OAK試験(二次治療アテゾリズマブ)

 ASCO2018では化学療法やベバシズマブとの併用がフォーカスされた(Abst.#9002のIMpower150試験、Abst.#LBA9000のIMpower131試験)アテゾリズマブだが、今のところ我が国では二次治療における使用しか認められていない。

 最近本ブログ上で、未治療の脳転移を有する患者さんのご家族から、次治療としてアテゾリズマブを勧められた、との話を伺った。

 ドライバー遺伝子変異を有する患者さんで、これまで全く治療を受けていない患者さんなら、脳への放射線治療よりも分子標的薬を先行させることはありうるが、そうでなければ脳への放射線治療が優先される、ということをお伝えした。

 それからアテゾリズマブを使ったらどうですか、と伝えたのだが、背景となったOAK試験について本ブログできちんと取り上げていなかったことに気付いた。

 いまさらながらだが、論文を紐解いて取り上げた。

 先行するPD-1阻害薬(ニボルマブ、ペンブロリズマブ)と比較して、アテゾリズマブの特筆すべき点は、PD-L1阻害薬という新しいクラスの薬であること(Durvalumabも同様)と、OAK試験においてPD-L1の発現状態によらず全生存期間延長効果が示されたことである。

 PD-L1>50%の患者においてはかなり大きな生存期間延長が示されており、ペンブロリズマブと同様に一次治療で単剤で用いてもかなり期待できるのではないかと思ってしまう。

 また、PD-L1<1%の群でも有意差を以って生存期間延長が示されており、我が国でもPD-L1発現状態によらず使用が認められている。

 アテゾリズマブ関連の試験では、既治療のドライバー遺伝子変異陽性患者が対象に含まれるのもユニークだが、OAK試験では有効性が示されない一方で、IMpower150試験ではカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ+アテゾリズマブ併用療法が無増悪生存期間を延長することが示された。

 一方、今回のASCO2018では、EGFR遺伝子変異を有する未治療進行非小細胞肺癌の患者に対し、エルロチニブ+ベバシズマブが無増悪生存期間を有意に延長することも示された(NEJ-026試験、Abst.# 9006)が、同じ治療を第2相試験として検証したJO25567試験では、無増悪生存期間が延長する一方で、全生存期間に差がないことも示された(Abst.# 9007)。

 ドライバー遺伝子変異を有する患者群の無増悪生存期間延長には、免疫チェックポイント阻害薬よりも血管内皮増殖因子阻害薬の方が影響するのかもしれないが、全生存期間延長にまで影響を及ぼすかどうかは、もう少し経たないと分からない。

 それから、OAK試験の論文を読んでみて分かったのは、2度のプロトコール改訂を経ていること。

 PD-L1>50%の患者群を解析するために集積患者数を増やしたのは納得できるのだが、主要評価項目を変更するために、患者集積終了9ヵ月後、今回解析対象とした患者の集積後としては実に1年2ヵ月後にプロトコール改訂をしたのは、「後出しじゃんけん」の謗りを免れないのではないか。

 そんないちゃもんをつけるのは私だけだろうか。

Atezolizumab versus docetaxel in patients with previously treated non-small-cell lung cancer(OAK): a phase 3, open label, multicentre randomized controlled trial

Achim Rittmeyer et al., Lancet 389 255-265, 2017

背景:

 アテゾリズマブはヒト化抗PD-L1モノクローナル抗体で、PD-L1に結合してPD-L1とPD-1、PD-L1とB7-1の相互作用を阻害し、抗腫瘍免疫機能を再活性化する。今回は、既治療非小細胞肺癌に対するアテゾリズマブの効果と安全性を、ドセタキセルと比較した。

方法:

 今回のOAK試験は、無作為化、オープンラベル、第3相試験の形式をとり、31カ国、194施設で行った。18歳以上、RECIST基準による測定可能病変を有し、ECOG-PS 0もしくは1の非小細胞肺癌患者(扁平上皮癌、非扁平上皮癌いずれも含む)を対象とした。IIIB期もしくはIV期で、プラチナ併用化学療法を含む1レジメンもしくは2レジメンの殺細胞性化学療法を受けたことがあることを条件とした。自己免疫性疾患を合併している患者、ドセタキセルによる治療を受けたことがある患者、CD137作動薬、抗CTLA-4抗体、PD-1/PD-L1経路を標的とした治療を使用したことがある患者は除外した。参加者はアテゾリズマブ群(アテゾリズマブ1,200mg/回を3週ごとに使用)とドセタキセル群(ドセタキセル75mg/?を3週ごとに使用)に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は参加者全員を対象とした全生存期間、PD-L1発現状態ごとに分類した患者ごとの全生存期間とした。解析は参加者1,225人中の最初の850人で行った。

結果:

 2014年3月11日から2015年4月29日までに1,225人が集積された。当初の850人のうち、425人がアテゾリズマブ群に、425人がドセタキセル群に割り付けられた。全生存期間はアテゾリズマブ群で有意に延長していた。全患者群で解析したところ、生存期間中央値はアテゾリズマブ群で13.8ヶ月(95%信頼区間は11.8-15.7)、ドセタキセル群で9.6ヶ月(8.6-11.2)、ハザード比は0.73(0.62-0.87)、p値は0.0003だった。TC1/2/3もしくはIC1/2/3群での解析(アテゾリズマブ群241人、ドセタキセル群222人)でもアテゾリズマブ群が優れており、生存期間中央値はアテゾリズマブ群で15.7ヶ月(12.6-18.0)、ドセタキセル群で10.3ヶ月(8.8-12.0)、ハザード比0.74(0.58-0.93)、p値は0.0102だった。TC0/IC0群の解析(アテゾリズマブ群189人、ドセタキセル群199人)ですら、アテゾリズマブ群の方が優れており、生存期間中央値はアテゾリズマブ群で12.6ヶ月(9.6-15.2)、ドセタキセル群で8.9ヶ月(7.7-11.5)、ハザード比は0.75(0.59-0.96)、p値は0.0215だった。扁平上皮癌患者の解析(アテゾリズマブ群112人、ドセタキセル群110人)でもアテゾリズマブ群の方が(ハザード比0.73(0.54-0.98))、非扁平上皮癌患者の解析(アテゾリズマブ群313人、ドセタキセル群315人)でもアテゾリズマブ群の方が(ハザード比0.73(0.60-0.89))優れていた。Grade 3-4の有害事象はアテゾリズマブ群(15%)の方がドセタキセル群(43%)よりも低頻度だった。治療関連死はドセタキセル群の気道感染1人のみだった。

本文より:

・PD-L1はPD-1やB7-1(CD80)と結合し、抗腫瘍免疫活性を抑制する

・アテゾリズマブはIgG1クラスのヒト化抗PD-L1抗体で、抗PD-1抗体とは異なる機序で機能する

・アテゾリズマブはPD-1/PD-L1結合とともにPD-1/B7-1結合をも阻害することで、抗PD-1抗体よりも強力に腫瘍免疫活性を増強させる可能性がある

・PD-1/PD-L2結合には影響しないため、自己免疫性有害事象の頻度が低下する可能性もある

・OAK試験には、EGFR遺伝子変異陽性患者、ALK融合遺伝子陽性患者も参加した

・EGFR、ALK陽性患者は、これらに対応した分子標的薬の治療をすでに受けたことを参加条件とした

・中枢神経系への転移がある患者も、適切な治療を受けていれば参加可能とした

・PD-L1発現状態の評価には、VENTANA SP142抗体を使用した

・TC1/2/3は腫瘍細胞のうち1%以上がPD-L1陽性であることを示す

・IC1/2/3は腫瘍浸潤免疫細胞の1%以上がPD-L1陽性であることを示す

・TC2/3は腫瘍細胞の5%以上がPD-L1陽性であることを示す

・IC2/3は腫瘍浸潤免疫細胞の5%以上がPD-L1陽性であることを示す

・TC3は腫瘍細胞の50%以上がPD-L1陽性であることを示す

・IC3は腫瘍浸潤免疫細胞の10%以上がPD-L1陽性であることを示す

・TC0はPD-L1陽性の腫瘍細胞が1%未満であることを示す

・IC0はPD-L1陽性の腫瘍浸潤免疫細胞が1%未満であることを示す

・アテゾリズマブ群では、たとえ病勢進行が確認されても、治療継続が患者にとって有益であると担当医が判断した場合には、治療継続できる(beyond PD)こととした

ドセタキセル群の病勢進行後に、アテゾリズマブを使用することは禁じられた

・副次評価項目は無増悪生存期間、奏効割合、奏効持続期間、安全性とした

・もともとOAK試験は850人を集積するようにデザインされていた

・のちに、PD-L1高発現群(TC3/IC3)での全生存期間を統計学的に検証可能とするために、1,300人まで患者集積数を増やすようにプロトコール改訂を行った

・最終的に集積された患者数は1,225人だった

・さらに、全患者群およびTC1/2/3あるいはIC1/2/3群の全生存期間解析をいずれも主要評価項目とするために、2016年1月28日(「患者集積をすでに終えてから9ヶ月もあと!」)にプロトコール改訂を行い、全患者群解析のためのαエラーを0.3、TC1/2/3あるいはIC1/2/3群解析のためのαエラーを0.2と割り振った

・2014年3月11日から2014年11月28日までに、850人が集積された

・さらに375人が2015年4月29日までに集積された

・計1,225人のうち、609人がアテゾリズマブ群に、578人がドセタキセル群に割り付けられた

・アテゾリズマブ群609人のうち125人(21%)とドセタキセル群578人のうち14人(2%)が12ヶ月以上治療を継続した

・アテゾリズマブ群のうち40%がbeyond PDで治療を継続された

・今回解析対象とされた850人では、アジア人が全体の約20%を占めた(アテゾリズマブ群85人(20%)、ドセタキセル群95人(22%))

・EGFR陽性患者は全体の約10%を占めた(アテゾリズマブ群42人(10%)、ドセタキセル群43人(10%))

・TC3もしくはIC3の患者は全体の約16%を占めた(アテゾリズマブ群72人(17%)、ドセタキセル群65人(15%))

プロトコール治療終了後の後治療として、アテゾリズマブ群のうち19人(4%)、ドセタキセル群のうち73人(17%)はなんらかの免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けた

・同じく後治療として、アテゾリズマブ群のうち176人(41%)、ドセタキセル群のうち131人(31%)は化学療法を受けた

・無増悪生存期間は両群間に差がなく、中央値はアテゾリズマブ群で2.8ヶ月(2.6-3.0)、ドセタキセル群で4.0ヶ月(3.3-4.2)、ハザード比は0.95(0.82-1.10)、p値は0.49だった

・PD-L1発現状態別に解析したところ、TC3/IC3群でのみ無増悪生存期間はアテゾリズマブ群で有意に延長していた(ハザード比0.63(0.43-0.91))

・奏効割合は両群間に有意差なく、アテゾリズマブ群で14%、ドセタキセル群で13%だった

・奏効持続期間はアテゾリズマブ群で有意に延長しており、中央値はアテゾリズマブ群で16.3ヶ月(10.0-未到達)、ドセタキセル群で6.2ヶ月(4.9-7.6)、ハザード比0.34(0.21-0.55)、p値<0.0001だった

・TC3/IC3群における全生存期間はアテゾリズマブ群で大きく改善しており、中央値はアテゾリズマブ群で20.5ヶ月(17.5-未到達)、ドセタキセル群で8.9ヶ月(5.6-11.6)、ハザード比0.41(0.27-0.64)、p値<0.0001だった

・サブグループ解析では、おおむねどのサブグループでもアテゾリズマブ群が優れる傾向にあったが、EGFR遺伝子変異陽性患者群だけは例外だった(ハザード比1.24(0.71-2.18)