経過観察のためのPET検査

 リンパ腫では治療経過の観察にPETを使うのが標準とされていますが、同じことを肺がんでするのは好きではありません。

 なぜって、値段が高いからです。

 私自身は、

・リンパ節転移や遠隔転移の初期評価のために、どうしてもPETが必要なとき

・手術目的で外科に相談するとき

・CTでの経過観察中に、良悪性に迷う病変が出現したとき

にPETを行うようにしています。

 今後はさらに、

・再生検を要する状況で、複数ある病巣から最適な生検部位を決めたいとき

という項目が加わります。

 

 肺がんと食道がんの経過観察において、いきなりPETを使っても予後改善にはつながらないとの報告が、ミシガン大学のHealy先生からあったようで、大いに賛成します。

 PETは高価な検査であるにも拘らず、こうした用途で使用されることが少なからずあり、おそらく自施設内にPETができる環境が整っている病院だと安易に利用してしまうことがあるのでしょう。

 国民医療費抑制の観点からは、専門医として出来る限り自重すべきところです。

 ただし、この解析では「初回病期評価時」「通常のCT検査で異常をみとめたとき、その病巣の活動性を確認する目的」でのPET検査は評価対象から除外されており、こういった用途は正当化しているようで、こちらも賛成です。

 Healy先生はさらに一歩進んで、

「少なくとも治療後の経過観察期間においては、症状がなければPET検査を行う意義はない」

と断言しています。

 米国のMedicare(高齢者および障害者向け公的医療保険制度)では、患者一人当たり3回までしかPET施行を許可しないことになっているようです。

 十把ひとからげに回数を制限してしまうのはどうかという気もしますが、なんらかの条件で安易なPET検査施行に抑制をかけることは必要でしょうね。

 

PET Scan Use in Follow-up Care for Lung and Esophageal Cancer Shows Wide Variation Between Hospitals, No Impact on Survival

Mark A. Healy, Huiying Yin, Rishindra M. Reddy and Sandra L. Wong

J Natl Cancer Inst 108(7): djv429, 2016

背景:

 PETはがん患者の初回病期評価、再病期評価、治療効果のモニタリングにしばしば用いられる。さらには、生存期間の延長に寄与するかどうかのエビデンスがないにも関わらず、症状のない患者の再発・再燃検索目的でもしばしば用いられる。今回われわれは、肺がんと食道がんの患者を対象に、これらの用途で利用されるPET検査が生存期間延長に寄与しているかどうかを検証した。

方法:

 米国のSEERデータベースとMedicareのデータベースを用いて、2005年から2009年の間に新規発症し、2011年まで追跡可能な患者を抽出した。原発性肺がんの患者群(97152人)と食道がんの患者群(4446人)を抽出した。患者背景とがんの状態を分析し、リスク因子により調整した2年生存割合を検討した。Medicareのレセプトを利用して、PET検査歴を調べた(初回病期評価の目的、CT検査結果の確認目的の検査は評価対象から除いた)。2年生存割合を検討するに当たり、病院ごとに五分位階で層別化して解析した。全ての解析は両側検定の元に行った。

結果:

 原発性肺がん患者の22%以上、食道がん患者の31%以上が、CTや他の画像診断を行うことなく、いきなりPETにより再発・再燃評価目的の検査を受けていた。病院によって、PETの利用状況には統計学的に有意な差があった。PETの検査頻度が最低の病院と最高の病院での検査頻度をあげると、原発性肺がんでは1人年あたり0.05(標準偏差0.04)vs0.70(標準偏差0.44)であり、同様に食道がんでは0.12(標準偏差0.06)vs0.97(標準偏差0.29)だった。にも関わらず、これら病院間での2年生存割合を比較すると、原発性肺がんで29.0%(標準偏差12.1%)vs28.8%(標準偏差7.2%)で(p=0.66, 有意差なし)、食道がんで28.4%(標準偏差7.2%)vs30.3%(標準偏差5.9%)(p=0.55, 有意差なし)で、生命予後には差はなかった。

結論:

 がんの再発検索目的で行われるPET検査は病院によって施行頻度が異なるにも拘らず、その頻度と2年生存割合の改善には相関がなかった。再発検索目的でのPETの過剰使用が示唆される結果となった。