人)のうち338人(49%)を占めていた

・2017年9月15日のデータカットオフの段階で、追跡期間の最小値は9.5ヶ月、中央値はABCP群で15.4ヶ月、BCP群で15.5ヶ月だった

・同じく、データカットオフの段階で、ドライバー遺伝子変異を持たない患者群692人のうち、517人(74.7%)が病勢進行に至るか、あるいは死亡していた

・ドライバー遺伝子変異を有する患者群で解析したところ、無増悪生存期間はABCP群で有意に延長していた(中央値はABCP群9.7ヶ月、BCP群6.1ヶ月、ハザード比は0.59(0.37-0.94)

・PD-L1発現状態別のハザード比は以下のとおりで、いずれもABCP群優位だった

  TC1/2/3は腫瘍細胞のうち1%以上がPD-L1陽性であることを示す

  IC1/2/3は腫瘍浸潤免疫細胞の1%以上がPD-L1陽性であることを示す

  TC2/3は腫瘍細胞の5%以上がPD-L1陽性であることを示す

  IC2/3は腫瘍浸潤免疫細胞の5%以上がPD-L1陽性であることを示す

  TC3は腫瘍細胞の50%以上がPD-L1陽性であることを示す

  IC3は腫瘍浸潤免疫細胞の10%以上がPD-L1陽性であることを示す

  TC0はPD-L1陽性の腫瘍細胞が1%未満であることを示す

  IC0はPD-L1陽性の腫瘍浸潤免疫細胞が1%未満であることを示す

 TC3/IC3:ハザード比0.39(0.25-0.60)

 TC1/2/3 or IC1/2/3:ハザード比0.50(0.39-0.64)

 TC1/2 or IC1/2:ハザード比0.56(0.41-0.77)

 TC0/1/2 or IC0/1/2:ハザード比0.68(0.56-0.82)

 TC0 and IC0:ハザード比0.77(0.61-0.99)

・肝転移を有する患者群でも、無増悪生存期間はABCP群で有意に延長していた(中央値はABCP群で7.4ヶ月、BCP群で4.9ヶ月、ハザード比0.42(0.26-0.66)

・KRAS遺伝子変異陽性群でも、無増悪生存期間はABCP群で有意に延長していた(中央値はABCP群で8.1ヶ月、BCP群で5.8ヶ月、ハザード比0.50(0.29-0.84)

・ACP群とBCP群で全生存期間解析を行ったところ、今回のデータカットオフ時点では結論が出なかったため、発表を見送った

・奏効割合は、ABCP群で63.5%(58.2-68.5)、BCP群で48.0%(42.5-53.6)で、完全奏効はそれぞれ3.7%(2.0-6.2)、1.2%(0.3-3.1)だった

・治療関連死はABCP群のうち11人(2.8%)、BCP群のうち9人(2.3%)に認められた

ABCP群の治療関連死のうち5人は肺胞出血もしくは喀血が原因で、そのうち4人は大血管への腫瘍浸潤や空洞性病変といったベバシズマブ使用による肺出血リスクの高い患者で、本試験開始後比較的早い段階で発生したため、治験担当医に注意喚起を行った