FDAがROS1陽性肺癌にクリゾチニブを承認しました。

 わが国では、クリゾチニブはALK陽性肺癌に対する分子標的薬の嚆矢として知られており、実地臨床で使われています。

 一方で、クリゾチニブはさまざまな分子標的を阻害することが知られており、METやROS1に対する治療効果があるとされています。

 米国食品医薬品局(FDA)は、2016年3月11日付けで、ROS1遺伝子転座を有する進行非小細胞肺癌に対して、クリゾチニブの使用を承認しました。

 根拠になっているのは参加者わずか50人の下記の臨床試験で、取り扱いとしては第I相試験です。

 効果を見れば納得できるのですが、第I相試験結果が承認根拠になっていること自体が驚きです。

 原則的には第III相試験、特例的にも第II相試験の結果を踏まえて承認されるのが常識だったことを考えると、隔世の感があります。

 わが国では、そもそもROS1陽性肺癌を診断することすら容易ではありません。

 研究機関で調べるか、自費診療で調べるか、LC-SCRUM Japan参加施設を受診して試験に参加するか、です。

 EGFR遺伝子変異陰性の患者さんが参加しているLC-SCRUM Japanの2016年2月末日までの解析では、RET陽性肺癌が2%、ALK陽性肺癌が4%、ROS1陽性肺癌が5%と、ALK陽性肺癌と同程度の頻度でROS1陽性肺癌が見つかっているようです。

 若くて煙草を吸わない女性の非扁平上皮・非小細胞肺がん患者さんにこれらドライバー遺伝子変異が多く見出されるようで、その点はEGFR陽性肺癌と共通する部分があります。

 ROS1陽性非小細胞肺がんに対するクリゾチニブの東アジア国際共同第II相試験 (OO 12-01)が行われていましたが、既に患者集積は終了し、わが国からも30人弱の患者さんが参加しました。

 試験結果は今年の米国臨床腫瘍学会で後藤先生が発表されるそうですが、近日中にわが国でもROS1陽性肺がんに対するクリゾチニブの使用ができるように(コンパッショネートユース)準備が進んでいるそうなので、診断体制を整えなくてはなりません。

 昨年の今頃、クリゾチニブの講演会で来日されていたイタリアのCappuzo先生が、

「とにかく、ROS1陽性肺がんに対するクリゾチニブはやたらめったら効く!」

とおっしゃっていたのを、いまさらながらに思い出します。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e791916.html

 EGFR, ALK, ROS1, RET, METと治療可能な分子標的が増えてきて、二次耐性変異例に対する治療薬も登場し、遺伝子診断の重要性は日に日に増しています。

 最後に、今回の承認の根拠となった報告の要約を記します。

Crizotinib in ROS1-rearranged non-small-cell lung cancer.

Shaw AT, Ou SH, Bang YJ, Camidge DR, Solomon BJ, Salgia R, Riely GJ, Varella-Garcia M, Shapiro GI, Costa DB, Doebele RC, Le LP, Zheng Z, Tan W, Stephenson P, Shreeve SM, Tye LM, Christensen JG, Wilner KD, Clark JW, Iafrate AJ.

N Engl J Med. 2014 Nov 20;371(21):1963-71.

背景:

 ROS1チロシンキナーゼをコードするROS1遺伝子の再構成が知られており、ROS1キナーゼ阻害薬の治療対象になりうると目されている。クリゾチニブはALK、ROS1、MET阻害活性を有する小分子化合物である。

方法:

 クリゾチニブの第I相臨床試験における拡大試験対象として、ROS1再構成が確認された進行非小細胞肺癌患者50人を組み入れた。患者はクリゾチニブを1回250mg、1日2回内服し、安全性、薬物代謝、治療による腫瘍縮小について評価された。ROS1融合の相手となる遺伝子は次世代シーケンサーを用いて同定された。

結果:

 奏効割合は72%(95%信頼区間は58%-84%)で、3人の完全奏効と33人の部分奏効を含んでいた。奏効持続期間の中央値は17.6ヶ月(95%信頼区間は14.5ヶ月以上で、上限は未確定)だった。無増悪生存期間中央値は19.2ヶ月(95%信頼区間は14.4ヶ月以上で上限は未確定)で、参加者の半数に当たる25人は解析時点でまだ増悪にいたっておらず、フォローアップ継続中だった。次世代シーケンサーで30検体を解析したところ、融合相手遺伝子座として既知の5座、新規の2座が検出された。ROS1再構成の種類とクリゾチニブの臨床効果に相関を認めなかった。クリゾチニブの安全性は、ALK陽性肺がんに対してクリゾチニブを使用する場合と同等だった。(1699人のALK陽性肺がん患者に対してクリゾチニブを使用した際の安全性評価において、頻度の高い有害事象として視覚障害、嘔気、嘔吐、下痢、浮腫、便秘、肝機能障害、疲労、食欲不振、上記どう感染、めまい、神経障害が報告されている)

結論:

 今回の検討では、クリゾチニブはROS1再構成陽性肺癌に対して目覚しい抗腫瘍効果を示した。ROS1再構成は、クリゾチニブがよく効く非小細胞肺癌としてALK陽性肺がんに続く2番目のサブグループである。